2011年02月18日

授業レポート

科学技術コミュニケーションのビジネス化の可能性

2月9日の講義では、北海道ベンチャーキャピタル株式会社社長の松田一敬(いっけい)さんが、大学が保有している科学技術や研究開発のノウハウをどのようにビジネスにつなげていくかというお話をしてくださいました。タイトルは「大学シーズの事業化」。シーズ(Seeds、種)とはマーケティング用語で、ビジネスの種となるような研究開発、新しい技術や特許のことです。


北海道ベンチャーキャピタル株式会社社長・松田一敬さん

 

例えば、オゾンの性質を使って水質を浄化するシステムを作ったり、熱電素子という温度差発電の技術を応用して環境配慮型商品を作るといった、研究成果のビジネス化についてです。環境だけでなく、農業や医療など様々な分野で、こうしたビジネス化が望まれています。しかし、1970年後半から80年以降、世界に冠たる技術系の企業は、日本から殆ど生まれていないのが現状です。

ベンチャーキャピタルとは、新しい事にトライする人に資金を提供する会社のことです。投資した人には、その事業が上手くいけばリターンがありますが、実際には10に1つも成功することはありません。それでも松田さんは「研究のための研究ではなく、社会のための研究を。そして地域のためのビジネスを」という観点から、社会貢献の意味も込めて活動されています。

日本は、大学の研究シーズをビジネス化する取り組みが、先進国で最も遅れていると言っても過言ではありません。しかし、研究自体は世界でもTOPレベル。なぜ、研究成果が社会に還元されていないのでしょうか?松田さんは、研究自体に問題があるのではなく、大学と産業のブリッジ役、研究補助システム、社会への橋渡しが不足しているからだと指摘しました。これこそ、まさに科学技術コミュニケーターの役割です。

かつてアメリカがイノベーションの促進や、ベンチャーキャピタルを熱心に育成するようになったのは、日本で起きた奇蹟の高度成長によって、アメリカ経済が壊滅的な打撃を受けたのがきっかけでした。産業競争力が低下し、閉塞感が漂う今の日本は、かつてのアメリカに似ています。ここから脱却するには更なるイノベーションが不可欠なのですが、日本では大学とビジネスの距離が未だ遠いままです。


授業の様子


私は研究者ですが、いま科学技術コミュニケーターとしても学んでいます。研究しながら社会へ発信していくに際して、分かりやすく表現するといったアウトプットの技術も重要です。しかし研究が、社会にとって大きな意味を持つためには、大学が持つ知的財産をどのように確立していくかを考えることも、非常に重要な課題であると改めて認識しました。

未知の科学的事実を発見するのは、0から1を生み出すということです。これは本当に、難しいことです。これができる研究者はスタープレイヤーと言っていいでしょう。しかし、研究を事業化するのにかかる人間と時間の数、つまり労力はその10倍。事業化した内容を、商品化するにはまた10倍。さらに製品化するには10倍。つまりシーズをビジネスにつなげるには、1を1000にしないといけないのです。これは当然ながらスタープレイヤー1人ではできません。

Googleのような大学発ベンチャーが日本でも生まれるためには、どうしたらいいのでしょうか?日本では、研究者と事業化を行う人間の、どちらが主導権を握るのかという点が曖昧です。研究や技術を評価し、具体的な起業のシミュレーションをたて、テクノロジープランを策定し、商業化のための戦略を練って、ビジネスプランを作るといった、ベンチャーのプロセスは、途方もなく長い道のりです。研究者が二足のわらじで進められるものではなく、専門家と効率的なチームを組むことが必須です。

今の日本は事業化が成功する確率が下がり、モチベーションも下がってしまうことで、さらにビジネスチャンスまで無くなってしまうという悪循環に陥っています。研究者に必要なのは、0から1を生み出すだけでなく、自分が1を1000にするためのチームの一員であるという自覚なのかもしれません。私は研究者ですが、研究による業績だけを重視するのではなく、自分が産業を担う一員であり、社会貢献も求められていることを視野に入れて、これからも活動していく必要があると感じました。

 

レポート:遠藤香織(選科生)

 

授業の後の懇親会で、松田一敬さんと