2010年09月18日

授業レポート

自然保護地域の科学的・順応的管理と地域社会

今回は、環境省釧路自然環境事務所の則久雅司さんに、生物多様性の保全というテーマで、知床の自然保護を題材にお話いただきました。

 

知床が世界自然遺産に指定されたときに評価された点は、生態系の豊かさとその多様性。北半球で最も低緯度に達する流氷がもたらす海の生物の豊かさが森の生物を支え、海と森の生物が密接にかかわりあっているそうです。私たちは「知床」というと森や湖をすぐ思い浮かべますが、専門家からは「海の世界遺産」と呼ばれているそうです。

 

エゾシカが次第に増加していった結果、森の植生が大きく変わり、樹木が食い荒らされ、生態系のバランスが崩れつつあるそうです。シカに届く幼木は食料とされ、若い木の数が減少するとのこと。「知床の森も超高齢化社会なんです」という表現が印象的です。

 

知床の観光の目玉の一つである知床五湖には散策道がありますが、近年ヒグマが出没し、散策道が頻繁に閉鎖されます。予防原則に従えば、リスクをできるだけ排除するために、閉鎖すべきだということになります。しかしそれでは、観光客が減少し、地元の観光業者の人たちが困る、というジレンマに陥ります。それを解消するために則久さんたちが提案し進めているのが、高架木道を新たに整備すること。こちらはクマと接触することがないので安全に散策できます。従来の地上歩道は、より直に自然に触れ合えることで、「深い自然体験」が可能です。ヒグマの出没状況で閉鎖しなければならないがより自然を身近に感じられる地上歩道と、自然とは少し距離があるが安全な高架木道という2つの散策道を整備することで、利用者は自然体験を選択できるのです。

 

地上歩道の利用希望者は事前にレクチャーを受け、ガイドの引率のもと自己責任で散策します。人数を制限して、静かな環境で自然に触れてもらうのです。今夏、地上歩道の利用コントロール導入試験をしたときのこと。9割の利用者が利用コントロールを望ましいと思っている、というアンケート結果が出たそうです。興味深かったのは、行政側と観光業者側でこの結果の解釈が違った点。前者は肯定的にとらえたのに対して、後者は残りの1割の人に注目して、「1割も賛成しないのだから、観光客が減少してしまわないか」と心配していたとのこと。行政にとって9割が大きな数字であり、観光業にとっては残りの1割が大きな数字だということを知りました。

 

今回のお話で、則久さんが自然保護活動というかたちで、自然環境とその生態系を守り、地域住民との意見調整をして、観光客をしっかりサポートしてくださっていることがわかりました。