2015年02月01日

活動報告

第80回サイエンス・カフェ札幌「書を捨てよ 海へ出よう ~洋上のキャンパス“おしょろ丸”とともに~」を開催しました

2015年1月25日(日)午後4時。「カランカラーン」と大きなハンドベルの厚みのある音が会場に響き渡り、第80回サイエンスカフェ・札幌「書を捨てよ 海へ出よう~洋上のキャンパス“おしょろ丸”とともに~」が始まりました。
 
(船内で食事を知らせるベル)
ゲストは、北海道大学総合博物館・助教の藤田良治さんと、水産学部附属練習船二等航海士・助教の星直樹さんです。ファシリテーターを務めるのは水産学部出身でCoSTEP博士研究員の出村沙代さんです。
 
映像学がご専門の藤田さんは、北大の総合博物館でさまざまな「映像標本」を作るため、おしょろ丸の航海に4回乗船し、「洋上のキャンパス」の姿を映像に収めています。星さんは、年間180日間に及ぶ航海で、航海士として船の安全に気を配りつつ、教員としても学生の教育に力を入れています。
 
前半は、藤田さんと星さんが、スライドや藤田さんが撮影した未公開映像をふんだんに用いながら、研究のお話が進みました。
 
「映像標本」としてアーカイブする
 
おしょろ丸は、昨年7月に5世へと代替わりをしました。1世から3世までの船の映像は残されていません。記録をとっておかないと、おしょろ丸4世がどういう船だったのか、船上ではどのような研究をしているかがわかりません。そこで、藤田さんは実際に何度もおしょろ丸4世に乗船し、船の全体像、甲板、食堂、機関室といったエリアと、学生や研究者がどのような実習、講義を受けているのかその様子を映像で撮影しました。
このように撮りためた映像をアーカイブとして保存し、研究、広報、教育、展示に利用しています。
 
(北大総合博物館助教 藤田良治さん)
 
船乗りのイメージ
 
続いては、航海士の制服で颯爽と登場した星さんが、事前に来場者にとったアンケート結果を元に「船乗り」について語ります。
 
(北大水産学部附属練習船二等航海士・助教の星直樹さん)
 
北大出身の星さんは、学生時代に応援団員でした。今の星さんと同一人物とは思えないパーマがかった長髪の写真が出ると、会場から「おー!」というどよめきとともに、笑いの混じる反応も。やや長めの学生時代を過ごした星さんですが、水産学部卒業後、特設専攻科(当時)で航海士の免許を取得しました。2008年におしょろ丸4世の航海士となり、現在は代替わりした5世に乗船しています。
「航海士のイメージは?」のアンケート回答で多かったのは、「ロマンチスト」と「ヒゲとパイプ」でした。
星さんは「眠れない夜に星を眺めることもあるから、ロマンチストかも」と笑いつつ、現在では女性も航海士として活躍していると紹介してくれました。
 
 
おしょろ丸の役割
 
おしょろ丸には、学生や研究者が乗船します。学生は、底引き網の一種、トロール網を使って操業実習、「ブリッジ」と呼ばれる甲板で航海当直や実際に舵を握って船を操縦する実習、観測実習、機関実習など、学ぶことは多岐にわたります。
 
藤田さんと星さんは、たて縄実習の映像を見ながら、釣れたイカの解剖の説明(解剖後は鮮度の学びのため、実食で確認)や、船上でたった一人で撮影をする際のエピソードなどを紹介し、時間がどんどん過ぎてゆきました。
 
 
常に学生には「能動的に動きなさい。自ら動く人間になれ」と指導している星さん。ある日、学生が「飛ぶイカ」を発見します。イカが飛ぶことは以前から知られていましたが、実際に飛んでいる様子を捉えたのはそのときが初めてでした。「“海”というフィールドに出たからこそ発見された成果で、学生たちの自信につながりました」。
 
 
「科学は見つけられるのを待っている」
 
海を熟知している星さんの言葉です。海にはまだまだ解明されていない科学があります。
星さんの指導を受け成長する学生や、的確なサポートで研究試料を採取していく研究者たちが、次にどんな発見をするのか楽しみです。
 
(手前:ファシリテーターの出村沙代さん。後ろ:質問カードの多さに悩むスタッフ)
 
当日は、寒い中、立ち見の方を含め約130人のお客様が参加してくださいました。
アンケートでは、「おしょろ丸の様子などが身近に感じられてよかった」「映像のおかげで船や航海のイメージがよくわかった」「海洋国家としての自覚を持つ必要性を感じた」など、水産学部やおしょろ丸を知らない方でも、映像を通して理解が深まった様子が伺えました。
 
ご来場、ありがとうございました。
 
お二人のご研究についてはこちらもご覧ください。(藤田良治さん星直樹さん
 
 
 
質問タイムでは、時間の都合上、数件しか取り上げられませんでした。興味深いご質問をたくさんいただきましたので、カフェ後、ゲストのお二人にお答えいただきました。
※藤田さんからの回答は青色、星さんからの回答は緑色で示しています。
 

【藤田さんへの質問】

船上撮影は、作業のさまざまな活動や人の動きを把握する必要があると思います。どのようにして習得されたのでしょうか。また研究者、研修者にカメラを向ける場合もありますか?

