2017年10月23日

活動報告

第96回サイエンス・カフェ札幌「鶴の今昔、拝見つかまツル!~古文書から読み解くツルの生態~」を開催しました(後編:質問への回答)

 

山本 晶絵(2017年度 本科/学生)

 

9月10日(日)、北海道大学大学院文学研究科 専門研究員の久井貴世さんをゲストにお招きし、第96回サイエンス・カフェ札幌「鶴の今昔、拝見つかまツル!~古文書から読み解くツルの生態~」を開催しました。

 

(衣装替えした久井さん(右)と筆者。久井さんのTシャツにはかわいいツルが!)

 

前編(9月30日公開)は、カフェの内容に関するご報告でした。
今回、後編では特に「質問コーナー」に焦点を当て、カフェで取り上げることのできなかった質問・コメントに対する、久井さんの答えをご紹介します。

 

 

質問コーナーの流れ

 

当日は、パンフレットと一緒に2枚のふせんが配布されました。
緑のふせんには「久井さんへの質問」を、オレンジのふせんには「久井さんからの質問に対するみなさんの回答」を記入します。久井さんからのお題は、「今日のお話の中で、一番印象的だったことを教えてください」というものでした。

 

(短い休憩時間の間に、たくさんの質問・コメントが寄せられました)

 

(集められたふせんは、スタッフがせっせと分類します)

 

いよいよ、質問コーナーが始まります!

 

(休憩時間が終わり、質問コーナーが始まりました!)

 

 

―質問その① 鶴は千年、亀は万年?―

 

・長生きのイメージはどこから?本当に長寿なのですか?
・タンチョウの平均寿命は?
・「長生きするからめでたい」という理由以外に、おめでたいものに使われる(のし袋)理由はあるのでしょうか?
・鶴は千年生きるという言い伝え(?)や、鶴=縁起物という認識はいつ頃から広まっていたのでしょうか?
・ツルはいつ頃から縁起物とされてきたのでしょうか?

 

 →瑞鳥(縁起の良い鳥)としてのツルのイメージは、元々は古代中国で発祥しました。広大な湿原の奥から聞えてくるツルの声の気高さから、君子や賢者のイメージで語られるようになり、それが次第に世俗を離れて生きる隠遁者のイメージへと変化しました。そして、隠遁者は神仙思想と結びつき、ツルは仙人の乗りものと考えられるようになりました。仙人とは不老不死の存在であり、仙人に従うツルもまた、仙人に近い存在であろうとのことから長寿のイメージが定着したといわれています。日本では、平安時代頃までにはツルを縁起物とするイメージが伝わったようです。現実のツルは千年も生きるはずもなく、野生のタンチョウでは20~30年程度といわれています。飼育下では40~50年生きた例もあり、80年以上長生きした記録もあるそうです。江戸時代の史料では、代々飼っているツルが300歳を超えているという記録がありますが、当然ながら、ツルも代替わりしていると思われます。

 

(久井さんの「鶴の品々(=ツルグッズ)」。ツルはやっぱり、「おめでたい」イメージが強いですよね)

 

(今回は、パンフレットもおめでたい仕様になっていました)

 

 

―質問その② 一番好きな鳥?カラスについて―

 

・なぜカラスの方が好きなんですか?
・カラスよりツルの姿が優雅だと思うのですが、カラスの方が好きとはなぜでしょうか?
・ツルがビジネスライクでカラスが好き(LOVE?) である一番の要因は何ですか?

 

 →なぜかはわかりませんが、カラスは小さい頃から好きでした。日常的に見る身近な鳥の中でも大きく、行動が目立ちやすいからでしょうか。特にカラスの目がかわいいと思っています。私にとってツルは単純に好きというよりは、大切なパートナーあるいは仲間という認識に近いのかもしれません。それに対して、カラスはアイドル的に日頃見て楽しむという感じでしょうか。ツルとカラスでは、好きの意味合いがちょっと違うという感じです。

 

 

―質問その③ ツルの魅力について―

 

