フレッシュアイズ


#81 新しいバイオマテリアルを目指して!~ハイドロゲルの新たな可能性みぃつけた~

2017年07月31日

 

皆さん、水が自分のカラダの何%を占めているか知っていますか?答えはなんと約60%です!胎児に限っていえば、90%が水でできています。私が研究しているハイドロゲルは人間のカラダと同じように水分を多く含む材料です。そのため、ハイドロゲルは人体の中で順応しやすく、人工軟骨など生体内での活躍が期待される材料です。しかしながら、従来のハイドロゲルは力が加わることによって容易に壊れてしまう欠点があったため、その応用には限界がありました。そこで近年注目されているのが「犠牲結合」からなる強靭なハイドロゲルです。私は強靭なハイドロゲルに“内部構造”を導入することで、人工軟骨などのバイオマテリアル(生体材料)に新たな可能性を切り開くべく、日夜研究を行っています。

【村川航平・生命科学院修士1年】

 

(ゲルを作っているところです)

 

ハイドロゲルの魅力とは!?

 

ハイドロゲルはゼリーのようにたくさんの水分を含んだ材料です。なんと多いものだと、99%以上が水でできています!ハイドロゲルは高分子鎖網目(高分子からできたネットワーク)が下の図のように水の分子を掴んでいるため、たくさんの水を保持することができます。それゆえ、ハイドロゲルは「低摩擦」「高含水率」「柔らかさ」などといった、他の材料(鉄やプラスチックなど)に見ることができない特別な性質を持ちます。これらの性質は私たちの身体にも当てはまります。例えば、人間の筋肉の80%以上は水からできていますし、軟骨や血管では低摩擦が重要な役割を果たしています。このような類似性からハイドロゲルは昔から人工軟骨などバイオマテリアルとしての応用が期待されてきました。しかしながら、従来のハイドロゲルは力を加えるとすぐに壊れてしまうため、その応用には限界がありました。そこで強靭なゲルの必要性が高まっていったのです。

 

(ハイドロゲルの実例とその構造)

 

強靭化のメカニズムとは?

 

が所属する研究室では強靭なハイドロゲルの開発を行ってきました。そこで開発されたのが「犠牲結合」をもつ強靭なハイドロゲルです。「犠牲結合」とはハイドロゲルに力が加わった際、材料全体が壊れてしまう前に優先的に壊れる結合のことをいいます。結合が壊れる際にはエネルギーが必要なので、犠牲結合が切れることでハイドロゲル全体にかかるエネルギーを逃がすことができます(下図)。そのため「犠牲結合」からなるハイドロゲルは強靭なのです。「犠牲結合」を有する強靭なハイドロゲルの代表として二種類の高分子鎖網目からなるダブルネットワークゲル(DNゲル)があります。

 

DNゲルは、10~60MPaという、非常に高い圧縮破断応力(ハイドロゲルを圧縮して壊れる時にかかっている圧力。強さの指標の一つ)を示します。身の回りのもので分かりやすく例えると、1円玉のサイズのDNゲルに最大で30人の大人が乗ったとしても壊れないということです。片方の高分子鎖網目が簡単に壊れる(犠牲結合が壊れる)ことでエネルギーを逃がしているため、強靭になっているのです。これは、高分子鎖網目が一種類だけでできているハイドロゲルの圧縮破断応力(0.3~0.6MPa)のおよそ100倍もの強さです!犠牲結合によって、ハイドロゲルはこんなにも強くなれるのです。

 

(「犠牲結合」の原理のイメージ/DNゲルの見た目と強靭さ)

 

バイオマテリアルを目指して!

 

このようにして強靭なゲルは開発され、現在、人工軟骨を始めとしてバイオマテリアルへの応用が進んでいます。しかし、すべての問題が解決したわけではありません。未解決の問題として、ハイドロゲルの構造上の制約が挙げられます。我々の骨や筋肉には複雑な構造が存在しています。そして、この構造のおかげで我々の身体は丈夫さや伸縮性などの優れた機能を発揮することができます。

 

しかし、従来の強靭なハイドロゲルはその作製方法にいくつかの制約があり、複雑な構造を内部に持つことが難しかったのです。そこで、私は新しいハイドロゲルの作製方法を考案することで、強靭なハイドロゲルに内部構造を持たせ、新機能を付け加える研究をしています。例えば、ハイドロゲルの内部に細いトンネルのようなモノがあれば、細胞はゲルの表面だけでなく内部にも簡単に入り込むことができますよね。また、水を容易に吐き出すこともできるようになります。

 

現在、私は強靭なハイドロゲルの新しい作製方法の確立およびメゾスケール(ナノスケールとマイクロスケールの間)の内部構造をハイドロゲルの内部に導入することに成功しています。「低摩擦」「高含水率」「柔らかさ」などの他の材料(鉄やプラスチックなど)にない性質に加えて、構造由来の機能が加わればハイドロゲルの可能性は大きく開けるでしょう。

 

ゲルと共に研究生活!

 

私の研究はまだまだ始まったばかりで、予想外の結果に困惑する毎日です。ハイドロゲルの原料となる化学物質の比率など些細な条件の変化が実験結果に大きな影響を与えることもしばしばです。実験結果によっては心が折れそうになることもありますが、その分、成功した時の達成感は大きく、研究の原動力になっています。

 

ハイドロゲルは鉄やプラスチックに比べまだまだ歴史が浅いですが、他の材料にない優れた性質を有する将来性の高い材料です。特に、DNゲルは札幌テレビ放送制作のテレビ番組「大泉洋の驚きジャパン ~知らなかった!!世界が変わる大研究!スペシャル~」(2017年8月5日 午後1時30分~2時55分)でも紹介され、大泉洋さんが実際にDNゲルに触り、その強靭さに驚くなどメディアからの注目も高い材料でもあります。

 

DNゲルのような強靭なゲルに内部構造を導入し、その内部構造形成のメカニズムを解き明かすのは単純にアカデミックな興味としても面白いですが、将来、ハイドロゲルが医療や様々な分野で活躍することも期待しながら、日々研究に励んでいます。

 

(強靭なゲルと私)

 

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この記事は、村川航平さん(生命科学院修士1年)が、大学院共通授業科目「大学院生のためのセルフプロモーションⅠ」の履修を通して制作した作品です。

 

村川航平さんの所属研究室はこちら
生命科学院 生命融合科学コース
ソフト&ウェットマター研究室(龔 剣萍 教授)

 

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今回紹介した強靭なハイドロゲルの成果は、以下の論文にまとめられています。

J. P. Gong, Y. Katsuyama, T. Kurokawa, Y. Osada

"Double Network Hydrogels with Extremely High Mechanical Strength"

Advanced Materials, 15(14), 1155-1158(2003).


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