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#77 十勝の台風被害から1年。目指すのは、寝てても助かる土砂災害対策

2017年08月31日

 

 

札幌から十勝へと続く国道274号線。先週、国土交通省北海道開発局は、今年10月末をめどにこの国道274号日勝峠の通行止めを解除すると発表しました。この交通の要所を1年以上ものあいだ不通にしたのは、ちょうど1年前に北海道を襲った四つの台風。雨量の少なさから土砂災害は起きにくいとされてきた北海道ですが、近年の気候の変化によって、北海道も本州以南と同じく土砂災害対策が必要になってきたといいます。

 

今後、私たちはどのような心構えでいるべきなのでしょうか。北海道大学農学研究院国土保全学研究室で砂防学を研究し、これまで日本各地で多くの防災措置を主導してきた小山内信智さんに、お話を伺いました。

 

 

 

台風7号、11号、9号と三つの台風が北海道に上陸したのは観測史上初めて。さらに台風10号が北海道に接近し、道東地方に200年に1度ともいわれる規模の暴風雨をもたらしました。最も大きな被害を受けたのは、十勝地方。山間部では土砂崩れが起きて、道路や鉄道が壊滅状態に陥りました。平野部では各地の川が氾濫して橋が押し流され、市街地で洪水氾濫が起きました。この市街地での洪水氾濫も、実は土砂崩れが影響していたといいます。

 

 

――平野部に土砂崩れが影響するというイメージが全くなかったのですが…?

 

そうなんです。十勝は広大な平野ですから、山はかなり離れたところにありますね。大雨によってその山の土が緩んで土砂移動現象、いわゆる土砂崩れが起き、その土砂が川をつたって平野部に供給されて、その結果市街地に川の水が氾濫した、というメカニズムでした。大きな被害を受けた清水町の人達も、土砂崩れというよりは洪水氾濫が起きたと認識しているはずですが、その原因は山で起こった土砂崩れだった、というわけです。

 

(清水町ペケレベツ川の氾濫の様子。流木や土砂でペケレベツ橋が閉塞している)

<小山内さん講演資料を一部改変>

 

 

――十勝は地盤が緩いということですか?

 

十勝だけではないですが、日高山脈の東側斜面の一部には風化した真砂土(まさど:花崗岩が風化したもの)が積もっていて、ちょっとの外部刺激で大量の土砂が移動してしまうのです。

 

 

――ですが、そういう脆弱な土地に街ができて久しいということは、これまでの歴史では外部刺激がなかったために災害を免れてきたということですね?

 

そういうことです。特に北海道で注意しなくてはならないのは、気候が徐々に変わってきていることです。これまでは雨量が少なかったのでそれほど土も緩まなかったけれど、今後はそうはいきません。今まで削り取られなかったもろい土が残っている状態ですから。

 

 

(21世紀末時点での降水量増加率予測。年最大日降水量は全国的に増加の傾向。気候変動による影響は高緯度ほど大きいと予測されており、100年後の北海道の年最大日降水量は1.24倍になると予測されている)<小山内さん講演資料を一部改変>

 

 

 

――国の防災・減災対策としては、どのようなものがあるのでしょうか?

 

住民の安全を守るための法律として、「土砂災害防止法(正式名称:土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律)」があります。これに基づいて「土砂災害警戒区域」を指定し、がけ崩れを未然に防ぐ工事(「急傾斜地崩壊防止工事」)を施したり、土地の利用制限をかけたりします。

 

 

――土地利用制限ですか。住民の反発がありそうですが?

 

いま住んでいる場所から立ち退けということではなく、新たな住居の建設に制限をかけるということです。土砂災害防止法は、警戒区域の開発自体を禁止するものではなく、開発の際には安全対策を講じることを義務付ける、という法律です。ただ、大がかりな施設を建設してまでそこを開発したい人はそういませんから、実質的に危険な場所に住居が建設されずに済むということになりますね。

 

 

――もし、自宅付近が「土砂災害警戒区域」に指定されてしまったら、どうしたらよいのでしょう?