・ツルの魅力はどんなところですか?
・ツルのおもしろいところは何でしょうか?文献で読んだり、フィールドワークで感じたりしたことなどがあれば教えてください。


 →頭のなかで想像するツルと、実際に野生のツルに会ったあとのギャップが印象的でした。初めて野生のタンチョウを見たのは、実は卒業論文を書いたあとだったのですが、それまでのツルのイメージはまさに縁起物の「鶴」で、高貴な感じがする綺麗な鳥としか思っていませんでした。ところが、実際に野生のタンチョウに出会って、まず迫力に圧倒されました。アイヌに関する資料で、ツルは強くて危険な鳥だといわれることがあるのですが、本物を見て初めてその意味を実感しました。また、確かに高貴で綺麗な鳥なのですが、喧嘩もするし八つ当たりもする、ぬかるみで滑って転んだり、カラスに餌を横取りされたり…、大きな鳥なので一つ一つの行動がよく目に入りますし、高貴さというよりは、なんだか親しみを感じました。会う度に色々な表情がみられるのが私にとっての魅力ですね。文献では、江戸時代にツルを飼っていた人の記録をみると、飼い主のあとをついて歩いたり、餌を盗み食いして怒られたり、非常に愛らしいなと思います。

 

・ツルがきらいになることはありませんか?(またツル……)


 →ツルが嫌いになることは絶対にありません。今でもツルに関する新しい史料を発見できるのは嬉しいことですし、本物のツルに会いに行くのも楽しみです。

 

(これも久井さんの「鶴の品々」。ポップなデザインのツルもたくさんいます……!)

 

 

―質問その④ 研究(歴史鳥類学)について―

 

・歴史鳥類学者って新しいですね。ご自分で考案されたんですか?

 

 →研究を始めた頃からの悩みは、自分の研究がどのような分野に属するのかがわからないことでした。お世話になっている先生方からいろいろなご助言をいただき、自分の研究を表現するための「歴史鳥類学」という言葉を考えてみました。自信をもって「歴史鳥類学」を語れるように、さらに研究を続けていきたいと思います。

 

・フィールドワーク以外でツルの生態研究ができるということにおどろきました。
・ツルの研究手法や研究内容が予想外でおもしろそうでした。

 

 →私も、研究を始めた当初はここまで発展できると思っていませんでした。今では、私の研究対象は史料のなかに生息するツルだという意識で研究を続けています。江戸時代に関しては、生態も含めていろいろな動物の研究を行うことが十分に可能だと思います。今後、研究仲間が増えることを熱望しています。

 

・理系のような文系のような面白い研究ですね。


 →理系も文系も関係なく、ツルを軸として色々な分野を横断できる研究を作っていきたいと思っています。自分では、良い意味で「隙間産業」と呼んでいます。

 

・「ここに資料があるかも!」という情報はどうやって得るのですか?


 →最初は手がかりがほとんどないので、全くの手当り次第です。そのため、まずは全国の都道府県立の図書館や資料館などを対象に調査を行いました。すでにツルの記録が確認できている地域は重点的に調査したりもしますが、あまりヤマを張ってしまうと重要な情報を見落としてしまうので、今でもできるだけ手当り次第を心がけています。

 

・鶴について古文書から探す際、どれくらいの割合(何冊中1冊)で目的の情報が得られますか?


 →1000ページほどもある10冊、20冊の資料にあたって1ページも見つからない時もあれば、ほとんど全ての資料からツルが出てくる時もあります。ただし、ズバリ欲しい情報が得られることはほとんどないので、手に入った情報を上手く整理して使っています。

 

・古文書を学んでいるのですが、くずし字が難しいです。古文書(くずし字)を読む際の久井さんのコツ等(こんな所に気をつけて読んでいる等)ありましたら教えて下さい。
・古文書を最初はまったく読めなかった!ということが意外でした。


 →実は今でもほとんど読めていないです…。自分で頑張って読むことができる史料だけを使っているので、本当は使いたいけど使えないような史料が手元にたくさん眠っている状態です。今後、頑張って読めるように努力していきます。ただ、とにかく「鶴」を探すことに全力を注いできたので、「鶴」を発見することだけは誰にも負けない自信はあります。

 

・研究を進める上で苦労したことなどがあれば、教えていただきたいです。


 →膨大な資料の収集や整理はもちろん大変でしたが、資料の収集で全国各地を回っていた際は、旅費の節約に苦労しました。お湯の出ないような安いホテルに泊まったり、二日連続で夜行バスに乗ってみたり…。今では良い思い出です。

 

・アイヌ民族で“ツルのダンス”がありますが、アイヌの踊りに関心はありますか?


