2016年03月03日

授業レポート

「科学と科学技術コミュニケーションの本質を最高のエンタテイメントに」1/30 林雄司先生の講義レポート

科学と科学技術コミュニケーションの本質を最高のエンタテイメントに

 

「納豆を10万回混ぜる」「ドキュメンタリー 5mの自撮り棒」…

見る人を「そこまでやる?!」と仰天させる数々の面白おかしい記事が満載。そんな日本を代表するエンタテイメント系ウェブサイト 『デイリーポータルZ』の編集長である林雄司先生(ニフティ株式会社)の講義では、実際に林先生が手がけた多くの事例を紹介いただきながら、人々の心を鷲掴みにする面白い企画をどのように発想されているのか、その秘密をお話いただきました。

 

坪井淳子 (2015年度CoSTEP 選科B)

 

 

林先生が手がける抱腹絶倒な企画たち

デイリーポータルZを開設する前から、「東京トイレマップ」、「死ぬかと思った」などのエンタテイメント系サイトなどを手がけてきた林先生。2002年から始めたデイリーポータルZでは「平凡なことをとことん真面目にやる」をテーマに、1日3本の記事を14年間世の中に送り出し続けています。代表的な記事は、冒頭に挙げた企画のほか、「進化の順番で寿司を食べる」、「知らない人の結婚式の二次会に混ざる」、「ペリーがパワポで提案書を持ってきたら」、「ゴールパフォーマンスだけやってみたい」などです。また、自主企画だけではなく企業とのタイアップも行い、JTBと「コンビニ袋で海外旅行に行く」という企画を実行されています。更に最近では、インターネットの世界から実世界に飛び出し、体験型リアルイベントも開催されています。地味な仮装限定のハロウィンを開催したところ、作業着を着た参加者が多数参加し、大変面白い集まりになったそうです。このように、企画が世の中にとってあまりに斬新だからでしょうか、思わぬ反応が返ってくることもあるようです。「いらないものが出てくるガッカリ感を味わってもらいたい」といらないものしか入っていないガチャガチャを制作したこときには、「リサイクルの新しい形!」とニュースで真面目に絶賛され、林先生は困ってしまったそうです。

 

 

 

「型」を違う文脈で使う企画が生まれた背景

林先生がこれまで手がけてきた企画を振り返ると、誰もが知っている「型」を違う文脈でつかっている企画が多くあります。そもそも、一般的な記事の主なパターンは、① あからさまに珍しいものなどを取り上げるか、② 平凡なものをアレンジするかの2つです。①の場合、珍しいものはあまりないからこそ珍しいという前提がある上に、既にテレビで取り上げられていることが多いです。そのため、月に90本もの記事を量産する必要のあるデイリーポータルZでは、書き手のエピソードを重視し、平凡なものをアレンジする企画を主に行っています。情報や知識を提供するのではなく、書き手のエピソードを伝えて、読み手の共感を呼んでいるのです。「メディアは続けないと結果が出ないので、無理せず続けられることが大事だ」と林先生は言います。

 

 

アレンジする手法は「ずらす」と「まねる」

林先生が行ってきたアレンジには、「大きくする」、「場所を変える」、「型をずらす」、「型をまねる」などの様々な手法があります。講義では、型を本来の目的とは違うところで使う「ずらす」と、結果の型だけを使う「まねる」について深掘りしていただきました。

 

型を「ずらす」企画は、見慣れた型が見慣れない場面で使われるミスマッチに面白さが生まれます。例えば、「ペリーがパワポで提案書を持ってきたら」という企画では、「ビジネスマンがパワーポイントで提案資料を作る」という型をペリーの開国交渉の歴史の場面に当てはめています。掛け合わせるものは、どちらも必ず一般的によく知られているものでないと面白さが伝わらない、と林先生は指摘します。そのため、誰もが学校で学んでいる日本史はおすすめだそうです。また、デザインの型をずらすというアレンジもあります。タロットカードの画風でカラオケや合コンなど日常を描く、インスタント味噌汁の食品パッケージ風にiPadのパッケージをデザインする、モチモチの木風に綾波レイを描く、更には、ディスカバリーチャンネル風に、5mの自撮り棒を自作したドキュメンタリー映像を制作するなど、デザインの型をずらした面白い例が次々と紹介され、教室は笑いの渦に包まれました。

 

次に、「ゴールパフォーマンスだけやってみたい」という企画のような結果の型だけを「まねる」方法です。例えば、「ダイエットでやせた人は太っていた時のズボンをはく」という型を利用すると、力士用のジーンズを買い、ただ履くだけで、あたかもダイエットに成功して痩せたように見えるという例がこれに当てはまります。他にも、「アフロの人が前に空中浮遊をしていた」という型を利用し、胡座をかいているアフロの人の前に黒紙を敷いた写真を撮ると飛んでいるように見えるという企画や、写真週刊誌の型を利用し、ニットキャップを被った林先生がコンビニから出てきたところを望遠カメラでモノクロに取るとジャニーズタレントのように見える企画などが紹介されました。

 

 

「型」とは何か

「普段のトークショーならここで終わるんだけど、今日は大学の講義なので…」と、更に「型とは何か」について語っていただきました。型は、大きく分けて4つあると林先生は続けます。①タッチが知られている作家の作品など特定の人が作ったもの、②マンガや映画で「お約束」と言われる記号的なもの、③よく知られた商品やジャンルのデザインや配色、③「ビジネスマンはパワポで企画書を作る」、「女子中学生は文字をデコる」など特定の人に付属する型、の4つだそうです。林先生は、地味な仮装限定のハロウィンパーティー開催を通して、見た目をまねるだけであまりにそれっぽく見えることを実感したことから、「世の中上っ面」と思ったと言います。目に見える典型的な型は、かなり深く私たちに根付いているようです。

 

「型」を日常から発見するために

では、その型を見つけるにはどうすればいいのでしょうか?「よくわからない」と言いながらも、よく見ることが大切だと林先生は指摘します。更に、よく見るためには、どんなものも面白がる心が大切であり、どんなもの面白がるためには機嫌よく入ることがコツだそう。ここで、ゴムバンドのパッケージや健康茶のチラシなどをよく見て、気付いたことや面白いと感じたことを言い合うグループワークを行いました。受講生は「フォントが一部だけ近代的になっている」、「一見情報過多のようだが、同じようなことが繰り返し書いてある」などの気付きを通じて、普段何気なく見ているものに特定の型があること、そして、面白さが日常生活にいかに転がっているかを実感しました。

 

 

「型」のまね方

型が見つかったあとは、その型をまねる作業になります。方法しては、画風をトレースする、配色を揃える、文章を書き写すなどがあります。「ゴールパフォーマンスだけやってみたい」など結果の型だけをまねる場合には、衣装を買ったり借りたりすることで簡単にまねることができると教えていただきました。

 

<授業の後交流会の写真>

 

 

今回の講義で、キーワードとなった「型」。もしかしたら、科学技術コミュニケーションにも、既に典型的な型があるのではないでしょうか。また、全く違う分野の型を科学技術コミュニケーションの分野に持ってくることで、新しい可能性が生まれ、これまでは全く科学技術コミュニケーションと縁がなかった層とのリンクが形成されるかもしれません。面白い企画の数々に笑いが止まらないながらも、大変多くの気付きがある講義でした。

林先生、誠にありがとうございました。