2010年11月16日

活動報告

津田一郎先生からの回答(後半)〜第52回サイエンス・カフェ札幌〜

7月24日に開催された第52回サイエンス・カフェ札幌のゲストの津田一郎先生が、

参加者の方々から当日出されたコミュニケーションカードにご回答くださいました。


すべての質問に丁寧に答えてくださった津田先生に、

感謝いたします。
 

以下、ご回答を掲載いたしますので、どうぞご覧ください。

 

※「問」の文をクリックすると、その回答に移動します。

 

 

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第52回サイエンス・カフェ札幌

「コミュニケーションする脳!? 〜脳をカオスで語る〜」

 

コミュニケーションカード一問一答(後半)


回答:津田一郎先生(北海道大学電子科学研究所教授)

 

  ※前半部(問1〜問22に対するご回答)はこちら
 

 

問23
コミュニケーション能力が低いとされている人が多くなっている現代(子供の中で)それはトレーニングなどでよくなると思いますか? また、どうすればうまくコミュニケーションを図れるようになると思いますか?

 

問24
記憶とはなんですか?物質ですか?また記憶する、とはどのようなことですか?

 

問25
脳も老化していくのでしょうか?→脳のしわが浅くなり、ツルンとしていくようなイメージなのですが→記憶力が低下する現象からのイメージです。その場合、老化をストップさせることは可能なのでしょうか?

 

問26
真似るとミラーニューロンが働くとのことですが、ペットボトルを取ることを他人が真似しても、何も感じないのですがどういう事でしょうか?

 

問27
ミラーニューロン:  教室や試験中など、誰かが咳をすると連鎖していく気がする。

 

問28
どうしたら、(何をしたら)賢くなれますか…創造性、柔軟性が欲しいです。

 

問29
脳のどの場所にあってもニューロンの働き自体は同じなのですか?

 

問30
ひとりで思考しているときや読書している時もコミュニケーション時と同じように働きますか?(共感していたら)

 

問31
ミラーニューロンは影響共鳴しあうのでしたら会話で”社交辞令”などでは使われてそうですか?それともストックから取り出している感じですか?

 

問32
中国雑技団など自分が同じことをできない行動を見た時もミラーニューロンは発火するのか?

 

問33
33-1. ミラーニューロンについて 必ずしも真似ではないけれど実は同期している、という行動(行動パターン)はあるのですか?
お酒を飲むと互いに相槌ばっかり打ってしまうのはミラーニューロンの発火が活発になっているためですか?(まさか…)

33-2. 知人と歩く際に歩調が一致するのはミラーニューロンの影響でしょうか?

 

問34
勉強すると脳のシワが増えるというのは本当ですか?

 

問35
一見ランダムな現象をカオスによる現象か本当にランダムな現象かを判別するにはどのような方法があるか?

 

問36
カオス現象に対して数学的モデルを立てるとき、そのパラメータをどうやって決めることができるのか、またそのパラメータが適当であることをどうやって判定するか?

 

問37
問37-1
”どうき”とはどういう意味で漢字ではどう書きますか?
問37-2
脳波が同期するとはどういう事か?(α波、β波が同じ波形を描くのか、それとも、他人の波形ともう一人の波形が同じ波形を描くのか)
問37-3
同期するってことと、まねをするということは同じような現象に思えるんですが、そのような違いがありますか?

 

問38
計画変更に対応する脳の部位について、アスペルガー症候群や自閉症の症状のひとつに、いつも通りの行動をしないとパニックになるという話を聞いたことがあるが、それもその部位に異常があるのか?

 

問39
なぜ脳に興味を持ったのですか?

 

問40
人の身体運動は外部環境の影響を受けて発現が変化をすると考えられていますが、一方で同じ環境下でも異なる動きをしたり、スポーツ選手がよく言われる”ZONE:ゾーン”の状態に入り、まわりの不必要な情報を遮断して優れたパフォーマンスを達成できたりします。脳は外部からの情報をどうやって/何故?選択しているのでしょうか?

 

問41
41-1. 男脳(理性)と女脳(感情)のカオス的違いは?(発生予防、後天的etc)
41-2. 人間と他の動物での違い、類似性は?(オス・メス)

 

問42
津田先生が1万個のニューロンをシミュレートされるときには一個のニューロンあたり何個のニューロンとつなげられますか?また、接続数はスモールワールド性をもたせますか?

 

問43
言葉に対する脳の反応はシミュレート可能でしょうか?また、そのことによってほとんどの言語で基本音節の長さが一致することは説明できるのでしょうか?

