2018年12月17日

活動報告

第104回 サイエンス・カフェ札幌「のぞいてごらんなさい~分子をつかむ光のピンセット」を開催

 

12月2日(日)、北海道大学電子科学研究所 教授の笹木敬司さんをゲストにお招きし、第104回サイエンス・カフェ札幌「のぞいてごらんなさい~分子をつかむ光のピンセット~」を開催しました。今回のカフェでは、2018年のノーベル物理学を受賞した技術の一つである「光ピンセット」について、物理学と文学の両方の観点から読み解きました。聞き手は、CoSTEPの奥本素子(准教授)です。

(ゲストの笹木敬司さん/左と、聞き手の奥本素子/右))

 


光という不思議な存在

 

まずは光の性質について、笹木さんに解説していただきました。光には形も重さもありません。でもエネルギーは持っています。だから光には圧力があります。なんだか狐につままれたような心持ちになりますが、物体が光のエネルギーによって押されて動くことは、1900年代初頭にはすでに実験によって確認されていました。夏目漱石は、この光圧研究のエピソードを小説「三四郎」に記しています。

 

(夏目漱石と物理学。カフェ当日配布のパンフレットより転載)

 


光ピンセットの原理

 

光をレンズでうんと絞り込んで小さな粒子に当てると、粒子を透過する間に光は屈折します。すると粒子の位置状態は不安定になり、安定な位置に吸い寄せられるように光のスポットに移動します。こうして、まるでピン止めされたかのように、粒子は光にトラップされるのです。
ここで、実際に光ピンセットで牛乳に含まれる脂肪球をつかむデモ実験を行ないました。このデモ機は、科研費新学術領域研究「光圧によるナノ物質操作と秩序の創生」の助成を受けて作られたもので、カフェのために特別にお借りしました。顕微鏡の焦点を合わせるように光を絞り込んでいくと、次々に脂肪球が光に吸い寄せられていきます。この光ピンセットの技術を使うと、粒子に触れずに自在に動かすこともできます。

 

(科研費新学術領域研究「光圧によるナノ物質操作と秩序の創生」の助成を受けて作成された光ピンセットのデモ機)

 

(橋谷田 俊さん(分子科学研究所 博士研究員/中央)、クリストフ パンさん(北大電子科学研究所 博士研究員/右)、

瀬戸浦 健仁さん(北大電子科学研究所 特任助教/左)の協力を得て、光ピンセットのデモ実験を行なった)

 

 

ナノサイズをつかむのは難しい

 

光は、光の波長よりも小さく絞ることはできません。それよりも小さいナノサイズの物質をつかむには、レンズで集光する以外の方法で光を絞りこむ必要があります。実はナノサイズよりさらに小さい原子サイズ用の光ピンセットは、既にスティーブン・チューさんが開発しています。しかし、チューさんのやり方だと、つかんだ物質がカチカチに冷えてしまうため、常温のままものをつかむことができません。常温でナノサイズのものをつかむことができれば、ウイルスやDNAなどを自由に操ることができ、医療や工学において応用の幅がひろがると考えられています。

 

(光の性質を表現したステンドグラス作品を展示。詳しくはコチラをご覧ください)

 


0から1にするのが基礎科学

 

夏目漱石の三四郎は、光に圧力が存在することを証明していったい何の役に立つのだろうか?と疑問に思います。ですがそれから110年後の現在、光の研究は徐々に私たちの社会にも直接関係する技術を生み出しつつあります。基礎科学の役割とは、科学の応用技術を明確に提示するというより、その技術の芽を発見することでしょう、と笹木さんはおっしゃいました。

 

 

 

90名の来場者があり、比較的難易度の高い内容であったにも関わらず、質疑の時間には小学生~高齢者といった幅広い層による活発な対話が生まれました。