フレッシュアイズ


#59 発達心理学から考える思春期のいじめ

2016年09月29日

 

「いじめ」は深刻な問題です。子どもたちを追い詰めてしまう「いじめ」を解決するのにはどうしたらよいのでしょうか。今回は加藤弘通さん(教育学研究院 准教授)に発達心理学の観点からその原因、解決策についてお話をうかがいました。


【阿久澤玲奈・教育学部1年/野末修平・教育学部1年】

 

(熱く語る加藤さん)

 

 

「発達」とは、良いもの?悪いもの?


みなさんは「発達」という言葉に、どんなイメージを持っているでしょうか。
おそらく多くの人が「何かができるようになる」といったプラスのイメージを持っていることでしょう。しかし加藤さんによると、専門的にはそのイメージは半分しか当たっていないそうです。
加藤さんは発達とは良いものでも悪いものでもなく、環境によってどちらの方向にもつながるものであるといいます。
たとえば「いじめ」の問題を考えるときにこの考えは重要な視点となり得ます。加藤さんによると4・5歳くらいの子供でも仲間はずれのような行為は行われています。しかし大人や先生にそのことを隠すのが非常に下手だそうです。それが9・10歳ごろ、いわゆる思春期といわれる年代になると「相手がどうしたら嫌がるのか」、また「どうしたら先生にいじめがばれないようにできるのか」がわかるようになります。すると、悪口を書いた小さな紙を回したりして「お前は嫌われているんだよ」ということを本人、そして先生に手が出せない範囲内で臭わせたりすることができるようになります。このようにして、先生の目の届かないところでいじめがおこなわれ、子どもたちの中で深刻化していきます。
そう、子どもの発達がうまくいっていないからいじめが起きるのではないのです。むしろ子どもの発達は、良い方向に進めば人の気持ちを考え、相手に対して優しくできるようになる反面、その人の気持ちを考える力が悪い方向に進めば、『どうすれば相手がダメージを受けるのか』ということも考えられるようになり、いじめにも利用されるようになるのです。
加藤さんは言います。「発達心理学の観点からすれば、「問題が起こせるようになる力」の発達がいじめの原因の一つです。「問題が起こせるようになる力」それ自体は否定しません。むしろ、そのことを前提とした上で、その力を良い方向で活かすために、子どもたちにどういった教育を組むのがよいのか、教師に対しては、どういった授業を展開していくのかを一緒に考えていきます」と。
「発達」という言葉がよいものでも悪いものでもないということを認識したうえで、子供たちと向かいあうこと。ここから現代の社会問題であるいじめを解決するための方法が見えてくるように感じました。

 

(インタビュー風景)

 

 

加藤さんが考えるいじめ解決への手段

 

では、いじめを食い止める方法とはいったいどのようなものでしょうか。加藤さんが目をつけたポイントは二つあります。
第一のポイントは、いじめの加害者と教師の関係を良くすることです。アンケート調査によると、多くの加害者は、「先生は困っている時に励ましてくれない」、「公平に接してくれない」と答える傾向があるといいます。つまり、いじめの加害者は、教師との関係が非常に良くないのです。
第二のポイントは、「いじめが起きている時間を減らす」というのではなく、「いじめが起きていない時間を増やす」ことを考えるということです。教師がいるところで堂々といじめをする加害者はそういません。逆に、加害者は自分のいじめが教師に見つかっていないと感じると、いじめの頻度が増すそうです。加藤さんは、教師が加害者を“モニタリング”する時間を増やすことができれば「いじめが起きていない時間を増やす」ことができると考えています。
したがって、この二つのポイントから加藤さんが導き出すいじめの具体的な解決方法とは「教師が加害者に一日1回はあいさつをする」ことです。今まで教師と関係が悪くほとんど接しなかった子が教師からあいさつをされるようになると「先生は自分を気にかけてくれているのではないか」と思うようになります。そして「自分は先生から見られている」と感じます。そうすることで「いじめが起きていない時間を増やす」ことができるのです。
「あいさつすることでいじめの時間を減らすこと」について、加藤さんは「しょうもない結論かもしれないけど」と笑いながらおっしゃいました。しかし次の瞬間「だけどすごく効くと思うんです」と、真剣な眼差しに変わって語っていました。
加藤さんが着目した加害者へのアプローチ。いじめの解決は一見難しそうに見えますが、その一歩は案外簡単に踏み出せるのかもしれません。

 

 

これからの研究

 

加藤さんにこれからの研究についてうかがうと「今考えているのは基礎的な発達についての研究」と答えてくれました。基礎的な発達の研究とは、子どもたちが悩んだり自意識に縛られたりする思春期に子どもたちのなかで何が起きているのかを明らかにすることだそうです。つまり、思春期の思考の変化を探るのです。加藤さんは、自分が親になって子どもを育てているうちに、思春期の現象の根本となるこの研究をすることの意味、そしてしなければいけない理由に気がついたと言います。これからは、思考の変化の研究と、なぜ思春期にはたくさん問題行動を起こせるようになるのかという、今までの研究をリンクさせていきたいと思っているそうです。

 

(インタビュー後、研究室にて)

 

 

インタビューを終えてみて


研究者の方からご自身の研究内容を直接聞くという初めての体験。研究に対する関心の大きさ、研究についてどれほど真剣に考えているか、熱い思いが伝わってきて圧倒されてしました。直接受け取った思いを、読者のみなさんにしっかりと伝えることができていれば幸いです。

※ ※ ※ ※ ※
この記事は、阿久澤玲奈さん(教育学部1年)と野末修平さん(教育学部1年)が、学部授業「北海道大学の「今」を知る」の履修を通して制作した作品です。

 

次回は「我読書ス、故ニ我アリ~加藤さんが選んだ三冊~」を掲載予定です。


同じシーンの記事