2016年11月30日

授業レポート

「6年目の福島からリスクコミュニケーションを考える」11/12小山良太先生の講義レポート


岡田 知(2016年度 選科B/学生)

 

東日本大震災による福島原発事故から5年が経ち、福島の食と農の現状はどうなっているのでしょうか。いわゆる「フクシマ問題」は誰にとってのどんな問題なのか、小山良太先生(福島大学経済経営学類、うつくしまふくしま未来支援センター・産業復興支援部門 教授・部門長)にお話いただきました。

 

 

リスクコミュニケーションとは

 

小山先生の講義を通じて、リスクコミュニケーションとは、「リスク(危険度)に対してどのような態度を取るのか選択するために、国、専門家、市民など社会を構成する人々が情報を共有し相互理解すること。またそのための活動」だと考えました。本レポートではそのように定義します。

 

 

福島の食と農が受けた被害

 

福島原発事故後、福島県産のコシヒカリは他地域産の米と市場順位が逆転しました。全量全袋検査によって安全が証明された現在も、市場順位の低いまま固定されています。米と同様に通年流通する肉においても、取引数量、取引価格、市場順位の全てで国内平均を下回っています。一方、季節性作物の野菜や果物は旬の時期に代替するものがなく、以前の取引価格に戻りつつあります。しかし、同じ時期に他地域産の作物がある場合、福島県産の作物は取引されにくくなってしまいます。

 

福島の食と農が受けた本当の被害は風評被害ではなく、この市場順位の低下でした。風評被害対策を行ってもそれは本質的な解決にはつながりません。福島県産の米や肉が復興するためには、新しい市場を開拓するような発想が必要だと小山先生は言います。

 

 

入口と出口の対策~検査に対するリスクコミュニケーション~

 

福島県では、放射線汚染を入口と出口で防ぐための対策が行われています。放射線を吸収させない入口対策としての「土壌検査」「吸収抑制対策」、放射線量基準値を超える作物を出荷させない出口対策としての「農畜産物の測定」、そして「消費者への情報提供」です。福島県の生産者たちはこれらの対策から得たデータを用いて農業に適した地域を検討しました。その結果、福島県産の作物から放射線はほとんど検出できないもしくは低減しています。

 

このように県内では徹底した検査に対するリスクコミュニケーションを行っているにもかかわらず、県外には入口対策の情報が伝わっていません。そのため消費者の「なぜ放射線が検出されないのか」という疑問は解決されず、「問題を隠しているのではないか」という不信感を生んでいます。また小山先生らの行った調査から、有名人等を起用したイメージ戦略よりも「安全の根拠」を示すことが消費者の購買意欲を刺激することがわかっています。これまで行ってきた「安心」のアピールだけでなく、全国や世界に向けた入口対策の広報という検査に対するリスクコミュニケーションが必要です。

 

 

6年目以降の課題

 

福島原発事故直後から現在も続く放射線に関する問題は、どうして「フクシマ問題」と呼ばれるのでしょうか。いくら福島県が体系立った放射線対策を行い作物の安全性を証明しても、入口対策を行わない周辺地域から基準値を超えた作物が見つかることでその信用を失ってしまいます。また、福島県だけが高レベルな対策をしてきたことで、「福島県だけが危険」というイメージが定着しました。それらのイメージを払拭し、「フクシマ問題」は福島県の問題ではなく放射線の問題だと理解することが福島の食と農の復興につながるのではないでしょうか。そのために国が原発事故後の状況、どのような検査を行いどのような結果が出たのかを総括した報告書を出すべきだと小山先生は強調します。

 

「もう安全だ」と言い続けて原発事故の記憶を風化させることは、なぜ安全なのか理解する機会を失うことかもしれません。検査に対するリスクコミュニケーションを通じて現状を把握し、安全の根拠を明確に伝えていくことが今後の課題だと思いました。

小山先生ありがとうございました。