 →アイヌの「鶴の舞」にも興味があります。踊りの形や、地域によっては違う鳥の名前で呼ばれていたりもするそうなので、いつか調べてみたいと思っています。

 

・このような研究の方法は他の分野にもいかすことはできるでしょうか?
・歴史鳥類(獣)学は科学史や生態を研究する人や環境を研究する人など多くの分野に貢献できそうですね。


 →ツル以外の鳥類、さらに鳥類以外の哺乳類や魚類など、あらゆる生物に応用可能だと思います。過去の情報を把握することは、現代での取り組みにも必要なことですので、様々な生物の「歴史」が明らかになっていけば良いなと思います。

 

・今後はツルの研究をどのように進めていく予定ですか?
・今後、次の段階であるとしたら、どちらに広がりを展開していかれるのか?(海外(中国とか):space、縄文・奈良・平安:時代、鳥種:species)
・海外にも資料があるんですか?


 →今後は、食文化や流通などのツルと人との関わりにも力を入れていきたいですし、もっと時代を広げて、遺跡資料なども使っていきたいと思います。また、文献と併せて、理化学的な手法も取り入れてみたいです。外国語ができれば、海外の資料にも興味はあるのですが…。やってみたいことはまだたくさんあります。

 

(当日は来場者の方に直接、質問を投げかけていただきました)

 

 

―質問その⑤ 同定について(このツル何のツル?)―

 

・古文書中の鶴の字に雨かんむりが付いているのはなぜなのでしょうか? 


 →正確な理由はわかりませんが、史料をみていると、ほかの鳥との読み間違い・書き間違い防止の意味があったのではないかと思っています。「鶏」と「鶴」など、間違われている事例が結構多くみられます。

 

・頬の赤いのをどう解釈して黒鶴をナベヅルと定めたのでしょうか。もう少し詳しくお聞かせください。


 →当日にお見せした史料だけでは同定は難しいのですが、実際の研究の場面では、ツルについて記述がある、あらゆる史料から総合的な分析を行っています。例えば「黒鶴」の場合では、「黒鶴」に関する様々な記述を分析し、その結果として、当時「黒鶴」と呼ばれていたツルは現在のナベヅルを指す場合が多いことを明らかにしました。これを踏まえ、例えば当日出した史料の場合では、以下のように同定作業を進めていきます。①「黒鶴」以外に記載があるツルの名称を確認する。②それぞれの特徴を手がかりにして、史料上の名称を現在の種へ比定する。③「黒鶴」には頬が赤いという特徴が書かれているが、実際に頬が赤い特徴をもつマナヅルは「真鶴」に比定しているため、「黒鶴」はマナヅルではない。④頬が赤いこと以外は、「黒鶴」の特徴はナベヅルに近い。⑤特徴が完全に一致するわけではないが、他の史料から把握した江戸時代の標準的な分類や当時の渡来状況を踏まえ、本史料の「黒鶴」をナベヅルに比定する。このように、おおまかには以上のような手順で同定を進めています。実際には、本史料の著者が述べる「頬」が、正確にはどの部位を表わしているのかは明らかでないという難しさもありますが、ひとつの史料だけではなく、複数の史料の情報を用いながら可能な限り正確な同定を心がけています。

 

・江戸時代の鳥類学のレベルの高さを具体的に教えてください。


 →江戸時代の史料上の名称から、現代の種名へと比定できるだけの情報が残されていることが、レベルの高さを示していると思います。江戸時代の史料をみていると、非常に膨大かつ細かいところまで鳥類に関する情報を記録していることに驚かされます。もちろん、なかには誤った情報も含まれてはいますが、ほとんどの情報は現在の科学から評価しても十分に通用する水準にあると思います。

