フレッシュアイズ


#70 見えないメス、陽子線治療の先端を行く(2) ~ワクワクを繋げる(書籍紹介)

2016年11月28日

 

本は人を育てます。そして人は本を共有することで、知を繋げることができます。「私の人生に影響を与えた1冊」「学生に読み継いで欲しい1冊」「今ホットな研究がわかる1冊」の3冊から研究者の内面に迫る今回。本を紹介してくれるのは前回、専門の陽子線治療についてお話しをうかがった白土博樹さん(医学研究院 教授)です。白土さんが本に託して今の学生に伝えたい事は何なのでしょうか。

【松尾拓磨・総合理系1年/小口陽香・総合理系1年/平山義規・総合理系1年】

(白土さんと3冊の本)

 

 

私の人生に影響を与えた1冊

『氷川清話 付勝海舟伝 勝海舟 勝部真長編』(角川文庫/1972)

 

『氷川清話』は、勝海舟の晩年の語録です。勝海舟と西郷隆盛などの江戸末期から明治初期の人物との関わりや、勝海舟が感じたこと・思ったことが生き生きとした文章で記されています。

実は、この本との出会いは一年前です(笑)。バスを待っているときに、たまたま寄った古本屋で見つけました。この本のなかで特に面白いが笑えないエピソードがあります。ロシアからお金を借りないと日本が危機に陥るということがあり、ロシアが500万円貸すから、代わりに札幌を抵当に出せといいました。実際には断固謝絶してロシアから借りてはいませんが、勝海舟はその時のことについて「あのときその話に乗って、100万円ぐらいを自分の懐に入れていれば、もっと裕福になれたのに」と冗談を交えて述懐しているんですよね。勝海舟たちは激動の中でも自分中心に考えることは決してなく、いつも国のためにと行動してくれたので、今の札幌、日本があると思いました。

 

明治維新は鹿児島や山口のように、国の端っこにいた人々が担いました。日本のど真ん中である、東京ではない場所にいたからこそ、国のありかたについて集中して勉強できたのではないでしょうか。ど真ん中では、周りをとりまとめる仕事が多く、最先端のことはできません。北海道大学は端っこにあるということで恵まれていると言えます。

 

 

学生に読み継いで欲しい1冊

『生命とは何か〜物理的にみた生細胞〜』E.シュレーディンガー 著(岩波書店/1951)

 

シュレーディンガーは物理学を応用することで生物学が発展することを見越して、この本を記しました。まずタイトルが良いですよね。物理学をやってる人が生命のことを書いたっていうギャップ感がかっこいい。この本は一回で読むのはきついと思います。大学生の内はなんとなく重要そうだとわかれば良いでしょう。私が読みきったのも大学卒業してからですね。

この本を読んでいたら、ワトソンとクリックがこの本に刺激された、ということが私にも見えてきたんですよ。DNAが発見されていない時に、どうしてシュレディンガーはDNAのサイズが分かったんだろうか、というワクワク感を、ワトソンとクリックも私と同じように感じたと思うんです。

 

今の学生たちはシュレディンガーを目指すべきなんじゃないかと思うんです。「放射線ががんに効くターゲットはこういう理由のはずだ」ということを予言しておけば、次の人たちがそれに向かって量子生物学といった世界を作り出すでしょう。そういった次を予想させるワクワク感が研究にはすごく重要だと思います。

 

僕は高校時代は物理や数学があまり得意じゃなくて結構苦労しました。それでやっと医学部に入れて、どれだけ役に立つのかと思ったら、全く使わないんですよね(笑)。放射線科に入ってよかったのは、いやいやながらやった数学・物理を使えるってところです。絶対後で役に立ちます。数学・物理は科学の基本です。

 

 

今ホットな研究がわかる1冊

「特集:放射線治療―最近の動向と展望」白土博樹 編『月刊カレントテラピー34(5)』(ライフメディコム/2016)

 

前半の放射線治療に関する総説は、日本で一番この領域で優れている人たちに執筆して頂きました。巻末の座談会記事は、開業医の方を意識しました。開業医の方たちが放射線治療を、どういう時にどのように使ったら良いかがわかるように、と思って企画しました。


座談会のテーマのひとつが「エビデンス」(証拠)です。新しい医療技術をつくるのは医学・理学・工学の融合分野で、それを使うのは医者ですが、その治療法がどれだけ効果があるか、エビデンスを明らかにしなければなりません。でもエビデンスは新しい領域であればあるほど足りない。例えば最新の放射線治療である陽子線治療はお金もかかりますし、もどかしい作業です。国としてもまだ保険の対象にできないので患者さんが全額負担しなきゃならない。この非常に厳しい過渡期を乗り切れば、陽子線治療はより一般的な手段になるでしょう。北大での研究などによって、小児腫瘍は保険を適用できるようになりました。

 

「自分は放射線治療の歴史の中で何をすべきか」という感覚が非常に重要なんですよ。他の人がやれないこと、ここでしかやれないことは何なのか。それを見つけてやって行くんです。この施設を作らせていただいた僕は、陽子線治療を追求して、今までの治療成績を超えるエビデンスを出すべき人間なんです。

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なんと1年前に出会ったという『氷川清話』。大学を卒業した後になんとか読み切ったという『生命とは何か』。今年白土さんが特集の編集を担当された『カレントテラピー』。3冊の本から、白土先生に迫りました。皆さんも手に取ってみてはいかがでしょうか。この3冊を読み切ったころには、きっとそれぞれに新しい発見があることでしょう。白土さん、ありがとうございました。

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この記事は、松尾拓磨さん(総合理系1年)、小口陽香さん(総合理系1年)、平山義規さん(総合理系1年)が、全学教育科目「北海道大学の”今”を知る」の履修を通して制作した成果物です。


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