フレッシュアイズ


#116 観光学の今を見つめる(2)~本から迫る西山さんの「見る力」

2018年08月30日

 

前編では、「地域」をキーワードとして観光学を研究している西山徳明さん(観光学高等研究センター 教授)の活動に迫りました。後編では、西山さんの「今」をつくった3冊の本を紹介します。3冊に共通するのは「見る力」。西山さんとこれらの本との関わりをまとめました。

【三浦葉子・総合理系1年/石井夏樹・水産学部1年/五十嵐元・総合理系1年】

 

観光学のバイブル

『観光・リゾート開発の人類学―ホスト&ゲスト論でみる地域文化の対応』バレーンL スミス 編、三村浩史 訳(勁草書房/1991)

 

この本は、文化人類学分野の観光学に関するバイブルのような一冊です。本来、文化人類学者たちは、観光学を憎んでいたわけですよ。文化人類学者は、近代化に侵されていない民族の文化がいかにして変容していくのかを研究する人たちです。自分たちがせっかく南海の孤島に行って、長期間かけてその社会のメンバーの一員として生活しながら観察しているのに、そこに観光客が来てズタズタにされる…

 

でもこの本を書いた人達は、はじめて「そうじゃない」と言いました。約15年にわたって世界の11の事例を追跡調査して、そこで起きた文化変容を追跡しました。結論として、近代化自体がそれらを変容させているだけであって、観光が犯人ではないことを証明した本なんです。

(西山さんのお部屋には各国の品々が。こちらはフィジーの置物。世界中で研究していることが伺えます)

 

観光学には人類学や社会学などの理論系の研究や、実業系の研究もたくさんありますが、やはり観光客と地域社会との関係が重要になります。そのためには理論系と実業系の両方をしなければいけない。で、10年前に観光学高等研究センターをたてる時に、先端的な研究をするために「地域」をキーワードにしようという動きになりました。

 

 

私の人生に影響を与えた一冊

『中国の知恵―孔子について』吉川幸次郎 著(筑摩書房/2012)

 

『中国の知恵』は、『論語』の解釈、読み方の話をしています。それを通して、孔子について考えていく本です。春秋戦国時代の政治思想家である孔子は、いろいろな領主が群雄割拠しているところに、自分の理想とする政治の在り方を説いて回ります。ところが、どこに行っても上手くいかず、一生流浪して終わりました。しかし、いい弟子に恵まれ、何人かの弟子が孔子の言行を書き上げました。それが『論語』です。

僕が高校1年の時、この本の著者の吉川幸次郎先生を呼んだ講演会があって、それがきっかけで『中国の知恵』を読みました。ところがこの講演がまたぜんぜん面白くなくて…(笑)、だけど…この本にはちょっと惹かれてね…僕は全くの本嫌いでしたが、一生のうちに何回か一生懸命本を読んだ時期があって、そのひとつがこの本なんですよね。

 

『論語』って教育書なんですよね。僕が『中国の知恵』を読み返して思ったのは、孔子が考えていた、「自分が何か理想とするものを人に訴えていって自分を買ってもらい、自分の思想や考え方を認めてもらって役に立つ」ということと、自分のやっている「地域に入って自分の考えを訴えて、地域を良くしよう」ということに、繋がりがあった、ということです。それと、もう一つ、『論語』には孔子の弟子との兼ね合いなどのエッセンスが書かれています。僕は『中国の知恵』を通して、人間が人間として、親子、友達、それから組織、そういうものを、どう考えていくのか、付き合っていくのか、まとめていくのか、といったことを学んだんです。

 

僕の価値観のほとんどは、孔子の本を読んで形成されたのかな。孔子の生きる姿勢に影響を受けたと、最近すごく思います。

 

学生に読んで欲しい本

「信ずることと知ること」「美を求める心」小林秀雄著『考えるヒント3』(文春文庫/2013)

 

高校から大学になるかぐらいの時に小林さんのエッセイ『信じることと知ること』を読んだときに、なんかそこにすごくヒントを感じたんですよ、これものすごい大事なことちゃうかなと思って。

 

人間は、教養とか知識、あるいは概念でものごとを理解しようとすることで、本当の人の心とか、美しさにシャッターを下ろしてしまって、非常に貧しい精神的な生活を送っている。目の前にあるものとちゃんと向き合う力を失っているというわけです。そういうことで君たちはいいのか、と『信ずることと知ること』では言っているんですよ。

(西山さんが手を置いているのは「信ずることと知ること」が収録されている蔵書『小林秀雄全集第十三巻』)

 

『美を求める心』も実は一緒です。路端の紫の花を見たとき、最初は「きれいな花だな」と思って近づいて見ようとしたのに、「あっ、スミレの花か」って概念と置き換えたとたんに安心して立ち去ってしまうわけです。でも本当はその美しさっていうのは、別に「スミレの花」という美しさがあるわけじゃなくて、その花そのものの美しさがあるってことなんですよ。なまじ、「スミレの花は美しい」っていう概念が頭にあるから、本当のその花の美しさと付き合うチャンスを捨てている。さかしらな素人っていうのは、本当の美に出会えなくなっている、ということを言っている。

 

そこに、観光学のひとつの考え方の大きなヒントがあるんです。実は、今回インタビューを受けて初めて気がついたんだけどね(笑)。観光学研究で地域に入ってみると、地域には学歴が高くなくても大変な知恵がある人がいるんです。だから学者たちが一方的に教えてあげようって構図は実は全く逆なんですよ。気づかなかった価値を見つけ出す、それとおんなじようなものがもっと地上にたくさんある。そういうものの価値や大切さに気づくのが大事だなと。この歳になって、あなたたちに聞かれて、こんな風にしゃべってるのはおかしいな…と思うんだけど(笑)

(今回とりあげた二編は、文春文庫の『考えるヒント3』で読む事ができます)

 

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どの本も西山さんの研究や考え方の元になり、まさに西山先生の内面を表した本でした。最後の「学生に読んで欲しい本」では、知識や教養を蓄えようとし始めている私たち学生に対して、西山さんはあえて「知識や教養で物事を理解することは、本当の美しさにシャッターを下ろしてしまうかもしれない」というメッセージを送ってくれました。自分の視野に無いものについて「そのもの自体」を純粋に見られる学生でありたいと思います。

 

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この記事は、三浦葉子さん(総合理系1年)、石井夏樹さん(水産学部1年)、五十嵐元さん(総合理系1年)が、全学教育科目「北海道大学の”今”を知る」の履修を通して制作した成果物です。


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