2015年12月28日

授業レポート

「『高校生』と『高等学校』を 理解する」12/5倉部史記先生の講義レポート

中島洋治(2015年度本科映像メディア実習/社会人)

 

人口の減少と大学数の増加により、望めばどこかの大学には入学できる「大学全入時代」とされる今日、大学と高校生の入学段階でのミスマッチが問題となっています。その改善のために、入学後の学生と同じ普段の大学の一日を体験してもらうキャリアプログラムとして、NPO 法人NEWVERY が提案するのが「WEEKDAY CAMPUS VISIT」です。
今回はこの企画のプロデューサーであるNPO法人NEWVERYフェローの倉部史記先生より、高校生と高等学校についてお話をして頂きました。

 

 

高校生の思う「大学進学の先にあるもの」


倉部先生が高校生と接するようになったきっかけは、大学の職員として教育の支援等を行っていた時に、受験生の大学選びにジレンマを感じ、予備校での勤務に転職されたことです。
予備校では、高校生と親御さんからの受験に関する相談、予備校講師として受け入れる大学生の選考や、大学教員からの教育プログラムについての相談をとおし、様々な立場の方の考えを聞く機会を得ました。それにより、受験生や親御さんが理想とする「有名大学に進学できれば、万事うまくいく」そのような将来の形に疑問や危機感を感じ、現在の活動のきっかけとなりました。

 

 

高校生向けの大学体験企画の枠組みとその弊害


倉部先生が大学の研究を体験させる企画を高校の教員へ提案する時に、「研究などはまだ早い、この課題は出来ないだろう」といった意見を聞く機会が多くあります。高校の教員が持つ「大学の事は大学生になってからで十分で、主にテストに関係する勉強や、部活の功績につながる事を高校生の時にさせるべき」といった考えによるもので、高校生が大学内のカリキュラムを経験する機会を奪う原因のひとつとなっています。

また、現在の大学では、作る楽しさを知らない工学部の学生や、歴史を知らない法学部の生徒などが増え、第一線で活躍する研究者もこの現状に危機感をもっています。
この問題の打開策として倉部先生が手がけるのが、早稲田塾スーパープログラムです。

 

実践の場で知る高校生のちから


早稲田塾スーパープログラムは、「半端な体験ではなくいっそ研究させよう」をコンセプトに、学力、学年や性別など枠にとらわれない内容で参加者の選別を行い、学会発表や論文を作成させるまでを目標としている高校生の実践の場です。限定的ではないスケジュールの設定を行い、長期の場合は1年間に及ぶこともあります。
参加者は、受講するプログラムの各分野で著名な先生が行う大学生向けの講義に参加し、グループワークやものづくり、成果の発表までを体験します。
最終的には国際学会での英語のプレゼンなども堂々を行い、高校生の力を実感する機会が多くあります。

 

 

これらの取り組みを行った事により倉部先生が感じた重要な事は、①大学院生がやっているようなものほど、参加者の反応が良かった事。②難しい内容でも、高校生自身が積極的に理解のために勉強し、よじ登らせるようなスタイルをとるとプログラムがうまくいく事。③継続的な学びにするために、重要なものは企画全体のストーリーと毎回のテーマ設定が重要である事。④高校生はその気になれば何でもできるという事です。


その後も、様々な学部でキャリア学習・進路決定支援のための多様なイベントを行い、このシステムと高校生の力を知り手応えを感じた事が、現在の「WEEKDAY CAMPUS VISIT」の構想に大きく関係しています。

 

大学受験のミスマッチング問題とその背景


今も拡大している問題に大学受験のミスマッチングがあり、5年前に比べ大学中退者が20%増加している一方、センター試験の再受験は9年前に比べ60倍という数字が、中退者が他の大学の再受験をしている事を表しています。

 

倉部先生が行った調査によると、進路指導が難しいと感じている高校の先生の割合は9割で、その理由として、生徒の進路選択の決定能力の不足、高校教員が進路指導を行うための時間の不足が上位に挙がります。

 


しかし倉部先生は、高校だけではなく大学にも関係があるように考えています。
その考えの基になるのは、少子化が進んだ事により、大学は受験生を集める対策が必要となり、各大学がオリジナリティを出す事に力を注いだ結果、現在の大学の学部は700種類(6割は1大学のみ)あり、この種類の豊富さが結果として、高校生へ進路指導する高校の先生も大学の特色を把握出来ていない事です。

この他にも、全ての受験生に向けた内容で紹介されるパンフレットなどの大学案内や、高校入学の半年後より進路選択が事実上始まってしまう教育環境も理由となっています。
 

装飾された現在の大学オープンキャンパス


大学を知るための代表的なプログラムとして、多くの大学ではオープンキャンパスを行っています。しかし、オープンキャンパスで提供される模擬授業は、高校生のみが参加するため、高校生でもわかるよう装飾された内容であることがほとんどで、実際に大学で行われている授業とはかけ離れています。

このような模擬授業から、その大学、その学部の真の姿を理解できるでしょうか。模擬授業から得られるイメージは、そこで本当に自分がやってみたいことができるかどうかの手がかりにならないかもしれません。
これらの事も影響して、大学選びのミスマッチの問題が発生していると倉部先生は考えました。

 

真の大学の姿を知るプログラム「WEEKDAY CAMPUS VISIT 」


大学受験のミスマッチ問題を効果的に解決するため、普段の大学の授業に高校生を参加させるプログラムとして企画したのが、「WEEKDAY CAMPAS VISIT」であり、2013年4月から現在までに61の大学・専門学校にて公募型で181回行っています。

より効果的な体験にするため、メインとなる授業、ゼミの前後に、ガイダンスと、振り返りのワークを行う事が重要な特徴です。
大学を見学に来るお客様ではなく、「学習者」として生徒と接し、より積極的にプログラムに参加するように促すこと、また普段と同じ難易度の高い授業を行い、授業中に寝ている先輩の姿や、時には先生に対して真逆の意見を述べることもある大学生の姿を見せることで、偏差値や学校案内では読み解けない真の大学の姿を知る重要な機会となっています。

 

 

この先の高大接続に大切なものと、科学技術コミュニケーターの役割

 

一言で高大接続といっても高校、大学以外に多種多様な機関が関係し、保護者、中学校教員、地元の行政や、メディアなどからの高校への評価対象に、有名大学への進学実績が大きく関係している状況です。そのため、高大接続を促す企画を主催する側が、それぞれの機関の立場も考慮し、最終的な目的となる高校生の学びに繋げることが大切と倉部先生は考えます。
自主的に学び始める高校生の飛躍はひじょうに大きいものです。その高校生が自ら学ぶためのスイッチをいれるためには、「情報を与える」「説明するだけでは不十分」であり、小中学校の学習の延長ではなく、高校教育の枠組みを超え、社会の問題、発展につながる取組みに挑戦させる負荷をかける事が大事となります。そのため、高校生を学習者として迎えるコーディネート役が重要であり、高校生の多くの可能性を生かすためには、専門家と社会の架け橋が役目である科学技術コミュニケーターが力を発揮できる場面が多くある、ということを倉部先生は強調されました。

 

 

講義中の倉部先生の言葉には、力強さと自信が感じられました。
これは、お話されている内容の高大接続の問題を解決したいという想いや、これまでの様々な取組みから知った高校生の可能生を多くの人に伝えたいという気持ちによるものなのではないかと思います。

 

私も自分の取組みについて話しをする時には、倉部先生のようににじみ出るものと共に、想いを伝えたいと感じました。