2019年06月14日

授業レポート

「社会の中での科学技術コミュニケーターの役割〜科学ジャーナリストを例に〜」(05/22)隈本邦彦先生の講義レポート

 

鈴木朝子(2019年度 本科/学生

 

記者としての隈本先生

 

今回お越しいただいたのは、CoSTEP設立メンバーの一人でもある隈本邦彦先生。現在は大学教授を兼任しつつ科学コミュニケーターとして活動している隈本先生ですが、それ以前は、25年間にわたってNHKの報道記者として活躍されてきました。専門分野は医療と災害で、「クローズアップ現代」や「NHKスペシャル」などの番組制作にも携わってきた先生が一貫して貫き通してきたテーマは、「患者の権利」でした。先生はジャーナリストとして何を見てきたのでしょうか?

 


社会の中の科学の変遷

 

そもそも、社会の中での科学の位置付けはどう変わってきたのでしょう。かつては専門的なことは科学者に任せ、市民はその判断を仰ぐという一方通行の関係でしたが、今は科学技術がその国の経済力に直結する時代。市民も専門的な判断に携わる権利を持つことが当然とされるようになってきました。しかし、科学技術が進歩するにつれ、四大公害病や原発事故などを経て、私たちはその恩恵だけでなく脅威も感じるようになってきました。


市民と科学者の食い違い

 

科学技術に対する市民の漠然とした不安は、その不透明さゆえ。では、科学者たちはどうすれば自分の研究を市民に伝えられるのでしょう。「問題になるのが、市民と科学者の間には大きな感覚の隔たりがあること。」と隈本先生は言います。科学者はある「1%」に関しては専門家だが、それ以外の「99%」に関しては素人。それにも関わらず、一般市民の感覚を「非科学的」と批判し、その意見を軽視する傾向があるそうです。他にも、市民と科学者の間には情報量、理解度など様々な点で隔たりがあり、そういった隔たりを埋める役割の一翼を担うのが、「科学ジャーナリスト」たちであると先生は言います。

 


科学ジャーナリズムの現状とトランスサイエンス問題

 

市民が科学に関する情報を手に入れる手段は?と聞かれてまず思い浮かぶのは何でしょう。プレスリリース、シンポジウム、論文?それは、特にその分野に興味のある一握りの人たちの場合でしょう。テレビ、新聞、最近ならネットニュースが主なルーツです。私たちが科学技術について判断をする手段として、「情報提供をしてくれる他人」であるマスメディアは欠かせない存在と言えます。


しかし、その科学ジャーナリストを育てるための土壌が、日本のマスメディア界では乏しいのが現状。実際に記者の知識不足・取材不足によって社会に大きな混乱を巻き起こした例は、スモン病の件(1964年、岡山県で起こった集団神経症。メディアは当初伝染性の疑いと書き立てたが、後に薬害と判明。)をはじめ少なくないそうです。社会の中における科学の位置づけが変わってきているにも関わらず、それを伝える上で大きな役割を果たすはずのマスメディアが旧態依然とした姿勢でいるのは、結果として世論を間違った方向へ引っ張っていく可能性を孕んでいると、隈本先生は指摘します。


科学技術の市民への伝達は、もちろん科学者自身にとっても他人事ではありません。「トランスサイエンス」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。ある問題に対して科学的な答えは出せるが、それを実際に社会で適用するかとなると別問題、という、科学だけでは解決できない事象のことです。最近はこういった問題が増えていますが、科学者はそうした抱えきれない問題に関しては「誠実な」態度をとるべきです。できない、わからないことをはっきり言い、メディアもそれをそのまま伝えることが大切だそうです。

 


科学コミュニケーターに求められること?

 

では、科学コミュニケーターはこれからの社会の中でどうあるべきなのでしょう。理想は、科学者コミュニティと一般社会市民の中間にコミュニケーターが立ち、相互の情報及び意見交換を促進させるというものです。しかし現実は、コミュニケーターは科学者コミュニティ寄りでその目線の持ち主が圧倒的。閉鎖的かつ一方通行な関係にならないためには、より一般市民の目線を持ち、科学者コミュニティに疑問を投げかけることのできる人材が求められている、ということです。


まとめ

 

第二回目の講義から、ヘビーなお話でした…。しかし科学コミュニケーションを考える上でジャーナリズムは外すことのできない要素だと思います。個人的な話ですが、先日参加した学会の中でNHKの「ブラタモリ」についての講演があり、製作者と出演経験のある研究者が登壇していました。そこで語られていたのがメディアによる「単純化圧力」に関してでした。より広い層に分かりやすくおもしろく伝えたい製作者の意図は、一歩間違えると誤った情報を膨大な数の視聴者に差し出すという行為になり得る。今回の講義内容と重なり、マスメディアのジレンマを再認識させられたセッションでした。

 

隈本先生、色々と考えさせられるお話をありがとうございました!