船上での撮影は、おしょろ丸が初めてでした。企画展示やサイエンスカフェで上映した映像撮影に向けて、事前に乗船し活動全般の流れや乗組員一人一人の役割を把握しました。撮影場所や電源の状況などもその時に確認しています。撮影に関しては、事前に乗船者全員に映像の使用目的を説明して撮影許可を得ています。

 

撮影した映像の整理・分類・保存方法と、長期保存に適したメディアを教えてください。

映像は、すべてデジタルデータで保管されており、ハードディスクに保存されています。大きなジャンルごとに分けており、日付と適切なタイトルをつけて整理しています。

博物館には、どうやって標本を保存するべきかを研究する分野があります。映像などのデジタルデータは、長期保存に向かないとされています。現段階では、保存容量が大きく、省スペースで済むハードディスクが主流のようです。

 

 

【星さんへの質問】

応援団の着物は洗っていますか?

僕は一度洗ったらバラバラになったので、その一回きりです・・・。

 

おしょろ丸4世は再利用していないのですか?

31年間、12,000人を超える学生を乗せ続けた4世は、60名以上を乗せて実習を行う事が難しくなりました。しかし、普段より乗組員が丁寧に手入れをしていたこともあり、この春から改装工事を終え、民間の調査会社で「第一開洋丸」として第二の人生を歩みます。どこかの港で出会ったら、声をかけてあげてください。

 

ほかの国立大学(海洋大、長崎大、鹿児島大)の練習船と比べて「おしょろ丸」の特徴は?また大学ごとの役割分担はあるのでしょうか。

おしょろ丸5世は、今までの「効率的に獲る」という「水産学」から、「持続的な利用」や「環境保全」といった「水産科学」への流れに伴い、そういった学生(初修学生)の乗船や純粋に船乗りになるのではなく海洋の科学者になる学生にも対応する事を考えています。そのため、洋上のキャンパスとして圧倒的に「揺れない船」を目指して建造しました。船は揺れるもの、確かにその通りですが、そのことで現場を見る事無く、船を敬遠してしまうことを何とか避けようとしています。そのための減揺装置(ビルジキールの大型化、アンチローリングタンクや格納型のフィンスタビライザー)を設けています。また、プロペラの回転もディーゼンルエンジンではなく、モーターで回すなど、電気推進により圧倒的な静音と振動の少なさを手に入れました。これは音響機器を使用する研究に対し雑音を大幅に低減し、顕微鏡での観察(同定)や撮影に支障をきたしていた振動を大幅に低減する事を意味します。

 

練習船(調査船)を持っている大学はそうたくさんはありません。そのため、それぞれの大学で文部科学省の教育関係共同利用拠点に申請し、他の大学に利用してもらえるようにしています。その中で、それぞれの大学の研究対象となっている海毎に分担しています。

長崎大学:東シナ海、日本海および有明海における洋上教育のための共同利用拠点

鹿児島大学:熱帯・亜熱帯水域における洋上教育のための共同利用拠点

おしょろ丸:亜寒帯海域における洋上教育のための共同利用拠点

また、東京海洋大学、下関水産大学校は特設専攻科を残し、航海士・機関士の養成も行っています。その他、広島大学、三重大学も練習船を持っています。各大学のWEBをご参照ください。

 

ユニークな海の研究がありましたらご紹介ください。

海では物理・化学・生物・地学全てが複雑に絡んできます。物理でも海の海洋構造を調べる、そのための船を造る、物凄い圧力に耐える機械を作る、サイエンスカフェでも言いましたが人が月に降り立っている現在でも海には人間がたどり着くことも、どうなっているか見ることも出来ない場所があります。研究対象は無限です。「え?こんなことを!?」というアイデアを待っています。三重大には船に限らず「乗り物酔い」について研究されている先生がいます。練習船に乗船して、船酔いで苦しんでいる学生にニヤニヤしながら近づき脳波を調べたりもしているそうですが、その先生も船酔いが酷いそうです。

 

航海士をやっていて楽しいこと、つらいことを教えてください。

海の凄さを見せつけられたときは楽しいと感じる時もあります。行ったことのない港に行くときはワクワクします。船が函館に向かうときは大概楽しいです。

つらいのは家族と別れる事でしょうか。両親を含め、家族との今生の別れには立ち会えないものと覚悟しています。

 

航海中、漁をした魚は食べたりするのでしょうか?

