フレッシュアイズ


#69 見えないメス、陽子線治療の先端を行く(1)~未開拓分野にチャンスあり〜

2016年11月24日

 

放射線の一種である陽子線を操ることで、ガンを治療する最新の治療法があります。医学研究科教授の白圡博樹さんは、呼吸などによって微妙に動く病巣に、極めて高い精度で陽子線を当てる技術を開発し、国際的にも陽子線治療の先端を走っています。


私たち大学一年生からなる取材班は、研究の世界とはどういうものか、大学での進路をどう考えるべきかについてヒントを貰うべく、白圡さんに迫りました。先生の考える研究のありかた、そして研究を目指したきっかけとは?

【松田直輝・総合理系1年/上條友夏子・医学部1年/斉藤駿・医学部1年】

 

――先生にとっての「研究」とは何でしょうか


研究には二つあります。ひとつは職業としての研究です。やはり医学ですから、研究のための研究ではなく、患者さんに元気になっていただかなければなりません。でも、どうしても治せない患者さんも半分はいます。ですので、次に同じような症状の方が来た時には治せるように、とモチベーションに変えて研究に取り組んでいます。今の立場になってからは、なかなか病院で患者さんとコミュニケーションをとることが少なくなっていますが、その分、研究で少しでも患者さんのためになるように頑張っています。大学でできることは「目の前にいない人をなおす」ということですから。

もうひとつはプライベートとしての研究、真理を追究する研究です。興味や関心のある分野を学ぶことで、今まで見えてこなかった事が明らかにできないかと探っています。自分の弱い分野を得意な人と一緒に研究する時間が、ある意味で幸せですね。

 

――

飽くなき探究心と尽きない好奇心が白圡さんの行動の支柱にあるのでしょう。そして、厳しい臨床の現実がさらに意欲を高めることを学びました。いくつもの言葉から白圡さんの闘志を感じることができました。

次に、陽子線治療の研究への素朴な疑問をぶつけてみました。

――

(陽子線治療装置。手前の台がベッド)<写真提供:創成研究機構研究支援室>

 

 

――放射線というと「危ない」というイメージがありますが…

 

放射線を「安全」というのは言い過ぎかなと思いますが、例えば手術で使う刃物を思い浮かべてください。「メス」というのは「ナイフ」のドイツ語で、「ナイフ」というと凶器に聞こえますが、どちらも同じものです。実際、ナイフは医療において極めて役立っているわけです。同じように放射線もただの道具で、よく切れるナイフだと言えます。放射線には発がん性といった性質もありますし、従来の放射線治療法では正常な組織も壊してしまう副作用もありました。でも、適切に使うことで、治療の有用性が格段にあがります。

(陽子線治療装置の模型。加速器(左奥)で水素の原子核を加速して陽子線をつくります)


実際、陽子線治療を適切に行うと副作用がほとんどありません。小さいがんの場合、患者さんが何も感じないうちに照射が終わります。痛みを感知する皮膚や粘膜に陽子線を当てて傷つけることなく、呼吸などで動いているがんのみに照射することができる、動体追跡という北大が開発した技術も役立っています。

<写真提供:創成研究機構研究支援室>

 

――

こういった最新の技術を知らない人が世の中にはたくさんいます。放射線に対する患者や医療従事者の印象が変われば放射線治療はもっともっと普及するはずと感じました。

最後に、このような先端的な研究に至る道についてうかがいました。

――

 

 

――数ある医学分野の中で、どうして放射線科に進もうと思ったのでしょうか

 

僕が放射線医になろうと思ったのは卒業間際、最後の最後です。様々な科を考えましたが、優秀な人は上の学年にも周りにも山ほどいたので、「自分じゃなきゃいけない」というか、「自分を生かせる余地」が全然ないと思ったんですね。結局、誘ってくれる先輩がいて放射線科に入りましたが、やりがいは予想以上でした。人が少ないので責任をすぐもたせてくれて、次々にいろんな仕事ができました。促成栽培、なんて言ってましたね。

 

僕が重要だと思うのは「困難とチャンスはうらはら」ということです。そこをどう乗り越えるか。例えば第一印象の良くない放射線という世界に、好んで飛びこもうとはしないかもしれません。しかし、関わる人の少ないこの未開拓な分野だからこそ、自分を生かせる場面がたくさんあったんです。

 

カナダとイギリスの留学でも同じことに気が付きました。海外では放射線診断と放射線治療の分業が進んでいて、それぞれ素晴らしい研究者もいました。日本では分業はすすんでいませんでしたが、逆にそれが強みだと思ったんです。動体追跡技術は、がんを見つけるための診断技術と、がんを治すため治療技術の融合です。この分野ならガツガツしなくても、ゆっくり研究しても絶対勝てる、と。僕はあんまりがんばらない方の道を選んでます(笑)

――

実際に困難をチャンスにしている白圡さんの言葉には、奥深さがありました。そして、自分がいるべき場所は放射線科にある、先生の眼差しがそう語っていました。私たちもこれから何度も困難に出会うでしょう。そんな時に、白圡さんの言葉を思い出してみようと思いました。

 

後編では、白圡さんが紹介する3冊の本から、さらに白圡さんのルーツに迫ります。

 

 

※ ※ ※ ※ ※

この記事は、松田直輝さん(総合理系1年)、上條友夏子さん(医学部1年)、斉藤駿さん(医学部1年)が、全学教育科目「北海道大学の”今”を知る」の履修を通して制作した成果物です。

 


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