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#82 ”聖地”で化石を究めたい!〜野外調査への初挑戦〜

2017年08月07日


意外なことに、北海道は化石の名産地。そんな北海道で、私は中生代白亜紀末期のサメの歯の化石について研究しています。様々な化石の研究方法がありますが、その根本にあるのは野外での地質調査です。私も先日、初めての野外調査に挑戦しました。果たしてその結果は…!?化石の研究はどのように行われているのか、そのほんの一端を紹介します。

【太田晶・理学院修士1年】

 

(化石を求めてハンマーを振るう筆者)

 

化石はどのようにしてできるのか

 

(道内で採集したアンモナイト化石。化石を包み込むように岩石が発達しています)

 

生き物が死ぬと、その身体は他の生き物に食べられて骨や殻だけになり、そうして残ったものも雨風にさらされて最後には粉々になってしまいます。ところが骨の上に砂や泥が積み重なると、骨がこうした破壊を免れて地層の中に保存されることがあります。そうすると、長い年月をかけて骨の成分が地中の鉱物と置き換わったり、骨の中に鉱物が染み込んで結晶を作ったりします。このようにして、太古の生物の「なきがら」が地層中に保存されたものが化石なのです。また、石化した生物のからだだけが化石なのかというと、実際にはそうではなく、樹脂が固まってできたコハクや、肉体がそのまま残った氷づけのマンモス、足跡や巣穴をはじめとする生物の活動の痕跡なども化石と呼びます。

 

実は北海道は、世界的な化石産地として知られています。理由の一つは、雪解け水によって地表面が削られることにより、その下に埋もれていた化石が見つかりやすいため。もう一つは、他の地域と比較して化石の保存状態が非常に良いためです。北海道の化石は、写真のように化石を核として岩石が発達した状態(ノジュールやコンクリーションと言います)で見つかることが多く、地中の圧力や地殻変動による変形の影響を受けにくいのです。

 

謎に包まれた函淵層のサメ化石

 

(函淵層から見つかったサメの歯の化石。ナイフで周りの岩を削って、化石を取り出します)

 

 

北海道には、恐竜が生きていた中生代白亜紀に形成された地層が多数存在し、これらの地層の集まりを「蝦夷層群」と呼んでいます。私が注目しているのは、蝦夷層群の中でも「函淵層」と呼ばれる地層です。この地層は約7200万年前、すなわち白亜紀末の大絶滅が起こる直前に、海に堆積した泥や砂によってできた地層です。この函淵層のある場所から、サメの歯の化石がたくさん見つかることがわかりました。

 

北海道のサメ化石についてはじめて学術的報告がされたのは1902年のことです。それ以降、道内各地の様々な時代の地層からサメ化石が発見されてきましたが、函淵層についてはあまりサメ化石の研究がなされてきませんでした。つまり、北海道の7200万年前のサメについては、よくわかっていないのです。これまで未報告である函淵層のサメを研究することで、当時の北海道を含む北西太平洋にどんな動物が生きていたのか、その分布がどのように移り変わっていたのかについて、新たな示唆がもたらされる…かもしれません。

 

初めての野外調査に悪戦苦闘

 

(調査対象の地層が観察できる露頭。土やコケに覆われていて、このままでは観察がむずかしい)

 

 

4月下旬、私は調査地を訪れました。最大の目的は化石採集ではなく、化石が見つかった地層の観察です。地層を調べることで、そこから見つかる生物がどのような環境で生きていたのか、手がかりを得られるからです。講義で地層の観察に参加した経験はありましたが、自分自身で野外調査に取り組むのは今回がはじめてです。緊張しながら調査地へと向かいました。

 

林道の途中に車を停めて歩くこと約10分、調査地に到着しました。写真のように地層が地表に露出している場所を「露頭」と言います。本来ならば地中に埋もれている地層を地上で観察できる重要な場所です。しかし、ところどころ土砂や植物の根がかぶっていて、観察に適した状態とは言えません。さらに暖かくなると、生い茂った植物に覆われて地層がますます観察しにくくなります。冬になって雪が深く積もれば、この調査地にたどり着くこともままなりません。北海道での地質調査は時間との戦いなのです。

 

この日はまず露頭を掃除して、翌日改めて観察を行いました。野外調査ではクリノメーターという道具を使って地層の「向き」と「傾き」を測ります。この2つの情報は地層の分布について考えるために必要です。しかし、道具の使い方をしっかり覚えていなかったために、計測結果に自信が持てなかったり、実際に使い方を間違えていたことが後で判明したりと、とても研究に使えそうなデータを取ることはできませんでした…。また、調査地には他に観察できそうな露頭が少なく、まとまった量のデータを取ることが難しそうなこともわかりました。自分の準備不足と実際の調査の難しさを思い知り、初めての野外調査は苦い結果に終わりました。

 

化石や地層に隠された記録を読み解くために

 

(カタクリの花。自然との出会いは野外調査の魅力の一つです)

 

初めての野外調査ではうまくできないことがたくさんありました。一方で、自然の中で大地と向き合い、その成り立ちを紐解こうとする試みに、言いようのない魅力も感じました。化石や地層のことをきちんと理解できるようになりたいという思いは、ますます大きくなったのです。

 

この後、野外調査の経験を積むために、研究室のメンバーの調査に同行する機会を作りました。その甲斐あってか、多少は野外調査のカンが掴めてきたように思います。それと並行して、採集した化石を研究可能な状態にする「クリーニング」と呼ばれる作業にも取り組んでいます。もちろん、研究に必要な知識や情報を集めるために文献調査も怠ることはできません。

 

たくさんの化石が眠る北海道。まさに研究対象の「聖地」と言えるこの場所で化石の研究ができるのは、とても贅沢なことです。今回の失敗を無駄にせず、北の大地で化石と地層を究めるためにこれからも日々歩み続けます! 


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この記事は、太田晶さん(理学院修士1年)が、大学院共通授業科目「大学院生のためのセルフプロモーションⅠ」の履修を通して制作した作品です。
太田さんの所属研究室はこちら
理学院 自然史科学専攻 地球惑星システム科学講座
進化古生物学グループ(小林快次准教授)

 

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執筆者の太田さんが、8月5日よりむかわ町で開催される「むかわ恐竜アカデミア2017」に出演されます。

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