2015年12月26日

授業レポート

「理科教員の学校教育と『科学技術コミュニケーション』」11/28 青野裕幸先生の講義レポート

横山美沙(2015年度CoSTEP選科A)

 

理科をわかりやすく伝える、ということが一つの科学技術コミュニケーションの姿であるならば、理科教師は最も身近なコミュニケーターといえるのではないでしょうか。
今回は、中学校教員の青野裕幸先生を講師に迎え、ヒューマンネットワークを生かした活動を中心に、そこから生み出された主体的学びを促す工夫や、教育現場にいるからこそ感じる“理科離れ”の実態などを交えてお話しいただきました。

 

 

問題は「理科」ではない?中学生の実態


青野先生は、現在の千歳市立北斗中学校が5校目の着任校となるベテラン教師です。小中併設校で小学校理科の授業を担当されていたこともあり、授業中にみせる小学生の興味関心と考える力の高さに驚きます。なぜこのような興味関心が中学生では見られなくなってしまうのか。その要因の一つとして、青野先生は“計算”と“言語活動”なのではないかと話します。


例えば中学校で地層について学ぶ授業で、羊かんとストローを使った“ボーリング実験”を行うと、生徒たちは積極的に実験に取り組み、議論も活発です。しかし、地層について同じような考察を求める文章問題を解かせてみると、かなり多くの生徒が問題を読むことすらあきらめてしまいます。現在の生徒は150字程度の文章を読むのが限界で、文章が長かったり計算がわからないと「いいや」とあきらめて解くのをやめてしまう傾向にあるようです。

 


石狩市内で行った理科教育調査の結果では、5350人の生徒のうち、理科を好き、どちらかというと好きと答えたのは合わせて73%という結果があります。
計算やまとめはめんどくさい、けれど理科はそんなに嫌いじゃない。それが今の理科教育の現状なのではないかと先生はおっしゃいます。

 

学習指導要領の枠の中でいかに教えるか


小学生の光の屈折で取り上げられる、凸レンズを通る光の作図。教科書には、光はレンズの中央で曲がるように作図するよう指示がありますが、実際の光は凸レンズの中を2 回屈折します。この部分は、学習指導要領では発展扱いのため深入りできません。しかし、青野先生が物質中の光の速度の変化に基づいて屈折の原理を説明すると、「納得した」「なんでもっと早く教えてくれなかったのか」という生徒がたくさんいたのです。

 

 

「子供の知的好奇心は想像以上に高い。(学習指導要領は)それを引出し、伸ばすようにはなっていない。先生の多くも屈折率の表を示して、『このように曲がるものなのだ』として説明してしまうのが現状。こういう教え方では生徒は理解できない」そう青野先生は訴えます。

 

一人の限界とヒューマンネットワークの力

 

理科教育の現状に危機感を持つのは青野先生だけではありませんでした。同じような悩みを持つ教員で“Wisdom96”というサークルを立ち上げます。さらに当時のインターネットとして主流だったパソコン通信(NiftySERVE)を使って、全国の教員と活発な情報共有も行い、教員間の顔が見えるヒューマンネットワークを構築していきます。

 

講義中、青野先生が長さ30 cm、直径1 cm のアルミ筒をとりだし、私たち受講生に渡しました。光が1ns(1 ナノセカンド; 10 億分の1 秒)に進む距離を示しているこの筒、米国では1ns bar として売られています。先生は生徒に光の速さを実感してもらうために自作したのですが…いざ中学生に渡すと、先生の当初の目的とは全く違う反応を示しました。筒を片目でのぞいてみた彼らは、意外な像を目にします。それは、青野先生自身も予想していないものでした。「この原理を説明してくれ!」と生徒たちが大騒ぎになった展開に、青野先生はコミュニティの力を借りて原理追及に奔走しました。

 


生徒が本来持つ探究心の強さを痛感しつつも、ヒューマンネットワークをフル活用することで、一人では成しえなかった生徒の疑問・関心に応じることができた、と先生は振り返ります。

 

食卓で話題に上がる授業を


そして今、先生は“家の食卓で中学生が話題にする授業”を目標として様々な取り組みをしています。授業、部活、塾と忙しい中学生が、ごはんの時に「そういえば今日学校の授業でこんなことがあったよ」と家族と話せれば…。そんな考えがもとになった、毛ガニをつかった外骨格と筋肉の観察。青野先生が撮影した写真は教科書に掲載されました。しかし、思わぬ理由で次の改訂から削除されることになり、先生は愕然とします。理由は、現場の先生から「毛ガニは高くて買えない」と教科書会社にクレームが殺到したからだとか。授業は教科書通りでなければならない、という理科教員の柔軟性・応用力の低さに危惧を感じざるを得ませんでした。

 

青野先生が食物連鎖の説明とともに使うという"メンフクロウのペリット”。

ペリットとは、フクロウが不消化物を吐き出したもので、中に含まれているものを調べると、フクロウが何を食べたかを知ることができる。

 

最近は本も買わず、Web の誤情報であってもそのまま授業で取り上げてしまう教師も増えています。顔が見えないネット社会の拡大と、責任負担の一途をたどる教育現場の実情からすれば、致し方ないのかもしれません。しかし青野先生は、こんな現状だからこそ、多くの人の知恵と力を借りられるリアルなコミュニティが必要とされていると考えています。
 

 

楽しいことを知るのはどんな人でも楽しい

 

その思いから今年8 月に“楽しすぎるをばらまくプロジェクト(略してタノバラ)”(http://tanobara.net)を立ち上げた青野先生。教師一人ひとりができることには限界があります。しかし、多くの人の知恵と力を借りることで、理科という限られた教科のなかでも、生徒の主体的学びを引き出すことはできる。先生の精力的な活動は、我々が科学技術コミュニケーターとして今後活動していく際の一つの指針となると強く感じました。青野先生ありがとうございました。