 

警戒区域を指定する一番の目的は、規制ではありません。リスクを住民に「認識してもらうこと」なんです。大雨が降ったらここは危険な場所なんだ、ということを念頭に置いておき、災害時に速やかに避難できるように心の準備をしておいてほしいのです。

 

 

――昨年、北海道の風水害で被害があった場所は、「土砂災害警戒区域」だったのですか?

 

それがそうとは限らないんです。たとえば、清水町市街地は土石流などによって直接的な被害を受けるわけではないので、元々指定はかかりません。土砂災害の直接的被害を受ける可能性の高い場所については、現在日本中で警戒区域の指定を進めているところで、土砂災害リスクの高い場所の6割程度の指定が済んでいるのですが、実は北海道は日本で最も指定が遅れている状況です。理由はやはり、雨量が少ない土地だったために土砂災害を強く意識してこなかったこともあったのではないかと思われます。土地の性質としては崩れやすい危険な箇所はたくさんあるので、現在、急いで指定をすすめているところです。

 

 

 

――札幌にも、風水害で危険な場所はありますか?

 

あります。実は札幌は、潜在的にはなかなか危険な場所です。平岸面は数万年前の支笏火砕流の上にできた平坦面なのですが、その後大きな土砂の流送が起こり、今では豊平川を境に高い面(平岸面)と低い面(札幌面)の二つの扇状地に分かれています。札幌面側から見ると、豊平川は天井川なのです。それに備えて河川敷を広めにとってありますし、堤防も建設して上流には定山渓ダムと豊平峡ダムを備えているのでかなり安全度は上がっていますが、万が一堤防が決壊した場合、北大がある側の札幌面に水が舐めるように広がっていき、部分的には溜まってしまう恐れがあります。

 

(札幌は高さの異なる二つの扇状地で成り立っている)

札幌市洪水ハザードマップ_中央区・豊平区を一部改変>

 

 

2014年9月11日に大雨があったのを覚えていますか? 明け方に大雨特別警報がスマホにガンガン入ってきて眠れなかったという。あの時、実はあともう数時間降り続いていたら、南区や西区の山が土砂崩れを起こし、札幌市街地にも被害が及ぶ可能性がありました。

 

 

――札幌市民はおそらく、何もなかった、と思っていたと思いますが、実はギリギリのところだったのですね。そんな危険な土地だったとは。

 

そうですね。起きてみないと誰も危険を認識できないので、土砂災害は見えにくい災害だ、といわれるのです。

 

 

――北海道大学には「突発災害防災・減災プロジェクト拠点」がありますね。どういったプロジェクトなのでしょうか?

 

突発災害防災・減災プロジェクト拠点」は、2015年度よりスタートしたプロジェクトで、農学研究院、理学研究院、工学研究院、文学研究科、公共政策大学院の五つの分野の研究者で構成されています。災害のリスク分析と対応のあり方を研究開発すると同時に、大学院共通授業科目「突発災害危機管理論」を開講し、防災人材の教育を行なっています。市民に向けては、定期的に講演会などを開催して防災知識の普及につとめています。

 

(小山内さん分担著作の「現在砂防学概論」)

 

 

――私たちは、どのような心構えで防災・減災につとめればよいでしょうか?

 

台風や地震が多い日本の国土は、土砂災害リスクの高い土地です。そのことを私達は頭ではわかっています。ですが、自分や自分にごく近しい人が被災しないかぎり、危険というものを自分事として考えられないものです。であれば、自然災害リスクを共有し、リスクに応じて土地利用の仕方を工夫して、危険な場所にははじめから住居を建てないように法整備するといった対策が有効でしょう。また、危険な区域には防災施設を入れる。そうすれば寝ていたって被害を受ける可能性は低くなりますから。同時に、現在すでに土砂災害警戒区域に住んでいる人には、リスクを認識してもらう。そうすることで、万が一の際にいち早く避難することができます。

 

 

――今後、どのように研究をしていきたいですか?

 

砂防や土砂災害対策だけでなく、もう少し幅広い考え方で、安全な住まい方が実現できるような土地利用法の考察をしていきたいと思っています。


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