2018年05月23日

授業レポート

「対話のその前に~コミュニケーションのための科学哲学」(5/19) 松王政浩先生講義レポート

 

熊谷まりな (2018年度 本科/学生)

 

 

今回の講義は理学研究院で科学哲学を研究している松王政浩先生をお招きしました。松王先生は以前CoSTEPの部門長をされていた経験があり、現在はオープンエデュケーションセンターのセンター長を務めています。そんなCoSTEPとのつながりが強い松王先生に「科学を噛み砕く」とは何かをお話していただきました。

 

 

 

「科学を噛み砕く」の一般的な意味ともう一つの意味

 

一般的に「科学を噛み砕く」とは、科学論文などで述べられている内容について難しい部分を省略したり、例示を使ったりすることでわかりやすく非専門家に伝えることとして認識されています。しかし、本当にこれだけで「科学を噛み砕く」ことができているのでしょうか?

「科学を噛み砕く」にはもう一つの意味があると松王先生は述べました。科学論文にはその分野の専門家にとって暗黙の了解となっている「前提」がありますが、一般の人が知りたいことが実はそこにある場合もあります。つまり、その「前提」をわかりやすく伝えることこそが、「科学を噛み砕く」のもう一つの意味なのです。

これは科学技術コミュニケーションにおいて非常に重要な考えですが、論文などで直接的には語られていないことを伝えるのは難しいことです。そこで、このような問題に焦点を当てた学問である「科学哲学」の考えが科学技術コミュニケーターにも必要となってくるのです。

 

「前提の噛み砕き」が必要な二つの例

 

「前提の噛み砕き」が必要となる場合について、松王先生は二つの例を出しながら説明しました。

 

一つ目は原因究明や因果関係の判断に関わる科学的研究で、恐竜絶滅の原因やジカ熱と小頭症の因果関係を解明することなどが事例として挙げられます。事実を列挙しただけでは非専門家がそこに因果関係を見出すことは困難であり、その判断理由(前提)も含めてわかりやすく伝えることが科学技術コミュニケーターの役割だと松王先生は述べました。

 

もう一つの例は、気候変動や情報などに関する研究のような、社会への情報提供が求められる科学的研究です。データをただ開示されただけでは、自分たちがどうすべきなのか一般の人々にはわかりません。そのために「前提の噛み砕き」が必要となってきます。しかし、科学者は社会や人々に対してどう動くべきかまで提示(価値判断)すべきではないという意見もあります。この問題に対して松王先生は価値判断していい場合としてはならない場合の整理を試みており、それによって「前提の噛み砕き」がしやすくなっていくのではないでしょうか。

 

 

 

科学技術コミュニケーションと科学哲学

 

私は科学哲学という分野を今回初めて知りましたが、この講義によってその必要性と面白さに気付かされました。科学技術コミュニケーションを学ぶ身として、社会と科学をつなぐ科学哲学についてもっと勉強していきたいです。

 

 

松王先生、貴重なお話をありがとうございました。