2015年12月04日

授業レポート

「社会システム理論から見たトランスサイエンス」11/5宮台真司先生の講義レポート

間冬子(2015年 選科B)

 

授業で学ぶ「理論」と実社会で行う「実践」をどのようにつないでいくことができるのか。社会システム理論とトランスサイエンスをテーマとした講義から、私たちが科学技術コミュニケーターとして今後活動していくときに大切なことが見えてきました。

今回は社会学者の宮台真司先生(首都大学東京)から社会システム理論と先生がこれまで行ってきた社会的な実践についてお話しいただきました。宮台先生は社会システム理論に基づく理論研究と、フィールドワーク・社会的実践のいずれの分野においても精力的な活動を続けてこられた、日本でも稀有な社会学者です。

 

トランスサイエンスをなぜ問うのか?

トランスサイエンスとは科学で問うことができるが、科学で解決できない問題群のことです。科学で解決できないのならば、これらの問題は何で解決するのでしょうか?

そのことを理解するために、宮台先生は社会システム理論の視点から、「科学と社会(学)はどちらが<大きい>のか」という問いについて説明してくださいました。この問いに関する論争の歴史は長く、これまでずっと議論が行われてきている分野だといいます。

そもそも、科学は<世界>を描像しているのでしょうか。社会システム理論からの答えはNOです。社会システム理論では、<世界>は社会システムが作動することにより<世界体験>となり、そこで初めて私たちが<世界>を体験することができていると定義します。さらにこの<世界体験>を科学システムで変換することにより、私たちは科学理論を手に入れているのです。つまり、科学は直接<世界>を描像しているのではなく、<世界体験>をモデル化したものに過ぎないのです。

ここで語られる「社会システム」とは、「コミュニケーションの連関からなる意味システム」のことです。その中には、宗教システム、政治システム、経済システムなどいくつものサブシステムがあり、科学システムもその一つと位置付けられています。このことから、科学は社会の一部、サブシステムであると言うことができます。

社会が科学よりも大きいという立場に立つと、「トランスサイエンスは何で解決するのか」という問いに対し、答えが見えてきます。科学で解決できない問いは社会が解決する他ないのです。

 

科学の社会的応用としての科学技術への向き合い方

技術とは自動化により人や社会から負担を免除することであり、科学技術とは科学に依拠する技術に用いて負担を免除することです。例えば、私たちは運転「技術」を身に着けることで、最初は一挙一動に気を配りながら行っていた運転をある程度無意識の中でもできるようになります。

自動化は非常に便利なものですが、そこには常にリスクがつきまといます。特に近年、予測不能、計測不能、収拾不能な「高度リスク」を伴う科学技術が増えてきています。例としては、原子力発電や遺伝子組み換え作物、ロボット技術、出生前診断などが挙げられます。

これらの技術は既に社会に存在しており、高度リスクも既に社会システムの中に埋め込まれています。つまり、私たちはこれらのリスクを単に拒絶することはできません。

では、私たちはこの「高度リスク」にどのように向き合ってゆけばよいのでしょうか?宮台先生は、自分たちでリスクを受け入れるという選択をしたときのみ、社会は高度リスクに倫理的に耐えることができると言います。

 

熟議を行うための共同体自治をどう行うか

リスクを知らずに利用したり、人に任せっきりにしたりするのではなく、リスクを考えて受け入れるためには「熟議」のプロセスが必要となります。熟議とは、ただ話し合うだけの行為ではありません。「ファシリテーター」と呼ばれる「座回し役」が存在し、多様な人々が(匿名ではない)記名的空間で議論をすることが必要です。

このような熟議を通じた世論調査では、一般的な世論調査よりもリベラルな結果が得られると報告されています。社会を構成する全ての人々が熟議に参加することは不可能ですが、より多くの人が熟議に参加できるような場を設けていくことで、社会を変えていくことができる可能性が生まれるのです。

 

コンセンサス会議という手法

多様な人々が話し合う熟議の場で重要な役割を果たすのが、「市民」です。それを示す例として、宮台先生も実践されているデンマーク発祥のコンセンサス会議の手法を紹介していただきました。

この会議は科学者パネルと市民パネルから構成され、科学者パネルが情報をわかりやすく市民へ説明し、その情報をもとに市民パネルが最終的な決断を下す手法です。できるだけ公平な議論のために、科学者パネルは非官僚の公平性のある識者によって時間をかけて選ばれ、市民パネルは抽選で選ばれます。

この会議手法の大きな特徴は、高度リスクを引き受けた場合の「社会」の存続性を決定する会議であるため、最後の決断は科学者ではなく社会の代表である「市民」のみが行うことです。

 

科学の民主化と「ミドルマン」の重要性

市民が決定を下せるよう“科学の民主化”を進めていくためには、行政や政治、教育など様々な分野でこれまでの手法を変えていく必要があるだろうと宮台先生は指摘します。その中でも特に科学技術コミュニケーションを学ぶ私たちに大きく影響するのが、学会と市民を橋渡しする役割のミドルマンと呼ばれる人々を養成していく必要があるという指摘です。

科学の民主化が進むとミドルマンの活躍の場も広がります。現在は、たとえば科学ジャーナリストやサイエンスライター等がこの役割を担っていると言えますが、科学技術コミュニケーションを学ぶ私たちが目指すべき極めて重要な役割の一つなのではないでしょうか。

 

科学技術コミュニケーターの役割

科学で問えるが科学が解決できない問題「トランスサイエンス」、それは社会が解決するしかありません。社会がリスクを引き受けるためには、これまでにあまりいなかったファシリテーターやミドルマンのような新たな人材が必要になります。

科学技術コミュニケーターはこれらの役割を担うことのできる人材の一つと言えるでしょう。科学技術コミュニケーションがトランスサイエンスという難しい課題の解決にどのような役割を果たすことができるのか、とても考えさせられた講義でした。

宮台先生、どうもありがとうございました。