 

(古文書からツルを探すのは、なかなか骨が折れる作業です……)

 

・ツル以外の鳥がツルとされていた事例にはどのようなものがありますか。


 →ツル以外の鳥がツルとされていた事例には、いくつかのパターンがあります。一つ目は、単純にツルと勘違いしていた場合で、よくいわれるのはツルとコウノトリを間違ったという話ですが、史料をみているかぎりこの事例はあまり多くないように感じています。二つ目は、ツル以外の鳥を意図的にツルと書いていると思われる場合で、これは「鶴」の縁起を使いたい場合に多くみられます。例えば、何かおめでたい出来事があった際、本来は木にはとまらないツルが松の木にとまったり、樹上に巣を作ったりします。本当に見間違っている可能性も皆無ではありませんが、意図的と解釈できる記述が多くみられます。三つ目は、ツルではないことが説明されているにもかかわらず、名称に「鶴」の字が入っている場合ですが、この場合はツルの仲間ではないことが明記されていることもあります。

 

・ツルとコウノトリの識別についてと、松とツルの組み合わせが意図的に行われた(縁起物だから差し替えられた?)のかについてご講義いただければと思っています。


 →江戸時代の史料では、ツルとコウノトリの生態や形態が明確に区別されており、両種が別種であることを指摘する記述もみられます。そのため、ツルとコウノトリは明確に識別されていたと認識しています。松とツルの組み合わせについては、あくまでも縁起の良いものを組み合わせた吉祥図像であるため、生物学的な正しさによって評価するべき性質のものではないと考えています。江戸時代の人々も、ツルは木にとまらないことを指摘したうえで、縁起物同士を組み合わせたのだろうと述べていました。

 

(はがきに描かれたツル。松竹梅や富士山など、縁起物との組み合わせが多いですね)

 

 

―質問その⑥ 分布について(ツルはどこに生息していたの?)―

 

・明治初期、札幌へ開拓に入った人がツルをみた!自宅の飼い猫がツルのヒナをくわえて帰ってきた!などの話をききましたが、札幌には明治初期、どのくらいの数のツルがいたのですか?教えて下さい‼


 →どれくらいの数がいたのか、正確なところはわかっていないのですが、数羽が飛んでいるのを目撃した記録などもありますので、「稀に渡来する」程度の数ではなかっただろうと想像しています。空知や千歳など、札幌の周辺にもツルは生息し、繁殖もしていたようなので、周辺地域を含めた石狩低地帯で考えると、当時はツルの一大生息地だった可能性もあると思います。

 

・手稲にツル多し‼何の文献に出てましたか?


 →玉蟲左太夫の「入北記」に記述がありました。

 

・ツルの地図がスゴイですね!全国にいたんですね。
・かつてのタンチョウの分布がほぼ日本全国におよんでいたことが印象的でした。
・「昔からかかわりが深い」ということだったのですが、北海道に生息しているのみなのになぜ?と疑問でした。現在よりも広い範囲に昔は生息していて食用にもされていたという点が驚きでした。ありがとうございました。
・ナベヅル マナヅルか北日本にいたこと。朝鮮半島しかないと思っていました。


 →現在は北海道でも東部のみに集中しているので、私自身も、初めて史料を見たときは驚きでした。自分の住んでいる近くにも、昔はタンチョウが生息していたのかもしれない!と考えると、素敵ですよね。

 

・伊豆半島つけ根に「真鶴」という地名がありますが、先ほどの分布図にはないのですが?そのあたりでよく見られていたわけではないのでしょうか?


 →この地域にツルが生息していなかったとは言い切れませんが、伊豆半島の「真鶴」は、半島の形がツルに似ていることに由来しているようです。地名にみられる「鶴」については、元は「水流(つる)」や「弦」などの漢字だったところが、書き換えられて鳥の「鶴」になった場合もあるそうです。

 

(「千歳」という地名もツルと関係があるとか……?)

