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#117 森が教えてくれたこと~クリエイターがつむいだストーリーと作品

2018年10月24日


揺らすと木がコロコロと転がる音のする文鎮、二つの木が出会った菱形のお皿、空に伸びようとする形のマグネット。これらの作品は、研究者とクリエイターが協力し合いながら、札幌キャンパスの北、約300kmに位置する天塩研究林にまつわるストーリーや素材をもとに作り上げました。天塩研究林は北海道大学の北方生物圏フィールド科学センターが持つ、日本最北の大学所有の森林です。約22,500haにも及ぶ広大なこの森を、研究者とクリエイターはそれぞれどのように捉え、これらの作品は生まれたのでしょうか。明日25日の夕方には、作品のお披露目を兼ねたトークイベントが開催されます。今回、作品制作のプロセスについて、お話を伺いました。

 

 

2018年7月。留学生対象のプログラム「サマーインスティテュート」の授業「研究者とクリエイター」が2週間にわたって開講されました。研究者とクリエイターの見方や表現方法はどのように異なり、どのように共通しているのかを、制作プロセスの説明を聞き、自ら森に出かけてワークショップをすることを通して学生たちが体験しました。

 

その対象となったのが、天塩研究林です。2018年1月に、授業の準備をするため韓国からクリエイター2人が招待され、天塩に向かいました。写真家のキム・ボリさんと、デザイナーの南 美慧(ナム・ミヘ)さんです。二人の眼に、北海道の森はどのような姿に映ったのでしょうか。

 


人を軸に、真っ白な森を見る


冬の森は、真っ白な世界です。授業を担当した写真家のキム・ボリさんは、人が暮らす空間における人物写真を中心に、幅広く活動しています。キムさんは冬の天塩研究林を見てその広さに、ただただ圧倒されたそうです。同時に、森で研究したり働いたりする方々に出会うことで、この森の広さと美しさを「人間」を軸に表現したくなったといいます。

 

しばらく、キムさんの天塩の写真を鑑賞してみましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

見るだけで寒く感じられる写真ですが、同時に人の営みが込められているので、どこかやんわりした雰囲気が読み取れる写真が出来上がりました。

 


人を育てる森

 

同じ森でも、季節によって姿は様変わりします。春の天塩は冬に比べると緑が深く、色彩も気温も全く異なるため、同じ場所であっても別世界に来ているような気持ちだったとキムさんは語ります。今回は、森林生態学が専門の小林真さん(天塩研究林 准教授)の研究に同行しました。キムさんは、小林さんの様子を見て、逆に森が人を育てている、そんな気がしたそうです。

 

 

(森の中で、小林さん)

 


森の中で、コロコロを見つける

 

もう一人のクリエイター、 南 美慧(ナム・ミヘ)さんは、伝統文様に注目して、家具から小物の制作・展示からワークショップまで、幅広く活動しています。そんな南さんが天塩研究林の中で目をつけたのは、北海道に特有のエゾアカマツの葉っぱでした。

 

 

小林さんによると、エゾマツとアカエゾマツとトドマツの同定をする時には葉っぱの断面の形を用いるそうです。その中でもエゾアカマツは手先で葉っぱを転がしてみると、特に「コロコロ」するといいます。南さんは、雪深い森の中で感じた手先の感覚がずっと忘れられず、エゾアカマツのことを調べることにしました。

 

(葉っぱと顕微鏡写真)

 

フィールドでの経験や小林さんへのヒアリングなどを通して、顕微鏡写真、針葉樹と広葉樹の混在している北海道の森の特徴、森の競争など、作品のためのストーリーが手に入りました。南さんはそこから、「コロコロ」する文鎮と、菱形のお皿、マグネットの作品3点をつくりあげました。

 

 

(作品のイメージ)

 


多様な眼差しで森を見ること

 

小林さんは、クリエイターの二人が見た天塩研究森に、新鮮な衝撃を受けたといいます。普段生活している場であり、研究でいつも目にしているが、他の領域からの視点が入ることで少し違う視点で森を見つめるようになったそうです。専門も、国籍も異なる人々が交流できる機会が増えると、モノの見方も豊かになるでしょう。

 

南さんは、研究者の眼差しやストーリーはとても興味深いものが多く、作品にするプロセスも楽しめたことを、一番のやりがいとして挙げます。

 

研究者とクリエイターが交流して生まれた作品は、新しいアウトリーチの形です。多様なクリエイターとの交流の場を作ることは、学生や研究者がモノやコトに対する豊かな視点を身につけるきっかけになります。

 

作品制作の次の過程は製品化です。この授業のプロセスの共有と、今後の製品化を来場者の方々と考えるイベントが開催されます。ぜひお越しください。

 

 

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「森をつかう〜研究者とクリエイターが生み出すものづくり」
【日程】 2018年10月25日(木) 18:30 - 20:30 (開場18:00) トークセッション18:30~19:20(無料)、休憩10分、意見交換会19:30~20:30(有料) *トークセッションだけの参加も可能です。
【場所】 北海道大学 遠友学舎(札幌市北区北18条西7丁目)
【主催】 北海道大学 高等教育推進機構 オープンエデュケーションセンター 科学技術コミュニケーション教育研究部門(CoSTEP・コーステップ)
【ゲスト】 小林 真(コバヤシ・マコト)| 北海道大学 北方生物圏フィールド科学センター 天塩研究林 准教授
南 美慧(ナム・ミヘ) | 趣美社 代表、デザイナー
【聞き手】 朴 炫貞(パク・ヒョンジョン)| 北海道大学 CoSTEP 特任助教
【対象】 一般市民、日本語で開催
【募集人数】 60人
【参 加 費】 無料、意見交換会は一般1000円
*札幌市文化芸術振興助成金助成活動の一環で行います。

 


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