 

問44
共感しあうと気持ちが良くなるしコミュニケーションがうまくいった気になり、気分も落ち着いてくるのが不思議です。

 

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問23
コミュニケーション能力が低いとされている人が多くなっている現代(子供の中で)それはトレーニングなどでよくなると思いますか? また、どうすればうまくコミュニケーションを図れるようになると思いますか?
 

回答23
コミュニケーションに関係する脳の活動を私たちのプロジェクトでは解明しようとしていますが、そのメカニズムが明らかになれば改善の方法も分かってくるでしょう。しかし、脳に特別な障害がないのであれば、たいていの人はコミュニケーション能力を持っているはずです。そうでないと人類は進化しなかったと考えられるからです。ヒトには世代のオーバーラップがあります。哺乳類や鳥類は同じく世代のオーバーラップがあります。これは進化的には大変大きな意味をもっています。この間に親の文化を子供に伝達することが可能だからです。サケを典型として多くの魚類では子供の誕生を待たずに親は死にます。たくさん卵を産んでおけばサケが生き残る確率は高まりますので、親の遺伝子は子供に伝達されます。しかし、鳥類や哺乳類は子供の数は少ないので、ほったらかしにすれば種の絶滅の危険にさらされます。そこで世代のオーバーラップが意味を持つわけです。おもしろいことに、ヒト以外で子供に教育をする動物は現在までに知られていません。サルは子供に教育はしないようです。簡単な動作は子供が親の真似をします。ミラーニューロンが働くのでしょう。サルや鳥類での世代のオーバーラップは主に子供にえさを与え、さらには敵から子供を守ることで、子供を成長させ子供の独り立ちを可能にすることだと考えられます。それに対してヒトは親が赤ちゃんのまねをしてあげたり、共同注意といって子供が見ている同じ物体に親が視線を移したりしながら、親が子供とコミュニケーションを図ることで教育していきます。さらにヒトの場合は学校教育でも教育を受けます。一個人が学んだことは遺伝子として子孫には伝わりませんが、世代のオーバーラップによって効率よく親の世代の知識や知恵が子供世代に伝達されていくのです。教育やその原点であるコミュニケーションが遺伝子の代わりをしているのです。コミュニケーションでは自分を他人に預けるという気持ちが大変重要になります。自分のルールをかたくなに守ってそれだけに従っても他人とはコミュニケーションは取れません。自分を投げ出すことが必要なのです。脳科学がもっと進歩すればどうすれば自分を他人に預けられるかも分かってくるでしょう。今はまだ分かりませんが、そういった気持ちが大切だということを教えてあげるだけでもちょっとした効果はあるのではないでしょうか。

 

問24
記憶とはなんですか?物質ですか?また記憶する、とはどのようなことですか?

回答24
記憶とは過去の経験の痕跡や未来に対する思いや計画の痕跡、さらには現在の作業に関する痕跡です。しかし、思い出さなければ記憶していたと認識できませんから、思い出す過程を含めて記憶過程と考えるべきでしょう。最近では、未来に対する記憶を展望的記憶とか未来記憶と呼んでいます。また現在進行中の作業に関するものを作業記憶と呼んでいます。タルビングによると、記憶は宣言的記憶と手続き記憶にわかれ、後者は運動記憶や操作の順序に関係したものですが、前者はさらに意味記憶とエピソード記憶に分かれます。意味記憶は知識に関する記憶で、エピソード記憶は個人的な経験に関する記憶です。さらに、それぞれのカテゴリーに対して、おおざっぱに短期記憶と長期記憶があります。長期記憶は記憶が完全に固定化された状態であり、ニューロン間の結合に関係した受容体の状態がRNAなどに固定化されたものではないかと言われていますが、詳細はまだ解明されていません。固定化される前の状態は全て短期記憶と言って差し支えないと思います。学者によっては中期記憶と短期記憶を分ける人もいますが、その本質的メカニズムが理解されていないので、便宜的なものと考える方がよいでしょう。短期記憶で有名なのはジョージ・ミラーのマジックナンバー7 (プラスマイナス2) です。誰かに電話をかけるとき7ケタくらいならメモを見ないで一瞬覚えてかけられます。人間は物事を数個のカテゴリーに分けて扱うことが多いですが、短時間にこのような数個のカテゴリー分けが行われます。さらに、階層的になった文章も数階層なら一瞬にして意味をつかめます。最近では、これらのうち作業をするときに一瞬記憶しておく脳の場所が特定されています。前頭葉にあるのですが、この場合はワーキングメモリー(作業記憶)という言葉が使われています。短期記憶は神経回路を経めぐる電流の状態だと言われています。神経回路の様々なダイナミックな状態が記憶と関係あるという仮説があります。このダイナミックな状態が数学的に表現できる場合があって、その場合は記憶はアトラクターとかアトラクター痕跡と言った概念で表現されます。

 

問25
脳も老化していくのでしょうか?→脳のしわが浅くなり、ツルンとしていくようなイメージなのですが→記憶力が低下する現象からのイメージです。その場合、老化をストップさせることは可能なのでしょうか?

