2016年04月12日

活動報告

第86回サイエンス・カフェ札幌「自在の翼を手に入れろ~ブルーインパルスの飛行技術と不安定からの数学的発想~」を開催しました

1月16日に開催された第86回サイエンス・カフェ札幌「自在の翼を手に入れろ~ブルーインパルスの飛行技術と不安定からの数学的発想~」。今回は、高橋 KYONCEE 喜代志さん(航空自衛隊2等空佐・元ブルーインパルス4番機パイロット)と西浦廉政さん(東北大学教授・元北海道大学電子科学研究所 所長)をゲストにお迎えしました(主催はCoSTEPとALP(物質科学フロンティアを開拓するAmbitiousリーダー育成プログラム)。航空工学とパイロットの技能の結晶であるブルーインパルスの飛行に、数学的切り口で迫ろうという趣向です。

 

最初にスクリーンに映し出されたのは5つの数字「1964、1972、1998、2020、2026」。これらはすべてオリンピックにまつわる数字です。オリンピックのエピソードでは1964年があまりにも有名です。当時のブルーインパルスのチームはスモークを使って、空に五輪のマークを描くという前人未到の離れ業に挑戦したのですが、練習では何度やっても成功しませんでした。一度も成功しなかったにも関わらず、本番で初めて成功し、大空に色鮮やかな五輪を描いた光景は多くの人々に深い感動を与え、今もなお語り継がれています。

20年前にT4のブルーインパルスがはじまった時からパイロットとして在籍し、正式発足時からは4番機に搭乗されていた高橋さん。所属していた第11飛行隊の写真と迫力ある映像を解説しながら、カフェは進行していきます(迫力ある映像は株式会社バナプル様からご提供いただきました。ありがとうございます)

 

T4ブルーインパルスはアメリカで開催された航空ショー「ゴールデン・エア・タトゥー」に招待され、そこで展示飛行を行いました。T4は空中給油ができない機体だったため、貨物船の船倉に積まれた状態で太平洋を渡ったそうです。

 

会場となったネリス空軍基地は標高が2000フィートほどあり、その上、航空ショー開催時の気温は30度以上にも達していました。空気が薄くて熱いと、エンジンの出力が落ちて操縦が難しくなります。そんな過酷な状況の中で、第11飛行隊は果敢に曲技飛行に挑戦していきます。来場者の感動を特に誘ったのはスタークロスという星形を描く課目でした。アメリカは星条旗であることから、印象に残ったのではないかと高橋さん。

 

スタークロス以外にも、カフェのチラシのデザインにも使われたスワン、ハートに矢が刺さった形状になるバーティカルキューピッド、水平に8の字を描くレターエイト、宙返りをするデルタ・ループ、一斉に横転するボントン・ロールについても4番機パイロットならではの視点で丁寧に解説してくださいました

続いて、数学と他分野を繋げる数理連携の専門家である西浦さんは、まず最初の切り口として「不安定性」をあげ、その重要性についてライト兄弟の事例を挙げました。「不安定性」は西浦さんが普段の研究においても注目しているキーワードです。

 

ライト兄弟は動力飛行機の発明者で、世界初の飛行機パイロットとして知られていますが、彼らの真の偉業は安定な機体を捨て、それを人による操縦で制御しようとした点であると西浦さん。飛行船やグライダーのように安定した飛行を追い求めず、敢えて不安定な機体特性の飛行機を作り出し、それを操縦で補うことで人と飛行機は人馬(機)一体になり得たのだそうです。

 

次の切り口は「群れ」です。例としてあげたムクドリの大群は、一見すると集団で飛んでいるように見えますが、実際は一匹ずつランダムに飛んでいます。それぞれがバラバラであっても、全体としては一つの意思を持っているかのようにうまく飛べるのです。現在は個体ごとの航跡を解析する技術と数理モデルが発達してきているので、解析を行ってみると、ムクドリたちは特に意思を統一しているわけではなく、周囲の動きを少し認識しているだけという事実が分かったそうです。

 

西浦さんは、ブルーインパルスにおいても編隊を組む時に個人の技量を超えた相性のようなものがあるのか、チームプレイは何によって可能になるのかといったことは、面白いテーマだと指摘されました。

カフェにはサプライズゲストとして、ブルーインパルスをテーマにした小説『スカイクリア』の著者で、ブルーインパルスファンネットの管理人である今村義幸さんも駆けつけてくださいました。今村さんにはカフェの開催にあたり、ブルーインパルスの写真を提供していただきました。

 

コミュニケーションカードを使った、質問コーナーの時間では熱心なブルーインパルスファンから多数の質問が寄せられました。失速するのはどういう時で、どう切り抜けるのかという質問には、操縦桿を中立の位置に戻せば、紙飛行機のような静安定の状態になるので、そこから速度をつければ回復できるとのことでした。

ブルーインパルスのパイロットになるにはどれくらいかかりますかという会場からの質問には、在籍期間は3年で、最低最初の一年目は先輩と一対一で訓練を行うと高橋さん。その回答の際に、航空学生だった時のエピソードも紹介してくださいました。航空学生時代に基本的な数学や物理、航空力学を勉強したことが、実際の飛行機に触れるようになっても大いに役立っており、飛行機の機体ごとの特性を、より深く理解できるのだそうです。

 

最後の質問は「北海道でスペシャルな飛行展示は見られますか」というものでした。それに対し、高橋さんは「そうなれば嬉しいですね」と微笑みながら答えていらっしゃいました。

*約二か月後の2016年3月26日(土)、北海道新幹線開業イベントにて、ブルーインパルスは祝賀飛行を行いました。

 

航空機を身体の一部のように自在に操るパイロットと、数学という思考の翼をもつ数学者。異色の組み合わせによる今回のサイエンスカフェでは、ブルーインパルスという対象を数学・数学者の視点で捉えてみることを試みました。普段交わることがない人と人、テーマとテーマを交差させることがサイエンスカフェの一つの醍醐味ではないでしょうか。これからもサイエンス・カフェ札幌は様々な企画に挑戦していきます。