 

 

―質問その⑦ 「獲る・贈る・食べる」について―

 

・タカを使ってツルを獲っていたことにおどろいた。
・将軍の鷹狩りのためにツルをわざわざ慣れさせるといった入念な準備がされていることが印象的でした。
・ツルを鷹狩りのために育成していた点が言われてみるとなるほどと思いました
・ツルの鷹狩り=接待ゴルフ。当時のサラリーマンも大変だなあ。


 →将軍の鷹狩でツルが獲れなかった、あるいは鷹狩の際に獲物が見つからなかったなどという事態はあってはならないことだったので、万が一がないように入念に準備が行われていました。また、獲物となるツルだけではなく、ツルを獲る側のタカの調教も大変だったようです。ツルを獲る際にはオオタカを使いましたが、自然界ではツルはオオタカの獲物にならないため、野生で育ったオオタカは本能的にツルに向かっていかないそうです。そのため、幼鳥の頃に捕獲した個体をツル用に仕込む必要があり、ツルを獲るタカを育て上げるのは、鷹匠の腕の見せ所でした。

 

・在職期間が短く、世情が物騒な幕末期に十三代将軍徳川家定がたかがりを行っていたこと。まだそれだけの余裕があったのかと意外でした。


 →将軍の鷹狩は娯楽ではなく、天皇へ献納するためのツルを捕獲する儀式的な意味合いが強かったため、実施する必要があったのだと思います。その後、将軍による鷹狩は、十四代将軍徳川家茂が最後となったそうです。ただし、鷹匠による鷹狩は続けられていたようで、鷹場の廃止はさらにそのあとだったといわれています。

 

・お殿様の“接待” 鷹狩りの話が面白かったです。現在の道東のえさやりのような形だったのでしょうかね。


 →江戸時代の給餌は、ツルを誘致し、定着させることを目的としていたため、現代の給餌とは性質的に全く異なっていたといえます。さらに、鷹狩に供するツルを仕込むという意味で、もっと調教的な側面が強かったのではないかと思っています。

 

・江戸時代にツルを食べていたことに率直に驚いた。
・“鶴”は神聖な生き物として扱われていると思っていたのでツルが昔食べられていたのは意外でした。
・献上というとその後は飼育したり、鑑賞するように利用されているのだろうと思っていたので、食べられていたというのは衝撃でした。
・「黄筋」、「鷹狩り」の話が面白かったです。食とツルの話がなかなかつながらなかったので、新鮮でした。


 →私も、昔はツルを食べていたということをはじめて知ったとき、さらに「塩鶴」という言葉を知ったときは衝撃でした(今ではすっかり慣れてしまいましたが)。飼っていたツルが死んでしまったあと、食用や薬用に活用していた藩もあるので、ツルは最後まで大切にされていたのだなあと実感しています。

 

・ツルを食べるということ(江戸時代)。しかも、もどきを作るほどポピュラーだったこと!
・ツルの味が魚で再現されてること。
・ツルを食べる…とは、昔の日本人は魚はよく食べるけれど、動物の肉はめずらしいものだったのか…それともツルの肉だから、ありがたい(めったにない)ものだったのか…と思いました。


 →江戸時代には、獣肉をほとんど使わないかわりに、ガンやカモなどの野鳥の肉もよく食べられていました。ツルを食べることには、やはり縁起の良いツルにあやかりたい、力を取り込みたいという意味があると考えています。日本に生息する鳥類のなかでも特に大きく、見栄えが良いので、ツルであること自体に特別な意味を見出していたとも考えられます。庶民にとっては、縁起の良いものであり、さらに、基本的には権力者だけが食べるものという憧れの鳥であったため、もどき料理が作り出されたのだと思います。

 

・日本では、いつ頃までツルが食べられていたのでしょうか?
・ツル食文化はいつ頃消滅したのかについて知りたいです。


 →明治時代頃までは新聞記事などにもツル料理の記事や広告が載っているのを見ます。その後、戦前・戦後の食糧難のなかで食べられていたという話も聞いたことがあります。

 

・やっぱり食べますよね!
・鶴の証(筋)!
・鶴であることを証明するのに解剖したこと。
 ※筆者注:久井さんは、ご自身でも「つるもどき」を作ったり、ツルの解剖に立ち会って「黄筋」(=ツルの証)を確認したりしたそうです。

・ツルの「黄筋」とは解剖学的には何という部位ですか?なぜコウノトリやサギには無いのですか?


