2017年03月10日

授業レポート

「幻聴さん」のコミュニケーションと当事者研究 1/28 向谷地生良先生の講義レポート

 

金澤 幸生 (2016年本科 / 社会人)

 

はじまりは「べてるの家」
向谷地先生は、長年にわたり浦河町「べてるの家」で統合失調症など精神疾患を持った人たちと活動を共にしながら、精神医療分野のソーシャルワーカーとして実践を続けられてきました。
「べてるの家」で当事者研究がはじまったのは15年前にさかのぼります。向谷地先生も、幻覚妄想体験をもった若者に対して、病院に行くことを勧めていました。しかし、なかなかうまくいかず、浦河町の小さな教会堂でそんな若者たちと共同生活を始めたことがきっかけでした。

 

当事者が声をあげること
精神医療分野では、精神疾患を持った方の幻聴などを語ってもらうことは、タブー視されていました。本人の経験を語ることにより、その疾患がより強まると考えられていたからです。しかし、先生は、「当事者が声をあげることは制約するのはあり得ない」とその考えに疑問を持ちました
その思いから、自らの疾患を研究のテーブルにのせ、自らの生活で体験していること、抱えきれないと感じている言葉を切り取って、そこから見える風景を仲間に伝えてみる、そんな当事者研究をスタートさせました。

 

 

当事者研究により生まれたもの
例えば、ある方の当事者研究では、「幻聴さん」との付き合いについて、名前を聞き、仲良くするといった方法で症状が緩和されました。これも、自らの幻聴を対話により他者に伝える対話から生まれたことです。当事者研究の対話は、自分と聞き手を並立的に置き、研究テーマについて傾聴と対話を行うことで進められていきます。お互いがお互いの見方が変わり、新しい発見が生まれ、精神疾患によるつながりが研究テーマを通じたつながりへと変わり、生活の前向きな変化へとつながっていきます。

 

 

当事者研究の応用
浦河町で生まれた当事者研究は、科学哲学やバリアフリーなどの学術領域とも交流を深めながら、様々な研究者の関心を惹きつけています。精神疾患を持つ方たちとの当事者研究により生まれる「臨床の知」が、研究者の「知」や、医療現場の専門家の「知」とも協同しながら、日本発・世界先端の治療の枠組みとして、今後も広がり続けていくことが期待されています。

 

 

向谷地先生自らの実践から語られる言葉の重みや当事者研究の可能性に、科学技術コミュニケーションの実践の新たな価値観を生み出していただけたような気持ちになりました。向谷地先生、どうもありがとうござました。