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ごあいさつ
CoSTEPの10年と今後

 社会の中で何か活動の輪を拡げることは、そう容易なことではありません。はじめからマスを相手にしようとすれば、「読み違い」のリスクが高いでしょうし、そうして仮に一時期成功したとしても、活動を定着、持続させることには多くの困難を伴います。私が北大に来る前に、ニューヨークのイサカに地域通貨の取材に行ったことがありました。そこで代表者に伺ったのは、地域通貨を地域に根付かせる手段として、彼らは派手な運動を一切しておらず、一軒一軒家を回って、どれだけ時間がかかろうとその活動を理解してもらおうとしているということです。時代錯誤な方法にも見えますが、活動を一過性のお祭りに終わらせないための基本的姿勢はこれだと、私はいまだに思っています。

 地域通貨が一定の価値観に基づいているように、科学コミュニケーションにも一定の価値観があります。はじめから普遍的価値を持つように主張するのは間違いで、危険ですらあります。そのよさを理解してもらい、価値観が共有してもらえる範囲を拡げる活動、運動にほかなりません。

 ではそうした運動の一つであるCoSTEPは、これまで自ら掲げる新しい価値観の普及に成功してきたのでしょうか。活動が始まって10年目で、そのような評価をくだすのは、まだ早いかもしれません。しかし、私が代表を仰せつかって、これまでの活動をより深く知って確実に言えることは、そして、この記念集に寄せていただいた200数十もの貴重なコメントを拝見して強く思うことは次のようなことです。すなわちCoSTEPは、すでに賛同いただいているみなさんのご協力を得る中で、新たに出会うお一人お一人(受講生のみなさん、講師や共同プロジェクトのみなさん、地域のみなさん)との関係づくりを大切にし、活動の中でそれを育むことができたであろうと。幸いCoSTEPの活動は平成26年度の文部科学大臣表彰科学技術賞を授与されるという栄誉を得ました。もしこの受賞が、普及成功の一つの証と言えるとするなら、その成功の主たる要因は間違いなく、CoSTEP歴代スタッフ、そして生みの親である杉山先生の、この「一人一人との関係を大切にする」という姿勢にあったと言えます。

 もっとも、科学コミュニケーション活動が今後さらに普及して行けば、それは新たな理念や価値観を生み出す可能性があります。CoSTEPももちろん、そうした可能性にオープンでなければならず、人を大切にする姿勢は維持しながらも、今後、自らの価値観を捉え直し、どのような運動主体となることが適切なのかを吟味していく必要があります。この記念集、記念行事を通じてこれまでの活動をみなさんと振り返りながら、同時にこれが、新たな科学コミュニケーションの形をみなさんと模索する機会となればと思います。

2014年7月

CoSTEP 代表
北海道大学大学院理学研究院教授
松王 政浩