回答25
脳も体の一部ですから当然老化します。最もひどい老化が痴呆です。高齢化が進むと老化が大きな社会問題になりますが、老化によってガンか痴呆かの何れかになる可能性が高まります。脳の老化の目に見える原因は脳の委縮です。神経細胞の数が減っていき、また細胞間のシナプス結合が弱くなったり、結合がなくなっていったりして、これが極端な数の減少をまねくと委縮になります。日常的に、結合は増えたり減ったりしますし、結合の強さも変化します。一般に、よく使われる結合は強化され、使われないものは弱くなっていきます。脳のしわは、たくさんの脳細胞を狭い空間に閉じ込める合理的な方法によって生み出されたものです。しわが浅くなるほどであれば委縮は相当進んでいます。ふつうはそこまでにならなくても老化現象は現れます。記憶力が悪くなったとか、人の名前が出てこないとか、判断力が鈍くなったとか、反応が遅くなったとかです。これはある意味で致し方ない現象です。誰にでも訪れる事です。しかし、ちょっとした努力でこの程度の老化は遅らせたり回復させたりすることは可能です。さまざまな刺激を脳に与えるようにすることが一番です。歳をとっても、いろんなジャンルの本を読んだり、運動をしたり、おしゃべりをしたり、ゲームをしたりすればかなりの程度このような老化は防げると思われます。人の名前が出てこないときは頑張って出てくるまでいろんな刺激を使って思い出す努力をすることが大事です。自分で思い出すことができる方法を見つけることも大事です。一件脳とは関係ないように見えますが、脳の血管がしっかりしている人はなかなかボケないと言われています。丈夫な血管を持っている人は脳細胞の新陳代謝が活発に行われるからかもしれません。

 

問26
真似るとミラーニューロンが働くとのことですが、ペットボトルを取ることを他人が真似しても、何も感じないのですがどういう事でしょうか?

回答26
人の場合は広範囲なミラーシステムが働くのです。それを脳が感じることは普通はありません。脳の中で行われている膨大な情報処理をいちいち感じないようにできているのも進化上は重要なことのように思われます。

 

問27
ミラーニューロン:  教室や試験中など、誰かが咳をすると連鎖していく気がする。

回答27
これは一種の安心感からくるものでしょう。他人が咳をしたときには自分がしてなくても同じ脳の領域(ミラーシステム)が活性化されるでしょう。そうすると自分もしたくなるということはあり得ますが、それ以上にその場の緊張した雰囲気をブレイクしてよいのだという安心感から来るのではないかと思われます。コンサートの楽章と楽章の間のちょっとした時間などの観客の咳払いも似たようなものではないかと思います。

 

問28
どうしたら、(何をしたら)賢くなれますか…創造性、柔軟性が欲しいです。

回答28
興味を持って勉強することを続けることです。集中と継続。先人の偉大な業績を再発見できるようになるまで勉強することです。良いものに(人を含め)多く触れることです。自分の現在の力より少しレベルの高いことを勉強するように。その繰り返しです。

 

問29
脳のどの場所にあってもニューロンの働き自体は同じなのですか?

回答29
ニューロンにはいくつかの種類があって、それらの働きは異なっていますが、それらが他のニューロンと切り離されていればどの場所でもむろん同じ活動をします。しかし、他のニューロンとつながってネットワークの中で個々のニューロンはその働きを表に現すので、ネットワークの構造が違えば同じ種類のニューロンでも働きは異なります。人間も同じですね。同じ人でも違うグループの中では役割が異なるでしょう。

 

問30
ひとりで思考しているときや読書している時もコミュニケーション時と同じように働きますか?(共感していたら)

回答30
一人で思考しているときとコミュニケーションをしているときでは基本的に脳活動は異なっていると私たちは考えていますが、まだ明確な証明はありません。しかし、一人で思考しているときでも、仮想的な誰かを想定してその人との仮想問答を行うようにして思考を進めることがあります。このような時はコミュニケーションのときとかなり似た活動になるのではないかと想像しています。

 

問31
ミラーニューロンは影響共鳴しあうのでしたら会話で”社交辞令”などでは使われてそうですか?それともストックから取り出している感じですか?

