2017年03月18日

活動報告

修了式シンポジウム「手のひらから宇宙まで ~電波が創発するコミュニケーション、そしてアート~」を開催しました

3月11日に12期修了式に合わせて、公開シンポジウム「手のひらから宇宙まで 〜電波が創発するコミュニケーション、そしてアート〜」を鈴木章ホールにて開催しました。パネリストは久保田晃弘さん(多摩美術大学教授)、大鐘武雄さん(北海道大学大学院情報科学研究科教授)原島博さん(東京大学名誉教授)、司会はCoSTEPの朴炫貞です。

 

ほのかにライトアップされた会場の左右の壁には、一本の波形が投影されており、登壇者のマイクの声に反応して勢いよく震える仕掛けが施されています。シンポジウムのテーマである「電波」が表現された空間で、修了生をはじめ多くの方々が熱心にゲストの話に耳を傾けました。

 

 

宇宙からの芸術

 

久保田さんは宇宙との芸術を実現するために、「ARTSAT:衛星芸術プロジェクト」で10センチ角のキューブ型の芸術衛星INVADERを2014年に打ち上げました。ARTSATは人文学的な視点で、宇宙から詩や音楽を送信することで、人間の想像力や意識を拡大するのが狙いです。

ARTSATの2号機DESPATCHは、3Dプリンタで作られた渦巻き型の彫刻作品で、さらに深宇宙から詩を送信する芸術実験を行いました。DESPATCHからの電波は世界中のアマチュア無線愛好家が協力して受信し、最終的には地球から470万キロ離れた彼方からの電波を受信することに成功しました。さらに今年、ARTSATはSIAF(札幌国際芸術祭)ラボと共同して、札幌のモエレ沼公園から小型のコンピュータを搭載した気球の打ち上げを行ない、大地の彫刻としての公園を、データで宇宙と繋ぐと同時に、気球にプログラムコードを送信することで、宇宙との即興演奏(tele-coding)を実現しようとしています。


久保田さんは、アマチュアはプロの対義語というネガティブな意味ではなく、愛好家というポジティブな意味で使うべきだと主張しました。久保田さんは、衛星や宇宙の人文学的な意味について、CoSTEPのようにいろいろなジャンルの人と議論していくことを、札幌国際芸術祭でも行いたいと考えています。

 

 

無線通信の仕組みについてちょっとだけ理解した気持ちになれそうなそんな感じのお話...

 

続いて、大鐘さんによる無線技術の科学的な解説です。大鐘さんは、アンペールの法則をはじめ、周期検波による電波の検出、セルラー方式、5Gと呼ばれる第五世代の携帯電話や、大規模MIMOやTHP方式と呼ばれる通信方式、さらにIoTやD2D、M2Mといった通信技術を紹介しました。

大鐘さんはイラストで、電波の波長を人間の身長に、アンテナをドア(窓)に例えて、難解な無線技術をイメージが浮かぶように工夫を凝らして説明しました。しかしながら、大鐘さんは「わかりやすさと厳密さは両立しない」として、自分の解説を「厳密さに欠ける」ものであると自己批判的に俎上に載せます。「わかりやすさを追求するあまり省くと間違った情報を伝える可能性がある」と、自ら直面したジレンマに触れながら「わかりやすい説明は科学技術コミュニケーターに期待します」とその意義と重要性を強調しました。

 

 

電波と人(電波と私)

 

原島さんはコミュニケーション工学が専門で、顔学会の設立者として大変著名です。原島さんは、のろし、旗振り、腕木通信から、電話、無線電信を経てスマートフォンに至るまで、通信技術の歴史を概観しました。

現在は「いつでも、どこでも、誰とでも」瞬時にコミュニケーションできる便利な時代になりました。しかし便利になると、それを前提とした人間社会や社会システムが作られるため、「便利さは決して仕事や生活を楽にしない」と原島さんは断言します。さらに、SNSのようなメディアは麻薬のようなものであり、「匿顔」による快適なコミュニケーションに人々は忙殺されている、として、情報社会は本当に人を幸せにするのか、と疑問を投げかけました。

 

 

電波を感じる空間でのパネルディスカッション

 

休憩をはさんでアーティストの小町谷圭さんによるインスタレーションが披露されました。会場の座席に置かれているFMラジオの周波数を合わせると、会場後方に浮かんでいる風船の発信機が放送している音楽が流れる仕掛けになっています。これもまた電波を実感するアート作品です。

(風船に取り付けられたカメラから、会場の様子が送信されました)

 

(風船には中継器やカメラが取り付けられています)

 

(ラジオの周波数をあわせる来場者)

 

会場全体で電波を感じた後は、パネルディスカッションです。参加者からの質問カードをもとに、議論がすすめられました。

 

 

Q. 技術者とユーザーの立場の違いとは?

 

久保田さんと大鐘さん両者とも、「ユーザーは作り手の意図をはるかに越えた使い方をする」と意見が一致しました。その上で久保田さんは、ユーザーは分解したり改造できないものにNOを突きつけることで、技術に踊らされることはなくなると主張しました。

原島さんは、技術が上がるとブラックボックス化するという問題点を指摘します。ですが、今後3Dプリンターの普及により、工場でしか作れないものでも個人で作るパーソナルな時代になると予測し、「パーソナルは最先端である」と提唱しました。また久保田さんは、ブラックボックス化しやすいのがビジネスとミリタリーであると危惧しており、ブラックボックス化を防ぐためにも、オープンにしてユーザーの参与度を高める必要があると説きました。そのためにも、アマチュア=愛好家の重要性を力説しました。

 

 

Q. アートとサイエンスの関係とは?

 

久保田さんはアートとサイエンスには「遠くへ行きたい、まだ見ていないものを見る」という共通点であると指摘します。「科学や芸術の力は、想像力と経験の幅を広げるものですが方法論は異なります。アートはマジョリティに対する疑問から出発し、科学とアートは違うからこそコラボレーションが可能」と自説を展開しました。大鐘さんにとってアートは憧れであり、自分のやっていることは泥臭いものとしながらも「自分も頑張れたらアートっぽくなるかな」と二人の話に刺激を受けている様子でした。

 

原島さんは、平賀源内をメディアアーティストだと評価し、サイエンスはアート的に研究して未来を予感させることが重要だと明言します。「アートもテクノロジーも表現なので、工学部の基礎科目にはアートが必要」と新しいカリキュラムの考え方を提案しました。久保田さんも「工学部で美術史を教えるのは意味がある」と原島さんの提案に賛成しました。

 

Q. これからの未来とどう向き合うか?

 

大鐘さんは、未来は全くわからないが「だからこそ面白い!」と今後の展開に期待を寄せます。久保田さんは、アラン・ケイのように未来を発明するという考えは大変傲慢であると一刀両断し、ヒントは過去の中にある、と歴史を学ぶことの重要性を強調しました。原島さんは、現在は過去と未来のは架け橋なので、外から自分を見る視点を持つように、視点を相対化することで未来が見えてくる、とアドバイスしました。

 

終了の挨拶で、新田孝彦理事・副学長は「中毒患者は中毒だと思わないように、システムに組み込まれると感情も枯れてしまいます。科学技術と社会の関係について考え、活動するCoSTEPにとっても示唆に富むお話だったのではないでしょうか」とまとめ、シンポジウムは幕を閉じました。

 

本シンポジウムは、12期を締めくくるイベントでしたが、13期のプロローグでもあります。2017年は札幌国際芸術祭が開催されます。CoSTEPもサイエンスとアートを一つのテーマとして来年度は活動していきます。