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#90 ティラノサウルス類の化石を北海道芦別市で発見(1)~速報

2018年06月20日

北海道芦別市でティラノサウルス類の化石が発見されました。見つかったのは尾椎骨で、白亜紀後期に生息していた、体長6mほどの中型のティラノサウルス上科に属する恐竜のものだと考えられています。今回の発表は、北大の小林快次さん(総合博物館 准教授)、同研究室の鈴木花さん(理学院修士1年)、三笠市博物館の加納学館長の調査によるものです。本日10時から、記者会見が三笠市立博物館で行われました。その様子は後日掲載いたしますが、速報で概要をお伝えします。

(今回発見された化石を5方向から撮影した写真。スケールバーは5cm)

<北海道大学プレスリリースより転載>

 

 

ティラノサウルス大型化の進化を明らかにする貴重な資料

 

化石は2016年に、アマチュア化石愛好者の小川英敏さんによって三笠市の隣、芦別市で発掘されました。その後、鈴木さんを中心に、北大総合博物館と三笠市立博物館が、外部の形態と内部のCTスキャンによる分析を行い、ティラノサウルス上科※に属する恐竜の尾椎骨と結論づけました(詳細はプレスリリースを参照)。

(発見された尾椎骨は、尾の中間あたりの骨(骨格図は中型のティラノサウルス類であるティムルレンギアのもの) (c) 増川玄哉)

<北海道大学プレスリリースより転載>

 

ティラノサウルス類には、映画等に登場するいわゆる「ティラノサウルス」である大型のティラノサウルス・レックス以外にも多くの種が知られています。約1億7000万年前ジュラ紀中期に現れた、最初期のティラノサウルス類は、ヒトほどの大きさでした。その後大型化が徐々に進み、約9000万年前白亜紀中期のティラノサウルス類である中型のティムルレンギアは馬ほどのサイズです。そして約7000万年前白亜紀末期に体長10mを優に超えるティラノサウルス・レックスが登場しました。

(今回発見されたティラノサウルス類の復元図 (c) 服部雅人)<北海道大学プレスリリースより転載>

 

今回の発見は、この、大型化していったティラノサウルス類の進化の過程を明らかにするうえで、貴重な資料となります。化石は、蝦夷層群羽幌川層という地層の中にある、厚さ50cm程の砂岩層から発掘されました。この層は海底に砂などが堆積してできた、8630~8980万年前の地層です。この時代は白亜紀後期にあたり、まさにティラノサウルス類が大型化して行ったと考えられる時代なのです。

 

 

日本最北端、北海道で初の発見

 

また、発掘された地域も重要です。これまで長らく、ティラノサウルス類の化石は北米やモンゴル、中国で主に発掘されており、日本での事例はありませんでした。しかしここ数十年で、この地図が塗り替えられてきています。今回は日本で最北端の発見となり、ティラノサウルス類のアジア大陸周縁部での分布と進化を知る上の鍵となります。

 

古い時代のティラノサウルス類としては、1996年に福井県大野市で発掘された、約1億3000万年前白亜紀初期の歯の化石が、小型のティラノサウルス上科のものだと発表されています(1999年、国立科学博物館、和泉郷土資料館による)。また、福島県広野町の白亜紀後期の地層から発掘された、約8500万年前の脛骨の化石が、ティラノサウルス上科の可能性がある、と1987年に発表されています。

 

白亜紀末期の大型ティラノサウルスも発見されてきています。2014年に長崎県長崎市で発掘された、約8100万年前の歯の化石が、体長10mほどのティラノサウルス科と発表されました(2015年、長崎市と福井県立恐竜博物館による)。また、熊本県天草市で2014年に発掘された、約8000万年前の歯は、体長7mほどのティラノサウルス科のものと発表されています(2017年、御所浦白亜紀資料館と福井県立恐竜博物館による)。

 

このように今回の発見は、年代的にも地域的にも、ティラノサウルス類の進化を研究する上での穴を埋める、重要な知見を与えると期待されています。

 

 

白亜紀の化石を抱く、蝦夷層群

 

さらに、この化石が得られた蝦夷層群にも注目です。この地層群は、北はサハリンから、宗谷岬、そして北海道の中央を縦断し浦河町にまで至る地域に分布しています。蝦夷層群は白亜紀中期から後期にできた地層で、これまで様々な化石が発掘されてきました。北大の研究者も活躍しています。

 

長尾巧(理学部 教授・1891-1943)は、当時の南樺太で1934年に、ハドロサウルス類のニッポノサウルスを発掘しました。これは、日本人が初めて記載した恐竜です。また、2011年に小林快次さんは、むかわ町穂別で発掘された化石を恐竜化石と同定。その後に発掘と研究を行い、ハドロサウルス類であることを明らかにしました。日本初の大型恐竜の全身骨格標本としても有名な「むかわ竜」は、現在も研究がすすめられています。

(蝦夷層群(赤)と、そこから発見された恐竜。蝦夷層群からは恐竜以外にも様々な古生物の化石が発掘される)

 

もちろん、化石発掘は研究者だけでなされるものではありません。地域の化石愛好者の方々の地道な活動があり、そこに研究者の専門性が加わることで初めてこれらの発見がなされてきたのです。今回のティラノサウルス類の発見だけではなく、先日お伝えしたむかわ町穂別での連携もあり、北海道の恐竜研究はこれからますます盛り上がりそうです。

 

後編では、記者会見での関係者のコメントを中心にお伝えします。

 

 

※ティラノサウルス上科: 上科は分類群のひとつ。例えば、いわゆる「ティラノサウルス」であるティラノサウルス・レックスは、ティラノサウルス上科・ティラノサウルス科・ティラノサウルス属に属する。ティラノサウルス属にはティラノサウルス・レックスしか確認されていない。ティラノサウルス上科にはティラノサウルス科以外の科も存在し、その形態や大きさは多様である。今回発見された化石はティラノサウルス上科に属し、大型のティラノサウルス科ではないと考えられるが、逆にいえば、それより下位の科・属・種などの分類についてはまだ不明ということになる。本稿では、ティラノサウルス上科に含まれる恐竜をさして、「ティラノサウルス類」と表記している。

 

 


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