回答31
質問の意味を十分理解できていませんが、社交辞令のようなときは別の脳の働きがあるのではないでしょうか?社交辞令で関係する可能性があるのは感情などと関係する大脳辺縁系などかもしれません。さらに社交辞令は案外深い論理を刺激するかもしれません。社交辞令と分かっている冷静な部分と、それでもまあほめられればうれしいといった単純な感情の発露が複雑に入り組んだ反応になるかもしれません。

 

問32
中国雑技団など自分が同じことをできない行動を見た時もミラーニューロンは発火するのか?

回答32
厳密にいえば、異なる行動にはミラーニューロンは反応しないはずですが、雑技団などの空中ブランコの動作にも我々が日常的に行う動作が含まれています。たとえば、鉄棒でぶら下がる動作や、ブランコをこぐ動作は類似の動作ですから、雑技団の演技を見てミラー(ニューロン)システムは働く可能性はあると思います。

 

問33
33-1. ミラーニューロンについて 必ずしも真似ではないけれど実は同期している、という行動(行動パターン)はあるのですか?
お酒を飲むと互いに相槌ばっかり打ってしまうのはミラーニューロンの発火が活発になっているためですか?(まさか…)
33-2. 知人と歩く際に歩調が一致するのはミラーニューロンの影響でしょうか?

回答33
お酒の場合は共感しやすくなっているのでしょうね。相槌を打っているときには共感という働きが現れるためにミラーシステムは関係していると思われます。自然と歩調が合う場合はミラー(ニューロン)システムは関係しないと思われますが、おそらく脳波のある周波数帯域では同期が起こっている可能性はあります。

 

問34
勉強すると脳のシワが増えるというのは本当ですか?

回答34
脳のシワは胎児や赤ちゃんのときに比べると成人はシワが多いわけですが、これは個体発生において大体ヒトなら似たようなシワの構造になります。むろん、シワのより方などは個人差がありますが、それよりはむしろ種の違いの方が大きいです。体の大きさで頭蓋骨の大きさが大体決まりますが、一定体積の容器にそれより大きな容積の柔らかいものを詰めようとするとシワがよりますね。ヒトは他の動物に比べ、体の大きさに比べて脳が大きくなりすぎたのでシワがよっているのです。勉強をしてシワが増えることはありません。勉強をするとニューロン間の結合が強化されると考えられます。つまり、ニューロンのネットワーク構造が変化していくのです。これが変化しても細胞数が増えるわけではありませんので、脳の容積はほとんど変化しません。ニューロンの結合部分であるシナプスが少し大きくなったり、新しいシナプスができたりしますから、その分容積は多少は増えますが、逆に無駄になったシナプスは減っていきますので、この構造変化で脳の容積が大きくなることはまず考えられないことです。

 

問35
一見ランダムな現象をカオスによる現象か本当にランダムな現象かを判別するにはどのような方法があるか?

回答35
これは非常に本質的な質問です。学問的には大変レベルの高い質問です。カオスは決定論的な規則や方程式から生み出されるランダム現象です。「本当にランダムな現象」という質問の意味を、原因に不確定性がある確率現象であると理解することにします。そのようなノイズとみなせる現象は仮に決定論的な要因に分解したとすると無限個の要因があるとして記述されます。ですから、統計的な分布関数を求めて、そのもとでの物理量の平均値やそれからのずれを求めたりします。このときも、たいていは2次のずれである分散や標準偏差を求めることが多いのですが、1次の統計量である平均と2次の統計量である分散だけでは元のランダムノイズの性質を完全に記述したことにはなりません。これは近似です。元と同じ情報はさらに3次、4次、5次、・・・と無限個の統計量をすべて考えたときに得られます。それに対して、カオスであるならば、その原因は有限個の変数によって与えられます。ある実験データが与えられてこれがカオスかノイズかを判断する場合、ある次元を持った空間にデータを埋め込むことで判定できることがあります。カオスなら、ある有限次元の空間に埋め込めますが、ノイズはそうは行かず、どんな有限次元の空間にも収まりません。悩ましいのは、無限次元であることをこのような実験的方法では証明できないことです。そこに理論モデルの意義があります。現象に対する理論を作ってその理論の予測するところが無限次元ならノイズ、有限次元ならカオスと判断できるからです。数学的理論の重要性はこんなところにもあるわけです。例えば、蛍光灯の出す光は白いですね。これはありとあらゆる波長の光が均等に混ざっているから白く見えるのです。そういうわけでこれを白色雑音(ホワイトノイズ)と呼ぶのです。それに対してレーザーのようなコヒーレントな光は発生する電磁波の波長が一定に保たれています。レザー光と物質を相互作用させてカオスにすることができます。しかし、このときのカオスレーザーは蛍光灯の光のような白色ではありません。

