2019年01月12日

授業レポート

「新たな研究資金獲得を担うファンドレイザーの取り組み」(12/15) 渡邉文隆先生の講義レポート

佐生 愛(2018年度 選科B / 社会人)

 

今回は、渡邉文隆先生(iPS細胞研究所 所長室 基金グループ長)に「新たな研究資金獲得を担うファンドレイザーの取り組み」というタイトルで講義をして頂きました。

 

(講義をしている渡邉先生)

 

ファンドレイジングとはなにか?

ファンドレイジングとは、NPOやNGO、学校、病院などの非営利団体が活動資金を集める行為のことを指します。本講義では主に募金によって活動資金を集める行為のことをファンドレイジングと呼びます。社会へ研究や科学一般を知って貰うための科学技術コミュニケーションとは少し異なり、ファンドレイジングは金銭的支援を獲得するためにコミュニケーションを行います。

 

職業としての「科学技術コミュニケーター」

今後、国の研究予算は削減されていくと予想されるため、国立大学を含む非営利組織では自主財源がますます必要となります。その際に「ファンドレイジング」は研究資金獲得のための重要な活動となりうるため、「ファンドレイジングが分かる人材」は今後重宝される人材であると言えます。

つまり、もし私達が「十分な寄付金を募ることができる科学技術コミュニケーター」になることが出来れば、コミュニケーション活動が研究機関にとって「コスト」から「利益」となり、私達のやりたい研究活動も自由に行う事が可能である、と渡邉先生は言います。

 

(受講生も興味深く聞いていました)

 

日本の寄付市場

寄付は一見頼りない財源のように思われますが、日本の寄付市場は年間1.4兆円、日本国民の40%以上が寄付をしていることになります。米国での市場規模約30兆円である事を考えると、日本では寄付市場は今後成長余地のある財源であると言えます。また、寄付は法学的、経営学的にも未開拓であるため、開拓の余地がある財源であるとのことです。

 

募金活動からファンドレイジングの仕事に至るまで

渡邉先生は中学3年生のときに父親を食道がんで亡くし、あしなが育英会の奨学金で京都大学の総合人間学部に進学しました。学業の傍らあしなが学生ボランティア活動を勢力的に行い、また学生時代にブラジルやウガンダへ渡航し、インターンやNPO法人でのボランティア活動の経験を経たことで、学術的な知識をマーケティングなどの実務に応用する面白さを知ったと渡邉先生は語ります。渡邉先生は大学卒業後、一般企業で環境ベンチャーでのマーケティング事業や実務に携わりました。

企業で働き順調な生活を送っていた渡邉先生ですが、転機が訪れます。それは長男が先天性食道閉鎖症という難病を持って生まれたことです。非常に難しい手術でありましたが、現代医学の進歩のお陰で無事に助かり、手術費用の500万円はほとんどが高額療養費制度でカバーされ、渡邉先生はこの時に日本の医学に感銘を受けたそうです。この出来事がきっかけで、渡邉先生は医学研究やヘルスケアの支援に興味を持ち、iPS細胞研究所にてiPS細胞研究基金の運営に携わることになりました。

 

iPS細胞研究基金とは

iPS細胞とはinduced Pluripotent Stem cellの略で、人工多能性幹細胞と呼ばれます。iPS細胞は血液や皮膚の細胞から作られ、神経細胞や心臓細胞などの他のあらゆる細胞に変化させることができるので、再生医療や薬の開発への応用が期待されます。iPS細胞研究の研究環境や支援体制の整備のためには、研究員や事務のみならず、知財や広報、規制など様々な専門家の雇用が必要ですが、現在の国立大学の制度では期限付きの契約職員として雇用するしかありません。しかし、再生医療や創薬の研究開発には数十年かかる事があるため、このような人材を長期雇用するためには自主財源が必要です。そこで京都大学基金の中に設立されたのがiPS細胞研究基金です。この基金の目的は教職員の長期雇用のほか、特許の確保や維持、研究環境の整備などです。

 

(iPS細胞研究基金のフリーダイヤルの説明。高齢者の方にも分かりやすくて覚えやすい数字を選んだそうです)

 

iPS細胞研究基金での取り組み

iPS細胞研究基金では既に山中伸弥所長のノーベル賞受賞によって目標額を達成しましたが、ノーベル賞効果は長く続かず、寄付金額が落ち込み始めた時期に渡邉先生は着任しました。

iPS細胞研究所では、渡邉先生が着任したとき既に山中伸弥先生がマラソンを走って寄付を募り、寄付者に感謝状と収支報告をするなどの活動が行われていましたが、月間の新規寄付者人数がノーベル賞受賞時よりも減少しており、寄付募集の再現性が取れていない状態でした。そこでまず既に寄付をしてくれた人達に対して、寄付者感謝の集いという集会を東京で行うなど既存寄付者への返礼を手厚くしました。これによって寄付者の属性と動機、または寄付一件当たりの単価などが分かり、新規寄付者をどのくらい募れば良いかを見積もることができました。

次に、新規寄付者を募るため、研究に共感してくださる方々(医師や経営者など)への広報活動や、フリーダイヤルを設置することで対応能力を拡充させました。また、ポイント寄付やネット募金、カタログ寄付などを利用して少額寄付にも対応し、認知度を上げることで寄付件数を大幅に増加させました。更に、寄付者への御礼と報告を充実させることで、次への寄付にも繋がるということでした。

このような様々な寄付金募集体制の整備により、iPS細胞研究所では、今年4月から10人余りの職員の無期限雇用が実現しました。

 

(自分の道を切り拓くことの大切さを話ている渡邉先生)

 

本日のまとめとファンドレイザー・科学技術コミュニケーターへの期待

一般的に、日本では寄付の文化が浸透していなため募金が集まらないと言われているそうですが、「今は治らない難病でも、将来の子供達の世代には治る病気になるように」などといった理由で募金される方が少なからずいらっしゃるとのことで、実は日本にも潜在的に募金をしたいと思っている人は沢山いるが、アプローチしようと努力をしている組織団体が少ないだけだと渡邉先生は言います。

科学産業化が進んだ現代社会では、科学者は政府や企業から発注された委託研究を行う科学労働者や管理者と化している現状があり、そうなると研究者は自らの研究を手がけるというよりは契約のための研究や管理を行わなければならないと懸念されています。そうした中で、自分たちの研究を自由に行うためには、自主財源が今後重要になってくるのであろう、と渡邉先生は仰いました。

渡邉先生は科学技術コミュニケーターを目指す私達に、ファンドレイジングを「二本目の刀」として今後の科学技術コミュニケーション活動に役立てて欲しい、とお話をして下さいました。

 

私は大学で特任研究員として働いているのですが、研究に使えるお金がどれだけあるかということは大きな問題であることを痛感しています。自分達で研究するためのお金を獲得し、運営し続ける実践例を交えた今回の講義は、今後研究活動や科学技術コミュニケーション活動をする上で非常に参考になりました。

 

 

渡邉文隆先生、ありがとうございました。