2018年07月25日

活動報告

「研究者とクリエイター:森について考える」授業を行いました

 

北海道サマーインスティテュートで開催している授業「研究者とクリエイター:森について考える」。天塩研究林を対象にして、北海道の森をみる科学者の視点とクリエイターの視点に同時に触れることで、森の多様な見方を考える授業です。高等教育推進機構と遠友学舎で7月5日から13日まで、英語で行い、海外からの留学生と北大生で8名が受講しました。

 

講師は5名です。科学者としては北大天塩研究林の小林真先生、クリエイターとして韓国から招待したデザイナー南美慧(ナム・ミヘ)先生と写真家の金ボリ先生、全体構成と聞き手、アーティストとしてCoSTEPの朴炫貞、奥本素子が講師を勤めました。

 

 

ブラインドコントゥアドロイングのワーク

 

初日、授業の全体とメンバーを知る

最初の時間は、授業の目的を深く理解した上でアイスブレーキングに移りました。お互いの顔を紙を見ないで描くブラインドこんトゥアドロイングを、全員で行いました。「ドロイング」を通して、自己紹介ができ、自分が対象のどこを見ているかが確認できると同時に、他人が自分を見る時どういうところに目が行くかを確認することができました。描いたものは、描いたものを描かれた人別・描いた人別で、それぞれ並べた紙をみんなでみることで、情報を分けて見ることを体験しました。

 

 

 

森で説明している小林先生とその話を聞く学生

 

森と科学者

続いて、天塩の研究林を中心に森の循環について研究している小林先生から科学者としての森の話を聞きました。特に北海道の森の持つ特徴として、針葉樹と広葉樹が混ざっていること、ササが生い茂っていることなどをあげながら、森の見方について話しました。一見美しく、静かに見える森の生態は、実は生を巡る厳しい戦いが存在していることが分かり、森をよりよく見つめたい気持ちになりました。そこから札幌キャンパスの森にみんなで行き、森の説明や、観察方法に関する説明を受け、森を観察しました。

土壌の生物について説明する小林先生

 

 

写真について話している金先生

森でポートレート写真を撮影している様子

森と写真

2日目は、森と写真の会でした。瞬間の美しさに注目して捉える写真家の金ボリ先生から、写真を撮る時の態度についての話を聞きました。金先生が大事にしているのは、被写体との信頼であり、撮影する前にコミュニケーションを行うことで、その信頼をつくることが最も大事だと言います。また自然光を用いて撮影する金さんのスタンスを、今までの金先生の写真を見ながら確認しました。それから天塩研究林を記録するため、半年間小林先生を撮影したことについての話を聞き、金先生が撮影した小林先生の写真を鑑賞しました。

森で撮影している学生

 

そのことを踏まえ、前日小林先生と行った札幌キャンパスの森に再び出かけて、インスタントカメラでお互いのポートレートと、森のスケッチを写真で行うワークをしました。人を撮ること、人に撮られることを意識しながら、光を発見することや演出することを考えながら撮影しました。また写真を通して自分が見たものをスケッチすることも意識して行いました。ワークの中で、金先生がそれぞれの学生を、ワークで使用したインスタントカメラで撮影することで、同じ環境で撮影する時の注意点や発見方法を学べる機会になりました。

 

 

南先生が天塩の森と札幌から制作した作品イメージ

南先生の授業風景

 

森とものづくり

続いて、伝統工芸を軸にして今のものづくりを考え、作品制作をしているデザイナー南 美慧先生の授業3コマが、2日にわたって続きました。まず南先生の今までの作品を見ることでデザインのプロセス、コンセプト作りについて学ぶ時間になっていました。2時間目には、主に日本で行われている森に関するデザインプロジェクト6つを紹介してもらいました。人工林が多いことと、森の効率良い使用までの循環、地域産業の衰退という森の問題を解決するため、デザインの力を利用した事例を通して、デザイン・シンキングでモノゴトを理解し、表現する視点を学ぶことができました。

 

作品鑑賞時間。展示の形で作品を見せ、コンセプトが作られるプロセスに触れている様子

学生が考える作品の意図をそれぞれ発表し、共有している様子

 

そのことを踏まえ、3時間目には天塩の森と札幌から受けたインスピレーションを元に制作した南先生の新作を鑑賞する時間を設けました。作品に対する説明をする前に、学生が作品の意図を考えて発表した中には、デザイナーが考えられなかった解釈もあるほど、それぞれの発想で想像していました。そこから、作品説明があり、森とものづくりの会がが終わりました。

  

 

それぞれが考える森を発表する

5日目には、講評の時間が続きました。1時間目には前の週に森で撮影したインスタントカメラ写真を鑑賞し、良い写真とは何かについて深く話し合いました。撮ることと撮られることの違い、自分が評価する写真と他人が評価する写真の違い、光の使い方について語り合い、最終的に自分が最も良いと思う写真と、自分が写った写真の中好きな写真を相談して決め、最終プレゼンテーションで課題と一緒に提示できるようにしました。

 

最終プレゼンテーションの様子

 

最後の時間には、学生の「A4サイズで自分が感じた森を表現する」最終課題を鑑賞し、講評しました。まず使用された手法が、スケッチ、コラージュー、詩、データビジュアライゼーション、立体、写真など様々でした。扱うテーマや内容も多様で、森で受けた個人的印象から調査やデータを用いたものまで色々でした。共通しているのは授業で学び、体験した内容とリンクされたことと、自分のオリジナリティーを出そうとしている試みがあることでした。

 

授業の振り返りでは、様々な講師から学ぶことが多かったという意見や、森をより深く見られるようになった意見、多文化交流ができた意見、夏の北海道を楽しめたとの意見、もっと続けて欲しいという意見など、肯定的な評価がたくさん見られました。

 

 

森をみる、そこから見えてくるもの

授業全体を通して、森をより多様な視点で理解しようとした態度が見えたところが、講師が皆同意し、評価した部分でした。この授業は、科学を伝えることからさらに進み、科学をどのように見るか、科学と他の学問はどのように似ていて、どのように異なるかをみる試みで企画したものです。科学技術コミュニケーションは、担い手も対象も様々です。今回は森がテーマでしたが、身の回りにあるモノゴトに対しても多様な視点があること、それを理解する人の多様性を体験し、理解することから、より深いコミュニケーションが生まれると考えます。

 

 

 

10月頃、この授業をまとめた冊子の発表と共に、授業の内容を共有するトークイベントを札幌で開催する予定です。南さんの作品はまだプロートタイプの段階ですが、より多くの方々が生活の中で天塩の森が楽しめるよう、製品化も検討しています。今後より豊かになるこの授業の内容も、楽しみにしてください。

 

<トークイベント> (追記)

【日 時】2018年10月25日(木)18:30-20:00
【会 場】北海道大学 遠友学舎

【ゲスト】小林真さん(北海道大学 北方フィールド科学センター准教授)

     南美慧(デザイナー、趣美社代表)

【進 行】朴炫貞(北海道大学 CoSTEP 特任助教)

【主 催】北海道大学 CoSTEP

【支 援】札幌文化芸術振興助成金