2014年12月13日

活動報告

第78回サイエンス・カフェ札幌「つめたい海が氷をとかす~南極の海流と気候変動~」を開催しました

2014年11月23日(日)16時から、紀伊國屋書店札幌本店前インナーガーデンにて、第78回サイエンス・カフェ札幌「つめたい海が氷をとかす~南極の海流と気候変動~」を開催いたしました。日に日に寒さが厳しさを増す中、クリスマスツリーが設置された会場へ、約130名の方にご来場いただきました。

 

ゲストの青木茂さんは、北海道大学低温科学研究所の准教授です。専門は海洋物理学、極域海洋学で、南極の海洋観測と研究を主に行っています。「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」第5次評価報告書に主執筆者として関わり、気候変動の南極海への影響について執筆しました。

 

 

南極の氷をとかすのは?

 

南極と気候変動に市民の方がどのような認識を持っているかを知るために、サイエンス・カフェの開始に先立って会場の周囲ではアンケートが行われました。「南極の氷をとかすものは? 1.空気、2.水、3.愛」という選択肢が描かれたアンケートボードをCoSTEP受講生が抱え、紀伊国屋に出入りするお客さんに「北海道大学の学生です。アンケートをお願いします」と声をかけると、次々とシールが貼られました。「ご回答ありがとうございます。16時からのサイエンス・カフェにもぜひご来場ください」という宣伝も忘れません。

 

(写真:CoSTEP本科生の池田貴子さんと元木一喜さんが中心となりデザインしたアンケートボードに、どんどんシールが貼られていきます。)

 

16時にサイエンス・カフェが始まった時点ですでに100名近い方にご来場いただき、スタッフは慌てて椅子の数を増やしました。

 

さて、アンケートボードの結果を見てみると、「空気」・31人、「水」・48人、「愛」・28人という結果になりました。

 

 

「『愛』に入れた人がずいぶん多いんですが・・・・」とファシリテーターを務めるCoSTEP本科生の新谷双葉さん。なにかの映画の影響かもしれませんね。

「空気で氷がとけるところもあるんですが、南極の氷のほとんどは水がとかしています」と青木さんが解説してくれました。南極大陸の上に雪が降り積もって作られた氷を、氷床と言います。長いスケールで見ると、氷床は陸地から海へじわじわと流れ出ていき、海の水によってとけてしまします。南極大陸の沖合には、水温が1度から2度程度の深層水という海水があり、これが南極の氷をとかしています。私たちの感覚からすれば冷たいはずですが、海水はマイナス2度程度で凍るため、1度から2度程度の冷たい水でも氷をとかすことができます。

青木さんたちの研究チームは南極の氷がとけるしくみを詳しく調べるために何度も南極に航海しました。南極に向かうためには、南極大陸の周りを囲むようにして流れる「南極周極流」という海流を横断しなければなりません。波やうねりがつよく、船は大きく揺れます。しかし南極周極流を超えると、そこにはおだやかな南極の海が広がっているのです。

青木さんたちは南極付近の海の変化を知るために、船から測定機器をワイヤーで吊るして沈め、水温や酸素同位体比や塩分などを調べました。調査の結果、南極深層水のコア(温かい水の中心)が浅くなり、かつコアの水温が上がっていることがわかりました。また近年の人工衛星を使った観測から、氷床の流出速度が以前よりも上がっているようだとも言われています。

 

 

休憩を挟んで後半のカフェが始まりました。

 

冷たい水の「ホット」な研究

 

氷山と海氷の違いを知っていますか? 氷山は元々大陸の上に降り積もった雪でしたが、海氷は海が凍ってできた氷です。

南極大陸から海に向かって冷たい風が吹くと、海水が凍ります。海水は凍るときになるべく塩を追い出すようにして凍るため、塩の濃い海水が生まれます。新谷さんも「スポーツドリンクを凍らせると、凍っていない部分が濃くなるのと同じことですね」と相槌を打ちました。

こうして海氷がつくられると、冷たく重い海水が海に深く沈みこみ、南極底層水という流れを生みだします。つまり南極で海氷が作られると、深い海に「冷たさ」が供給されるということです。

1990年代と2000年代以降を比べると、南極の近くの深い海の温度が上がっているようです。その原因はまだよく分かっていませんが、おそらく冷たく重い海水の沈みこみが以前よりも少なくなったせいではないか、と推測されています。

「この辺が、盛んに議論されているホットな話題です」と青木さん。南極なのに何度も「ホット」という表現を繰り返していました。

 

 

地球温暖化は海洋温暖化

 

地球が温められて蓄積した熱エネルギーは、大半が海洋に蓄積しています。大気に蓄積した熱エネルギーは地球全体の中で見ると微々たるものです。温度でなくエネルギーの観点から見ると、地球温暖化は海洋温暖化とも言えます。2000年以降に気温の上昇が鈍っているといわれていますが、温暖化が起きていないというわけではありません。地球のどこに熱が蓄えられているかをきちんと把握する必要があります。

「私たちは気温の変化ばかりに目が行ってしまい、海や雪氷の変化は普段目が行かないけれど、目に見えないところの変化にこそ目をやってほしい」と青木さんは締めくくりました。

 

続いて質疑応答が行われました。時間内に取り上げられないほど多くの質問をいただいたため、すべてに回答することができず、スタッフ一同心苦しい限りです。一部を要約して掲載します。

 

Q.西南極のコアが浅くなっている理由はなんですか?

A.おそらく風の変化が影響していると思います。まだ解明されていないので、がんばって研究したいと思います。

 

Q.南極で苦労したことはなんですか?

A.越冬は楽しかったんですが、生野菜が食べられなくて困りました。

 

Q.広大な海で採水するのは大変だと思いますが、何か所くらい採水しますか?

A.1日1点くらい、全部で30点くらい観測します。ときによってはさらに多く観測します。

 

Q.大西洋の赤道付近で作られた温かい水が、高緯度に輸送され、ヨーロッパなどで高緯度なのに暖かいという状況を作っています。深層循環が弱まることによって表層部分の流れも弱まると考えるのであれば、気温上昇が高緯度地域の気温低下を招く、と考えてよろしいでしょうか?

A.急激に気温が低下するというのはおそらくないだろうと言われています。南から来る水も温まっています。グリーンランドの一部では気温が下がり気味のところもありますが、ヨーロッパ全体で気温が急激に低下することはないと思います。

 

Q.先生が南極の研究をするきっかけは何でしたか?

A.南極の研究をする前は北太平洋の研究をしていました。南極の研究をする極地研究所に海洋の研究の公募があったため、研究を始めました。偶然の巡りあわせでした。

 

Q.どうやったら南極観測隊になれますか?

A.南極に行きたいガッツがあればなれます。募集中です。

 

最後に青木さんからは「サイエンス・カフェで何を伝えるべきかを考える中で、将来どんな研究をしていくかを考える機会にもなりました」との感想をいただきました。

 

青木さん、そして会場にご来場いただいたみなさん、ありがとうございました。

 

 

(内山 明 2014年度CoSTEP本科(対話の場の創造実習)/北海道大学大学院農学院修士課程1年)