2014年04月05日

活動報告

シンポジウム「空想と知識の境界を越えて~世界を刺激する絵解きサイエンス」を開催しました

 3月8日(土)に学術交流会館小講堂で、漫画・グラフィックとサイエンスをテーマにしたシンポジウムを開催しました。

 

「科学を伝える」ということをその一部分とする科学技術コミュニケーションにおいて、漫画やグラフィックのもつ特徴や役割はどのようなものなのでしょうか。空想と知識、正確さと分かりやすさが一体となった表現は可能なのでしょうか。ゲストにお迎えしたのは、森川幸人さん(グラフィック・クリエイター)、はやのんさん(理系漫画家)、あさりよしとおさん(漫画家)。「絵による表現」と「科学」という共通点を持ちつつ、異なるスタイルで御活躍の御三方です。

 

前半はそれぞれの方に、「表現」と「科学」に携わるようになった経緯や、お仕事の難しさや面白さについてお話していただきました。

 

 

科学+子ども向けではない絵本+擬人化 ―森川幸人さん

森川さんは生命科学や人工知能をテーマにした電子書籍を多数発表しています。森川さんの少年時代は日本が科学技術で豊かになっていった時代。当たり前のように科学少年でしたが、写生をほめられて文系へ進むことになります。その後、油絵、デザイン、絵本、CG、ゲームと紆余曲折をへて、ある絵本と出合います。「大人のための絵本」とも呼ばれるエドワード・ゴーリーという作家の絵本です。絵本は子ども向けじゃなくてもよいと気が付き、昔から好きだった科学を題材にした絵本がうまれました。

 

森川さんの絵本には、擬人化された物質や生物、現象が登場します。これは、子どもの頃は誰でも感じていた「モノがしゃべる」という感覚に基づいたもので、森川さんは今でもその感覚が続いているそうです。つまり擬人化は分かりやすく伝えるためのテクニックではなく、森川さんにとって自然な描き方なのです。

 

 

研究者とのやりとりから生まれる正確さ ―はやのんさん

はやのんさんは大学で物理学を学んだ後、「理系漫画家」として研究者とその研究を紹介するお仕事をされています。現在連載中の『キラリ研究開発』は日刊工業新聞上に掲載されており、専門的な知識を持つ読者も多いことが特徴です。

 

はやのんさんの作品の特徴の一つは、実在の「先生」が登場することです。科学に関する知識は、自然に存在するものではありません。知識や技術をもたらしてくれた研究者を描きたい、という強い思いがはやのんさんの作品には込められています。

 

さらに、大切にしているのは「簡潔・正確・有益な情報を面白く伝える」ことです。科学技術に関する題材なので、間違いを伝えてしまうことは許されません。取材先に確認をするのはもちろんですが、取材先の言うことを鵜呑みにせず、別の研究者に内容をチェックしてもらうこともあるそうです。

 

 

納得で終わらない面白さを見つける―あさりよしとおさん

あさりさんは26年間つづく「まんがサイエンス」や、数々の科学、SF漫画の作者です。さらに現在は有志で立ち上げた会社で民間ロケットの開発・打ち上げに挑戦しています。

 

子どものころに読んだ科学漫画に影響されて、自らも科学漫画を描いているあさりさんですが、普通の人は別に科学を好きでもなんでもない、と切りだされました。そして単なる納得で終わる「分かりやすい正しい説明」ではなく、面白さと興味が続く「面白いきっかけ」にするは、誰もが持っている体験や五感に落とし込むことが漫画ならでは表現になる、とお話されました。

 

また、自身のロケット開発での経験も例に挙げてお話されました。成功するより失敗したことの方が得ることが多く、実に面白い。漫画でも、読み始めの理解がコマを進めていくうちにひっくり返ってしまうというストーリーにすることで、読者に失敗を疑似体験させることができるのです。

 

 

後半は、専門家等との関係や、表現の難しさなどについてパネルディスカッションを行いました。

 

