インタビューの編 ~人から知る~

 インタビューの編では、〝人〟を素材に科学記事を書くことを伝授する。インタビューする「人」と、インタビューされる「人」の相互作用によって言葉と文は紡がれていく。書き手は、話し手に流されても、読み手に押しつけすぎてもいけない。あくまで立場は「中立」に。しかし、インタビューされる「人」に魅了されるのは大いに結構。その話、その人柄、その考えを、書く「人」が楽しむことは、文字を通して読む「人」へ伝わる。文章で伝えることもまた、書く「人」と読む「人」の相互作用なのである。

第一章 万全な準備が成功を導く

其の壱 伝えることを考えるべし

 誰に、何を、伝えるのかを考える。「自分が何を伝えたいか」ではなく「何が伝わると良いのか」を意識すると良いだろう。実際にインタビューし、記事の目的が変わることもあるが、自分の初志として心に留めておく。

其の弐 インタビュー対象者を決めるべし

 誰に聞きたいのか考える。研究者自身に焦点を当てるのか、専門家としてのコメントを求めるのか、書く目的によっても変わる。インタビューは人対人のコミュニケーションであり、相性もある。その時、その人とでしかできないインタビューは何なのか、を考えることが肝要である。
 その人をさらに知るために、人柄などを探ってみるのも策である。広い人脈を持っていることも大きな武器になる。

其の参 質問内容をざっくり考えるべし

 インタビューの依頼をする前に、書こうとする記事の方向性や知りたいこと・聞きたいことの概要をまとめる。質問は大枠として5つくらい考えておくと良い。想像力が豊かでない場合は、イメージで記事を書いてみるのも一つの手である(どんな記事が書けるのか、考えを膨らませているこのときが一番楽しいかもしれない)。


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其の四 インタビュー依頼をするべし

 直接訪ねる対面や電話で依頼することもあるが、現代ではメールで行うことが多い。背景、目的、予定所要時間、候補日、ざっくりとした取材内容を含める。なるべくページをスクロールせずに、依頼内容が伝わるよう、簡潔に要点をまとめることを心掛けよ。遅くても取材予定日の2週間前には届けよう。


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其の伍 質問内容をまじまじと考えるべし

 インタビュー対象者が執筆した本や論文、その分野についてさらに調べ、インタビュー時の質問をじっくり考える。ここでの準備が、「伝わる」記事にできるかどうかを左右する。事前の知識により、さまざまな視点からの話を聞くことができるし、何より、事前に学んだ熱意を見せることで、インタビュー対象者が喜んでくれる。共通した知識は、会話を盛り上げ、質問の回答以上の話をしてくれることも少なくない。あらかじめインタビュー同行者と知識や意見を共有しておくことで、違った視点からの質問が思いつくこともある。

第二章 会話から言葉を紡ぐ

其の壱 インタビューするべし

 インタビューは会話である。すなわち、その人のコミュニケーションスキルが問われるということである。裏を返せば、日常会話において相手との意思疎通や、ちょっとした話を聞き出す訓練ができるということだ。記事を書くために必要な質問を投げかけ答えを得ることも大事だが、それでは単なる情報収集で終わるし、物事の表面をなぞるだけになってしまう。豊かな会話の中で話を引き出すことで、単なる質問の答え以上の話を聞くことができる。それが何かの核心に迫るときもあろう。「言うつもりじゃなかったのに」を、聞きだすのが腕の見せどころだ。技術として、インタビューの概要や、著書など視線を共有できるものがあると良い。
 インタビューはチームワークも重要だ。カメラマンや同行者は会話に詰まったときや話が単調になったときに、きっと助けてくれるだろう。しかし、インタビューを極める猛者は一人ですべてをこなす。

其の弐 文字起こしするべし

 録音したインタビューの内容を文字として書き起こすことで、話を正しく理解することができる。単純で大変な作業だが、話を反芻し、咀嚼するのに重要な過程である。たくさんの話の中から、話し手の口癖や、キーワードなどを見付けたときは胸がときめく。インタビュー後、一週間以内に行うことを推奨する。

其の参 記事の構想を立てるべし

 文字起こしや自分のメモ、撮影した写真、参考資料などをもとに「何を書こうか、何が書けるか」じっくり考える。ただし、ぼーっと考えているだけでは浮かぶものも浮かばない。まずは書くこと。「書くことは考えること、考えることは書くこと」なのである。

第三章 「伝える」記事を書く

其の壱 記事を書くべし

 わかりやすく、正確に、中立の立場から、を肝に銘じよ。記事の軸を決めて、すべての話をそこに帰着させると伝わりやすい文章になる。せっかく聞いた話だからといって、欲張っていろいろなことを書くのは禁物。「もったいない精神」を捨てるのが「伝わる」記事の近道である。記事には載らなくても、いつか何かのためになると信じよう。
 話し手の話を引用することができるのが、インタビューの特権だ。話し手の話した言葉でそのまま書くのか、それに書き手がどのように手を加えるのか。話し手の言葉をいかに魅力的にみせるかに書き手の真価が問われる。

其の弐 ピアレビューするべし

 訓練のために、なるべくさまざまな立場の人に見せるのが良い。記事にした事柄に精通した人や、ライティングの知識・経験がある人の意見は必須である。しかし、予備知識がない人の意見が最も大切だ。サイエンスコミュニケーションの目的は、専門知識を普通の市民と共有することなのだから。

其の参 事細かに確認するべし

 きちんと事実確認を行うことが、記事の正確さをもたらす。科学記事では事実を過不足なく伝えなくてはならない。わからないからといって妥協するのではなく、細部まで  調べ、聞き、確認を続けることが、読み手の理解やわくわくにつながるのだ。状況に応じて、インタビュー対象者に確認を求めることも必要だ。意見を異にするときは、対話を重ね、納得いくまで議論することが、書き手の務めである。

其の四 掲載するべし

 原稿が自分のもとを離れてしまう少しの寂しさと、掲載によりたくさんの人の目に触れるときの緊張感は、何度やっても慣れないだろう。批判や反論があるかもしれない。しかし、それを恐れていては何も伝えることができない。記事から生まれた議論は、書き手と読み手の双方向コミュニケーションであり、科学と市民を少し近づけるきっかけとなるだろう。

ライティング虎の巻 インタビューの編 ~人から知る~
二〇一八年三月十日 発行
執筆者 大谷祐紀
発行所 CoSTEPライティング・編集班実習
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