 

問36
カオス現象に対して数学的モデルを立てるとき、そのパラメータをどうやって決めることができるのか、またそのパラメータが適当であることをどうやって判定するか?

回答36
これはかなり専門的な質問ですね。少し専門的に答えます。カオス的な現象が実験で観測されている場合は、カオス成分を抽出するいろんな方法があります。それらを適用して、もしもある種のカオス的現象を支配している関数形が推定でき、かつ異なる実験条件(パラメーターを制御して実験を行う)で得られた関数形とを比較することで、実験を制御したパラメーターとカオス現象を支配しているパラメーターを対応付けることができます。そうやって得られたパラメーターを分岐パラメーターとみなして分岐構造を調べ、実験パラメーターのどの値でどんな現象が得られるかを予測することができます。実験を行い、予測通りの結果が得られれば、推定したパラメーターは適切であるということができます。

 

問37
問37-1
”どうき”とはどういう意味で漢字ではどう書きますか?
問37-2
脳波が同期するとはどういう事か?(α波、β波が同じ波形を描くのか、それとも、他人の波形ともう一人の波形が同じ波形を描くのか)
問37-3
同期するってことと、まねをするということは同じような現象に思えるんですが、そのような違いがありますか?

回答37
回答37-1
「同期」と書きます。これはわずかに異なる周波数で振動している異なる振動状態を結合するなりして相互作用させた場合、同じ周波数に引き込まれて、同調して振動する状態(引き込み)、もしくは同じ周波数だが位相が異なる振動状態が結合などにより互いに同じ位相で振動するようになる状態(シンクロ)を言います。
回答37-2
「同期」の定義は上を見てください。脳波の同期とは次のようなことです。ひとつの脳の中でも局所脳波同士が同期することがあります。また二人以上の人が会話などをしている時の脳波をみると、α波が同期していたり、θ波が同期していたりとさまざまな周波数帯域の波が同期することが知られています。私たちはこの様子をもっと詳しく調べて、コミュニケーションとのかかわりを明らかにしたいと考えています。
回答37-3
たしかに感覚的には近い感じがしますね。まねをするときにほんとに脳の活動状態が同期するのかどうか、まだ確立されていないことなので、私たちも大変興味を持っています。

 

問38
計画変更に対応する脳の部位について、アスペルガー症候群や自閉症の症状のひとつに、いつも通りの行動をしないとパニックになるという話を聞いたことがあるが、それもその部位に異常があるのか? 

回答38
異常といっていいかどうかは分かりませんが、その部分の脳の働きがそれらの人では異なっているという報告があります。

 

問39
なぜ脳に興味を持ったのですか?

 回答39
私の場合は、カオスを解明する過程で脳に興味を持つようになりました。モチベーションは抽象的なので、理解してもらえるように説明できるかどうかは分かりませんが、次のようなことがきっかけです。大学、大学院での専門は物理です。物理の理論はそれが本質的になればなるほど生命的といえるようなビビッドなものです。カオスに出会ったときに、生命の躍動感を感じました。ここには何か従来の物理や数学とは違うものがある、と感じました。それでカオスの研究にのめり込んだのですが、やればやるほど不思議さが先行しました。博士号のための論文を準備しているときに、関連する本や論文を手当たり次第に読みました。全科学史の中で今自分がやっているカオスの研究を位置づけようと必死で取り組みました。あるとき、ふと思ったのですが、カオスを理解するにはカオスそのものの研究だけでは足りないのではないか。それに加えてカオスを理解するとはどういうことか、カオスを観察する(できる)とはどういうことか、そういったカオス研究自体よりもメタなレベルも併せ考えて初めて理解に到達できるのではないか。カオスを研究している私の志向性や思考、感覚、感情を理解したとき初めてカオスそのものを理解できるのではないか。カオスには何かそういう深いものがあるような気がしました。カオスを計算するとは?カオスを観察するとは?では計算不可能とは?認識可能性とは?記述可能性とは?またそれらが不可能であるとは?こういったことを考えて脳の働きに興味を持ったのです。カオスはいろんな意味での不安定性を持っていますが、私は新たに記述不安定性という概念を導入して、以上のことを定式化しようとしました。実際、脳の研究を始めてみると、面白いことに脳の活動状態はカオス的であり、カオス状態の中で、あるいはそれを使って、仕事が行われていることに気付きました。まさにカオスは脳と切り離すことができない形で宇宙に存在しているのです。直観は当たっていたのですが、しかしこうなると、果して脳の研究を行うことでほんとにカオスを理解できるのだろうか、と疑問がわいてきます。脳の働きを理解するためにはカオスを理解しなければなりません。今度は立場が逆転してしまいました。それで私は今両方の研究を‘同時に’行っているのです。記述不安定性が私の研究の指導原理です。