専門家とのコミュニケーション

森川さんの『ヌカカの結婚』に代表されるような作品は、様々な生物の生殖のふしぎがテーマとなっていますが、専門家から間違っている、と細かい部分で「おしかり」を受けることもあるそうです。しかし、森川さんは自身の作品と、正しいことや詳しいことを知る専門の本の役割は異なっていると言います。素人である自分が、素人に伝えられることはまずは面白さである、と自らの作品を位置づけています。

 

あさりさんは、科学的な知識に基づいた正確さにこだわりを見せつつも、それだけでは面白くはならないと言います。研究者と交流したり取材して、研究者も気が付いていない埋もれている面白さや、研究と日常の結びつきを見出して描くのが漫画家の仕事だろうとのことでした。

 

はやのんさんの「サイエンスアウトリーチ」としての漫画制作は「伝えたい」という研究者、「安く早く」という編集者、「自分の描きたいことだけを描く」という漫画家では成り立ちません。読者、研究者、広報担当者、編集者のそれぞれ異なる要望を踏まえて、全体のバランスを保って制作する必要がある、とお話されました。

 

表現という仕事

これらの違いは仕事の違いにも起因しています。森川さんは自社から作品を発行していますが、あさりさんは出版社から、そしてはやのんさんはさらにクライアントがいるお仕事です。はやのんさんはお仕事の中で、研究者がまだ公にしないで欲しいという情報に触れることもあります。そのため研究者との信頼関係を大切にしています。

 

また、出版社には表現に関する規制があり、描いてはいけないこともあります。あさりさんもこういった規制はもちろん順守していますが、一方で題材に関してタブーになることは問題であるという意識もあります。それに基づき、90年代の『ラジヲマン』では、原子力の危険性をあまりにタブー視する空気をブラックユーモアとともに描いています。

 

森川さんにも原子力に関する作品があります。原発事故の直後に発表した『原発って、なに?』という電子書籍です。これは原発の原理や放射線について、まずは基礎的なことを知ろう、という意図で作成したものです。しかし、原発推進派であるという批判も受けてしまいました。

 

はやのんさんも講演の中で触れていましたが、漫画というと楽しい仕事、というイメージも持ちがちですが、それだけではない、ということが、パネルディスカッションで浮き上がってきました。漫画のもつ面白さ、興味や関心を刺激する力の強さゆえに、社会に対して作品を出していくことには責任があり、多くの反応があるようです。

 

 

「絵解き」でまとめ

シンポジウムの最後には、これまでのお話のまとめや修了生へのメッセージを即興で描いていただき、その様子をビデオでスクリーンに投影しました。プロの筆さばきに会場からはどよめきがおきました。

 

はやのんさんの作品。研究者のコメントを受けて何度もねばって直すことで、正確さが生まれることを描きました。絵の中のはやのんさん、大変そうですね・・・ ちなみにはやのんさんは絵を描く時に文字から書き入れるそうです。

 

あさりさんは、女の子と「ロケット」を描きました。そもそもミサイルとロケットは技術的には同じものですが、それにどのような絵を加えるかで、同じものがロケットにもミサイルにも見えるという表現の効果と表現者の役割を示していただきました。

 

森川さんは、自身の経験をふまえて、壁にぶつかったら別の道を探してみる、そうしたらまた少しだけ進むことができるかもしれない、というメッセージを描きました。CoSTEP修了生にとってはまたとないメッセージになったのではないでしょうか。

 

 

シンポジウムの最後には、CoSTEP代表の杉山さんからも、科学と漫画の歴史を少し紐解くお話がありました。ダーウィンやアインシュタインなどの社会に大きなインパクトを与えた研究や科学者は、風刺画・漫画として描かれることでさらに大きな社会の話題になってきました。会場の外に用意されたボードには、多くの方が今回のシンポジウムの感想や、ゲストの方へのメッセージをイラストで寄せていただきました。

来場者の皆様、そしてゲストの皆様、ありがとうございました。