 →骨化腱というそうです。なぜコウノトリやサギにはないのか、ほかの鳥類ではどうなのかということについては、今後調べていきたいと思っています。

 

・やはり、江戸時代に高級食材だった“ツルの料理”ですね。特別天然記念物だから、食べることはできないけれど……予想ですが、ニワトリの肉に感じが似ているのではないかと……食感とか……


 →食べてみないことには何ともいえませんが、ニワトリの肉よりはもっと弾力があるのではないかと想像しています。ニワトリでも、歯ごたえがあって味の濃い地鶏のような…。ただ、ニワトリよりも色々な餌を食べているので、味は全く違うのかなと思います。薬効的には「血の病」に良いらしいので、鉄分が多いのかもしれません。先日、ヒヨドリを食べる機会がありましたが、家禽とは全く違い、レバーのような濃厚な味でした。ツルはどんな味がするんだろうと想像するのが面白いですね。

 

・もし食べられるとしたら何ヅルを食べたいですか?


 →まずはタンチョウに興味がありますね。最終的には、全てのツルの食べ比べをしてみたいというのが夢です。

 

・タンチョウは何の目的で飼うのか(食べるより飼うのに適している)?


 →やはり綺麗な鳥なので、観賞用という目的が大きかったと思います。城や屋敷の庭園などで飼育していた記録がみられます。また、人に馴れやすい鳥でもあるので、愛玩鳥としても好まれていました。

 

(「実は、私が作ったのは『つるもどき・もどき』です」と久井さん)

 

 

―質問その⑧ 「江戸時代のツルと人との関係」について―

 

・ツルが江戸時代も庶民に親しまれていたことが意外でした。


 →やはり縁起物として親しまれる存在だったようです。欄間や飾り瓦などにもツルの意匠が多くみられます。

 

・江戸時代に、ツルの利用として種別して食べる、また飼養すると異なっていたことが意外でした。


 →これまでは私も、江戸時代の「鶴」として一括りに考えていたのですが、色々な史料をみていくと、種によって利用の場面が違った可能性があったのではないかと思うようになりました。単純に史料上の「鶴」ではなく、史料上に記載されている「鳥類としてのツル」に注目したからこそ、明らかにできた事実だと思っています。

 

・江戸時代に鳥類学者がいたなんてびっくりしました。イメージでは食べてるか食べれないか区別するくらいなのかと(笑)。


 →江戸時代の人々は、現代の私達が考えるよりもずっと多くのことを考え、熱心に「研究」を行っていたようです。勝手な印象から、カメラも双眼鏡もない時代に…といわれますが、そういう時代だからこそ、その日その時に観察できる機会を大切にしていたのだと思います。また、研究者同士の情報交換や議論も活発に行われており、たとえ偉い先生が提唱した説でも、違うと思ったことは遠慮無く指摘をしていたといわれています。

 

 

―質問その⑨ 「過去のツル」研究と現在とのつながりについて―

 

・ツルは湿原という環境を象徴する鳥にも考えられそうに思います。ツルを利用して江戸以前の過去環境を復元することは可能だと思いますか?
・古文書の記述が生態保護に反映された先行事例はありますか?


 →古文書から明らかになったツルの過去の分布情報は、現在、ツルの分散の取り組みの現場などで基礎情報として活用されています。過去の環境をそのまま復元することは難しいと思いますが、ツルをシンボルに、ツルが生息していた頃の環境を再生するための根拠として活用してもらえればいいなと思っています。

 

・ツルは渡りを本来する生き物だと思っていました。今日本に定住しているツルが将来に渡るということはあり得るでしょうか。


 →日本に渡来しているマナヅルやナベヅルは、現在でも渡りを行っています。現在の渡来地は九州が主ですが、その範囲が、江戸時代の頃のように日本中に広がっていく可能性もあるかもしれません。また、北海道に周年生息しているタンチョウも、もしかしたら、北海道と本州を渡るようになる日が来るかもしれないですね。

 

・現在のツルの数は以前より増えたか減ったか?