基本的にはサンプルとして処理をすることが大前提ですが、食べないと分からない事もあります。また、データ処理や記録を取った後のサンプルを、美味しく頂くのは獲った生物に対する礼儀ですよね。

 

世界中を船でまわったりもするのでしょうか?

おしょろ丸は外航船として造船・登録をしていますので可能ですが、練習船ですので乗船学生(学科や調査員など)の航海計画によります。以前はインド洋にもハワイィにも行っていましたが、近年では釜山や麗水(韓国)南はグアム、その他はアラスカ(ダッチハーバー、コディアック、ノーム)がメインです。

 

長期にわたる乗船のため、例えばアラスカなどで食料などを補給したりするのですか?

船としてでしょうか?することもありますが、ほとんど函館で積み込んだものです。

個人としてはアラスカのビールやワイン、お菓子やアイスクリーム、乳製品(牛乳やヨーグルト)はみんなが勇んで買いに行きます。

 

どうしても船酔いをしてしまうのですが、皆さんどのように対処しているのですか?

5世になってからはひどい船酔いの人はあまり見かけませんが、どうしても船酔いする人は薬を飲みます。個人差はありますが「アネロン」は高いですがよく効くと聞きます。僕が学生の時に調査のアルバイトで19トンのイカ船に乗った際は、どうする事も出来ず、吐かない(酔わない)方法ではなく、酔った時にどうするのが良いかと考え方をシフトしました。吐くとすごく楽になるのですが、吐くのがそもそも辛いので何を食べたら楽に吐けるかを考えました。柑橘系のジュースやおにぎりから、麺類等色々試しましたが、乳飲料(通常のカルピス)が最適である事を突き止め、笑顔で吐いていました。

 

映像の中でブリッジに神棚が見えましたが、外国の船には十字架や祭壇などがあるのでしょうか

どうでしょうか?しかし、昔は広い広い海で嵐や大時化に遭遇したら、もはや神頼みをするしかなくなることもあったと思います。外国漁船では、船酔いや酒酔いでくたばってしまう事を「サンタマリア」と言います。色んな船に乗ってみてみたいです。外国の船には舳先に女神のヘラを模した像が付いていることがよくあります。日本の「漁船」にはほぼ間違いなく神棚はあります。

 

船の上、海の上という普通いられないような環境にいて、ブルーな気持ちになりますか?それとも平常心を保っていられますか?

出港してしまうと、やらなければならない事、次の港のへの希望でそれどころではなくなります。問題は長期航海の乗船の前々日辺りからでしょうか?今でも出港ブルーになります。

 

食事風景のとき、学生が軽装なのですが、船内は暖かいのですか?

空調は広い区画で大型の物を使用しています。水面付近にある学生の居室(ベッドルーム)は外板から海水温の影響を受けて涼しく(冷たく)なりますので、それに合わせると、学生教室(食事・課業)の場はどうしても暑くなることが多いです。藤田先生の乗船した航海では北洋航海の水温は5℃で非常に寒く、逆に小笠原の航海では水温は20℃を超えるので、船内は冷房を使用していました。

 

船内からのインターネットアクセスは可能ですか?

沿岸では携帯の端末を使っていますが20km離れると厳しいですね。5世からは遠洋でも使用が出来るV-SAT衛星も使用していますが、上り下りともベストエフォートで500kbpsです。さらに月額で51万円です。

 

海上で地震を経験されたことはありますか?

3.11の時はまさに函館出港時で、グラグラっとしたのを覚えています。岸壁での見送りの方々に避難するように呼びかけ、すぐに出港しました。洋上で使用する無線(VHFと言います)で大きな地震があり、太平洋は危険だと情報が入りました。津波警報から大津波警報に変わり、津軽海峡を太平洋へ行く予定を変えて直ぐに日本海側へ向けました。しかし、遠い洋上では気が付かないと思います。

 

不慮の事故対応、および急患の場合の対応は?

一般的には船員法で、船員の健康管理や保健指導、作業環境衛生、居住環境衛生、食料と用水の衛生保持などを行う有資格者(衛生管理者)を置かなければならない事になっています。おしょろ丸では航海士・機関士の複数名が「衛生管理者」の資格を有していますが、現在は前職で看護師をしていた三等航海士が対応しています。もちろん看護師であっても船内でできる事には限りがあります。看護師での判断が難しいときは陸上の指定された病院等に対し、無線通信で患者の病状などを知らせ、専門の医師から、その患者に対する救急処置等の指示や医療助言を受けられる制度があります。しかし、何よりもけがや事故は未然に防ぐことが船では非常に大事です。

 

どうして海に出て航海士になろうと思ったのでしょうか?(動機は?)

