フレッシュアイズ


#85 イオン液体でめっきと社会を「デザイン」する ~設計から応用まで、自分がやるからできること~

2017年09月06日

 

錆から金属を守るめっき。めっきはありふれた技術ですが、まだまだ改善の余地がある技術でもあります。金属表面をアルミニウムでめっきするためには水以外の溶媒を使わなければなりません。僕は多彩な機能を持たせることができるイオン液体をアルミニウムめっき用に「デザイン」し、シミュレーションから合成、応用までを1 人で担当しています。イオン液体のポテンシャルも自分のポテンシャルもまだまだこんなもんじゃないと信じて研究しています。

【山﨑脩平・総合化学院修士1年】

 

「めっき」で錆から守る

 

大抵の看板や公園の遊具などは鉄でできていますが、古いものにはよく茶色い錆が付いています。錆びてぼろぼろになって、折れたり壊れたりすると非常に危険です。錆は鉄と空気中の水や酸素が反応してできるので、そもそも鉄に水や酸素が触れなければ錆びません。

 

一方で、水や酸素に強い金属も存在します。例えばアルミニウムです。アルミ箔は水や酸素に触れているのに金属光沢があります。これは表面のアルミニウムが酸素と反応し、表面に酸化皮膜と呼ばれる緻密な膜ができて、それが水や酸素から内部のアルミニウムを守っているためです。このように、ある金属を守るために表面に別の金属の膜を作ることを「めっき」といいます。

(アルミニウムの酸化被膜が錆の原因から守ってくれる)

 

 

水溶液ではアルミニウムめっきはできない

 

めっきするための手法の1つとして、溶液中に存在する金属イオンに電子を与えて、金属イオンを金属に戻すことでめっきをする「還元」と呼ばれる反応を用いる方法があります。この溶液として一般には「水溶液」が用いられるのですが、水溶液ではアルミニウムをめっきできません。なぜなら、水溶液に電気を流しても電子はアルミニウムイオンとは反応せず、水と反応してしまうためです。従って、アルミニウムめっきを行うためには水溶液ではない別の「溶液」を用いる必要があります。

 

 

ちょっと? すごく? 変わった液体「イオン液体」

 

水溶液ではない溶液にも色々あるのですが、その中でも「イオン液体」が注目されています。イオン液体とは常温で液体になっている塩(えん)で、塩(しお)のようにプラスの電荷を持つイオンとマイナスの電荷を持つイオンからなります。

イオン液体と他の代表的な物質との比較

  液体 固体
イオン

イオン液体

(電気化学的に安定)

塩(しお)

分子

(電気化学的にやや不安定)

砂糖

 

イオン液体には水溶液と混ざらずに水溶液中の金属カチオンだけを抽出できるもの、服に用いられる綿繊維(セルロース)だけを溶かして化学繊維(ポリエステル)は溶かさないものなどがあります。イオン液体はその構造を「デザイン」することで多彩な機能を発揮できるため、その特徴から「デザイナー溶媒」とも呼ばれています。また、イオン液体は水よりも電気化学的に安定なので、溶液に用いればアルミニウムめっきができるのです。

(還元反応によるめっきのイメージ図。左側の正電極で生じたアルミニウムイオンは、マイナス側の電極で電子と反応することで、金属(オレンジ色部分)の表面上でアルミニウムになります。これによって金属表面にアルミニウムめっきが生じます。電気分解されないイオン溶液を用いると、めっきが可能になります。しかし、水を用いると点線矢印の反応が進行しません)

 

 

シミュレーションから合成、そして応用まで

 

実は、アルミニウムめっき用にデザインされたイオン液体はまだ存在しませんでした。そこで、僕はアルミニウムめっきに適したイオン液体を見極めるために、PC を使ってシミュレーションし、イオン液体をデザインしています。設計したイオン液体を合成したら、実際にめっきしてみて挙動を観察します。

(左はデータ解析用、右はシミュレーション用。デスクは自分だけの基地です)

 

普通の研究ではそれぞれのプロフェッショナルが分担して進めていくので、「シミュレーション」、「合成」、「応用」の各手順を全て同じ人が行うのは少し珍しいことです。しかし、僕は全てを自分の手で行っているので、何か課題が見つかったときに即座に前の手順にフィードバックできます。1 人で全て担当するので苦労も多いですが、研究室の先生方や友達に色々教えてもらったり、お互いの意見を持ち寄って議論したりすることで研究を進めています。

(左上の銀と黒の四角いものが実験装置。自作の装置です(設計は先生))

 

 

「エンジニア」から「社会のお医者さん」へ

 

実は、シミュレーション、合成、応用の全て行う研究スタイルは、北大に入る前、高専での卒業研究で培われたものです。そして高専時代には、今も大切にしている言葉にも出会いました。「人を治すのが医学部出身のお医者さんなら、工学部出身のエンジニアは社会を改善する『社会のお医者さん』だ!」という谷口功先生(国立高等専門学校機構 理事長)の言葉です。僕は、立派な「社会のお医者さん」になるためにこれからも励んでいこうと思います。

 

 

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この記事は、山﨑脩平さん(総合化学院修士1年)が、大学院共通授業科目「大学院生のためのセルフプロモーションⅠ」の履修を通して制作した作品です。

 

山﨑さんの所属研究室はこちら

総合化学院 物質化学コース 先端物質化学講座

電子材料化学研究室研究室(安住和久教授)

研究室HP

 


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