 →江戸時代の史料では、ツルの数を正確に数えているものはほとんどないので、江戸時代に日本全体にどれくらいの数のツルが生息していたのかは明らかではありません。ただし、現在のように限られた地域に集中していたわけではなく、数羽から数百羽程度の群れが所々に分散して生息していたことが、史料の断片的な情報から推測できます。

 

 

―質問その⑩ 「鶴の品々(=ツルグッズ)」について―

 

・ツルグッズを集めようと思ったのはなぜですか?
・ツルグッズの多さにおどろきました!どこで買われているんですか?


 →なぜでしょうか。実ははっきりとしたきっかけを覚えていません。いつの頃からか意識して買うようになったのですが、おそらく、はじめはなんとなく目についたものを買っていただけだったと思います。それが今や、完全に習慣化してしまいました。
普段は、どこで買うということは決めていないので、行った先々で目についたものをとにかく買い集めています。ツルとの遭遇率が高いのは、和物雑貨屋や文房具屋です。年末年始は縁起物としてのツルが活躍する季節なので、私は「ツル(グッズ)狩のシーズン」と呼んでいます。

 

・ツルの羽の織物はあったのですか?


 →あったといわれています。史料にも、ツルの羽毛を使った衣のことが記されていますが、事例は非常に少ないです。鳥の羽毛を使った衣に関する記述は、ツルよりもハクチョウやコウノトリに多くみられました。

 

・ツルよりカラスが好きとのことでしたが、カラスグッズもお持ちなのですか?


 →カラスグッズも持っています。カラスの服は普段使いもしていますが、ツルグッズのように見つけたらほぼ買っているわけではないので、持っているのはほんの数点です。

 

(ずっとテーブルの上にいたツルたちも、久井さんの私物でした)

 

(久井さんのお話を聞いて、ツルグッズの見方が変わったかも?)

 

 

―その他―

 

・ツルを獲る、贈る、食べるというのは文化的な側面であって、タイトルにあるような「生態」とは違うのではないかと思うのですが、そのあたりの語の定義はどのように捉えていらっしゃいますか?


 →ご指摘いただいた通り、獲る・贈る・食べるというのは「ツルと人との関わり」の側面であり、過去の分布や渡り、繁殖の実態といったツルの「生態」とは異なります。普段の研究では明確に区別しています。

 ※筆者注:ツルの歴史的・文化的側面(=「ツルと人との関係」)から、過去のツルの「生態」の一端を捉えているのが久井さんの研究ではないかと、私たちは考えました。生物学や環境学などの分野だけでなく、このような視座で過去のツルの「生態」を明らかにすることもできるということをサイエンス・カフェの場で取り上げたく、このタイトルを採用しました。

 

 

結び:関係者およびご来場者いただいたみなさまへ

 

第96回サイエンス・カフェ札幌「鶴の今昔、拝見つかまツル!~古文書から読み解くツルの生態~」に関するご報告は、これにて完結です。

 

カフェの実施に際しましては、企画・準備から当日まで、多くの方々にご指導・サポートいただきました。ゲストの久井さん、対話の場の創造実習の古澤先生、種村先生および他のメンバーのみなさま、グラフィックデザイン実習の池田先生とメンバーのみなさま、他のCoSTEPの先生方、受講生のみなさま、そして、当日ご来場下さったすべての方に心から感謝申し上げます。

 

対話の場の創造実習:山本晶絵、小川恵子、谷口季子、鶴飼里菜、橋本慎太郎

 

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第96回サイエンス・カフェ札幌「鶴の今昔、拝見つかまツル!〜古文書から読み解くツルの生態〜」を、2017年9月10日(日)14:30より開催します

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チラシデザイン:第96回サイエンス・カフェ札幌「鶴の今昔、拝見つかまツル!~古文書から読み解くツルの生態~」

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