2010年10月05日

授業レポート

ダム問題で学んだこと−専門家と市民のコミュニケーション

 

9月29日の講義では、熊本県の川辺川ダム建設問題について、フリーライターの高橋ユリカさんにお話しいただきました。高橋さんは、雑誌の編集者を経てフリーのジャーナリストになった方です。当初は医療問題について取材し著述されていたのですが、水俣病の問題を経て、川辺川ダム建設問題にたどり着いたそうです。

 

 

川辺川は熊本県南部を流れる一級河川で、人吉で本流の球磨川に合流して八代海に注いでいます。川辺川ダムは1966年に、利水、治水、発電を目的に計画されましたが、40年以上たった今も工事は始まっていません。このダムは群馬県の八ッ場ダムとともに昨年の衆議院選挙で民主党のマニフェストで建設中止とされています。

 

高橋さんは、ダム建設を推進する国土交通省と反対派のやり取りを10数年前から取材してきたそうです。行政官や地元住民が参加した住民討論集会などの中で、国のダム政策の矛盾点が次第に明らかになってきました。反対派は専門家と共に川辺川ダムの治水効果を科学的に検証し、球磨川流域のダム周辺の様子や八代海への影響などの環境の変化を調べ、ダム建設反対の論拠となる多くの資料を作成したそうです。残念ながら科学的な議論が根拠にはなりませんでしたが、2007年にはダム計画はすべて白紙になりました。それでもすぐに問題は解決されずに、現在やっと、ダムによらない治水策が決まりつつあるところです。*

 

川辺川ダム建設問題は日本の他のダムにも当てはまります。社会資本整備初期の高度経済成長時代には、大きなダムを造って利水、治水、発電に寄与すると同時に、地域に雇用や産業を生み経済が潤いました。しかし、当時はダム建設によって流域環境が今のように変化するとは予測できなかったのです。現在は社会経済情勢が大きく変化し、河川に対する人々の考え方も変わってきました。一方で、川による被害を受ける代わりに恩恵も受けながら、川と共に生きるという考え方があります。これは、筆者が訪れた有珠山周辺地域で感じた「火山との共生」に近い考え方です。他方、ダムによって流域全体が大きな影響を受けることがわかってきました。そこで、ダムに頼らない複数の治水方法を組合せた対策が求められるようになったのです。

 

技術的判断より政治的判断で決定されることが多い公共事業ですが、防災や利水と環境保全を両立できる事業を実現し、その効果について説明することが、技術者に課せられた使命であると感じました。今年3月、球磨川下流の荒瀬ダムが撤去されることが正式に決まりました。今後、ダムの撤去方法や撤去されたあとの流域の変化が注目されます。

 

レポート:高橋麻理(選科生)

 

* 白紙となった背景には、球磨川漁協がダム着工に反対したため漁業権などの強制収用が申請され、一方、ダム利水に反対する農家が起こした裁判で国が負け、川辺川ダムの事業認定が無効になり、国交省が法的な手続きに入れなくなった事情があります。それで世論も喚起され、2008年に熊本県知事が白紙撤回を発言しました。