学生時代におしょろ丸に乗ってこれは凄い!と思ったからです。大学に入るまでは北大が船を持っていることすら知りませんでした。先輩からは水産なら絶対に船に乗った方が良いと言われていましたし、何より船に乗っていた当時の専攻科生(CADET=士官候補生)は恰好良かったです。

 

乗組員になるには、どうすればよいですか?(資格など)

乗組員でも航海士・機関士などの士官になるためには「海技士免状」が必要です。養成機関(海技大学校等)に入るのが一番近道ですが、部員からたたき上げる事も可能です。また、最近では民間の会社(日本郵船・川崎汽船・商船三井)で自社養成と言う事を国土交通省から認められ、一般大学(水産系に限らず)から入社して海技免状を取得させ航海士・機関士として育てることも可能になりました。おしょろ丸の航海で航海士になりたいと感じ、航海士になったOBが実際に今年から出始めています。

 

現在は、北大で航海士の免許は取れないのでしょうか?

大学としては養成コースを持っていません。しかし、乗組員として乗船し、試験を受け航海士の免許を取ることは可能です。海技士免状を取るためには乗船履歴が必要になります。それには航海士でなくても良いですが、乗組員として船に乗ることが必要になります。おしょろ丸は航海士ではない乗組員も多くが海技免状を取得しています。

 

どのような人に乗組員を目指して欲しいですか?

現在は日本人の船員が減少傾向にあります。しかし、海の魅力や重要性が減っているわけではありません。いろんな視点を持った人に、その中でも海の魅力や重要性を広く伝えられる人に乗ってもらいたいです。

 

イカが空を飛ぶという記事を見たことがありますが、どんな風に飛んだのですか?

ジェット(漏斗から水を勢いよく吐出し)推進で飛び出し、耳をきれいに広げ、足も揃えてきれいに広げて(足に泳膜という膜を持っていてこれもきれいに広げています)滑空し、30m以上も飛び、入水ではまたきちんと入水体制を取っていました。

 

現役北大生です。札幌キャンパスでは、四季折々の美しさがあります。洋上のキャンパスおしょろ丸で見られる美しい光景を教えてください。

満点の星空、沈む夕日やきれいな朝日は格別です。見渡す限り360度が水平線と言うのも洋上ならではと思います。白夜の洋上で流氷を遠くに北を通り沈まぬ太陽もきれいでした。しかし、実は長期航海から帰ってきた時の函館山が一番好きです。新緑の萌える夏や紅葉の秋、雪の綺麗さもなく雲のかかった何でもない「その山」が何よりも美しいと感じます。

 

【両ゲストへの質問】

最近○○女子という言葉が流行していますが、船系の女子は何女子が似合いますか?

毎日、同じ生活環境なので特殊女子とも思えるのですが、普通女子でも問題ありません。あえて言うなら、船に乗るには海が好きなほうが良いので「シーガール」とでも名づけましょうか。

「シーガール」良いですね。短期の航海ではみんなお化粧もして変わらぬ生活をしていますが、長期になると化粧もしなくなるし、周りも内面を見るようになります。男女とも人間性を見抜くようになります。普通に「船乗り女子」くらいしか思いつきませんが・・・。

 

大学・水産学部が船を持っていることの意味は?

海の実証的な教育研究を行うには、現場を知る必要があると思います。大学が船を管理し、活用することで大学や学部にも責任感が生まれ、海に対する意識も変わってくると思います。

東京大学はセンター化を行い、調査船をJAMSTEC(海洋研究開発機構)へ移管しています。効率的に調査船を運航するためには良いのかもしれません。しかし、調査船ではなく練習船としての学生教育を考えた場合には、大学それぞれの特色や教育を活かすことは出来なくなると思います。北海道大学として「フロンティア精神」「国際性の涵養」「全人教育」「実学の重視」を旗印に学生教育に取り組んでいきます。

 

社会にどのように伝えていきたいですか?

おしょろ丸を社会へ伝えるには、数ある手法があるとおもいますが、実際に乗船することが良いと思います。ただし、時間や費用、制度など制約もあるので映像をつかった情報発信は、有効だと考えます。

今回はサイエンスカフェと言う形で社会に伝えることが出来ました。しかし、僕一人で伝えられることには限界があります。一人でも多くの学生に乗船してもらい、海の凄さを感じてもらえれば色んな形で広がっていくのではと考えています。今回、共演して頂いた藤田先生も、サイエンスカフェで僕をゲストで呼んでくれたファシリテータの出村さんも実際に乗船しておしょろ丸の、海の魅力を感じて、僕一人ではできなかった社会への伝え方を実践してくれています。この輪をどんどん広げて色んな伝え方が出来ればと思います。