2010年10月17日

授業レポート

科学技術と社会の調和を目指して―テクノロジーアセスメントと新たな社会意思決定プロセスを考える―

担当講師の鈴木達治郎さんは、もともとエネルギー政策などの研究をされていて、(財)電力中央研究所上席研究員を経て、現在、内閣府原子力委員会の委員長代理を務めながら、東京大学公共政策大学院の客員教授(無報酬)を兼務されています。科学技術と公共政策の研究の第一線に立ち、テクノロジーアセスメント(TA)の手法の開発と社会への定着をテーマとした研究プロジェクトを中心的に進められてきました。今回の講義ではそのご経験を踏まえて、TAの現状と課題について、その歴史や国内外の事例も含めて、客観的かつ包括的にお話いただきました。

 

 TAは単なる「技術評価」ではなく、従来の枠組みでは扱いにくい先進技術(例えばバイオテクノロジーやナノテクノロジーなど)に対して、その社会的影響を予測し、問題提起や意思決定を支援するための選択肢を提示する活動と特徴づけられます。鈴木さんが「技術の社会的影響評価」という訳を提唱するのは、そのためです。


鈴木さんによれば、科学技術について、「事実」に関する合意が欠如するとき信頼が低下します。そこでTAには、客観的な立場で「事実」を整理する役割が期待されるのです。また、問題を整理するだけでなく、市民が多様な専門家やステークホルダーと対話し協働することをサポートする機能もあります。TAでは、まず技術について問題設定し、その社会的影響評価を行い、アウトリーチするというプロセスを経るのです。

 
米国では1960年代に議会主導で、専門家からなるTAが制度化されましたが、近年では非専門家も参加し、より広い社会的影響を共に考える「参加型TA」が盛んになり、市民らのネットワークでリアルタイムに評価していく「第3世代TA」が出現してきたそうです。例えば米国では、企業や市民からの情報を基に、専門家パネルのレビューも受けて、中立的な立場で様々な製品を多様な視点で評価するウェブサイトが機能しています。日本でも鈴木さんが顧問となって、そうした試みが始まっているとのこと。

 

欧米ではTAを行う機関が設立され活動を継続していますが、日本ではまだTAがしっかりと根づいていません。「TA的な活動」はあっても、当該技術に対する可能な選択肢(代替案)の提示および比較検討や、非専門家を交えた充分な社会的影響評価があまり進んでいないのです。鈴木さんは、自律的・中立的なTA機関が試験的であれ制度化され、TAの専門家を育成することが、日本にTAを根づかせるのに必要だと力説していました。この主張は、科学技術コミュニケーターを養成する組織が制度として確立される必要性と類比的に考えられるでしょう。TAの制度化には、立法を担う政治家などにTAの必要性をしっかりと理解してもらうことが重要だと感じました。