 

問40
人の身体運動は外部環境の影響を受けて発現が変化をすると考えられていますが、一方で同じ環境下でも異なる動きをしたり、スポーツ選手がよく言われる”ZONE:ゾーン”の状態に入り、まわりの不必要な情報を遮断して優れたパフォーマンスを達成できたりします。脳は外部からの情報をどうやって/何故?選択しているのでしょうか?

回答40
難しい問題ですが、本質的です。ひとつだけに絞ってコメントします。進化的には早い段階で出来上がったと思われますが、予測という能力が脳には備わっています。単に外界の刺激に反応するだけでは、神経系の遅れによって環境変化に素早く対応できません。これは時に生命を危険にさらすことになりますから、刺激が感覚器に入って脳で判断し運動系へ受け渡すまでに生じる遅れ(人の場合ですと、0.1秒から0.2秒はかかると言われています)をカバーして外界の変化に素早く対応する方法が脳に組み込まれなければなりません。これが予測です。感覚系と運動系の関係を先取りするように学習が進行しなければなりません。たとえば、時計の秒針をずっと眺めていると、ちゃんと動いているように知覚しますが、しばらく、注意を他に向けておいていきなり時計の秒針を見ると、秒針はしばらく止まって見えます。これが感覚刺激が脳に入って知覚するまでの遅れ時間を表しています。注意深く秒針を見たときに止まって見えないのは、脳が予測して早く反応しているからです。どこにどのように注意を向けるかは志向性と呼ばれています。これによって選択が可能になります。志向性によって能動的になることで、外界の情報を選択することができるのです。

 

問41
41-1. 男脳(理性)と女脳(感情)のカオス的違いは?(発生予防、後天的etc)
41-2. 人間と他の動物での違い、類似性は?(オス・メス)

回答41
カオス的違いについては、今のところ研究がありませんので、わかっていません。男女の脳の違いについては現在さまざまなレベルでの研究がなされていますので、あと5年から10年するとかなり理解が進むでしょう。

 

問42
津田先生が1万個のニューロンをシミュレートされるときには一個のニューロンあたり何個のニューロンとつなげられますか?また、接続数はスモールワールド性をもたせますか?

回答42
当日お見せしたシミュレーションでは、1個のニューロンは上下左右4個のニューロンとつながっています。コンピューター上でシミュレーションするときはさまざまな結合の仕方で調べています。上の例では最近接相互作用だけを考慮していますが、どのニューロンも他のすべてと結合させることもありますし、ランダムに結合させることもあります。脳のニューロンの結合はスモールワールドというよりはスケールフリーに近いと言われています。つまり、特徴的な結合の長さがなくて、どんな結合もそれなりにありうるのです。ただし、平均すると1個のニューロンはだいたい1万個のニューロンと結合しています。大脳皮質だけでも約100億個のニューロンがありますので、全てが結合しているわけではありません。

 

問43
言葉に対する脳の反応はシミュレート可能でしょうか?また、そのことによってほとんどの言語で基本音節の長さが一致することは説明できるのでしょうか?

回答43
言葉を介したコミュニケーションも私たちの「新学術領域研究」でのプロジェクトで行っています。脳の反応はシミュレート可能です。言語に見られる種々の普遍構造を力学系などの数理モデルで理解しようという研究も始まっていて、上記プロジェクトでも試みています。何年か経つとはっきりしたことが言えるようになるかもしれません。

 

問44
共感しあうと気持ちが良くなるしコミュニケーションがうまくいった気になり、気分も落ち着いてくるのが不思議です。

 回答44
そうですね。それを科学したいですね。

 

以上

 

 ※前半部(問1〜問22に対するご回答)はこちら