ようこそ先輩


#34 表 渓太さん(北海道博物館 自然研究グループ・学芸員)

2018年11月26日

 

厚別にある北海道博物館につとめる北大OBがいます。2015年に理学院博士課程を修了した表渓太さんです。大学院ではシマフクロウの遺伝的多様性・分子進化を研究していました。趣味は木登り、野宿、楽器作りなど多彩な表さんに、研究者にいたる道のりと現在のお仕事についてうかがいました。

(北海道博物館前にて)

 

――今年は「北海道命名150年」です。お勤めの北海道博物館でも関連企画が多いですね

 

今、命名者の松浦武四郎の特別展をやっています(注:2018年6月30日~8月26日)。北海道博物館のすぐそばの塔は100年の記念で建てられたものです。その時のことは知らないのですけど、今回の150年は「おめでとう」だけではないですね…。プラスだけではなく、いろいろな面を取り上げようとしています。動物について言えば、生息地を奪ってきた歴史ですから。この先をどうしたらよいのか、という雰囲気もあります。

 

 

――シマフクロウはどのような歴史をたどってきたのでしょうか

 

150年程前には札幌にもいた記録が残っていますが、現在は一部の地域でしか見られない絶滅危惧種です。生息数は、道東を中心に約165羽と推定されています。

 

私は学部・大学院で、シマフクロウのミトコンドリアDNAや、細胞核のマイクロサテライトを調べて、シマフクロウの遺伝的多様性を研究しました。その結果、この100年で開発などによって各地の生息地が分断され、地域間の遺伝的な交流が失われたことが分かりました。孤立した地域では特に多様性が低下していました。

(北海道博物館にもシマフクロウの剥製が展示されています)

 

ロシア極東地域のシマフクロウと、系統の比較もしました。北海道のシマフクロウとは別の亜種で、鳴き声も違うことが知られていました。分析から、50万年以上前に分化したことがわかりました。種分化が進行中といえるかもしれません。

 

 

――どのように研究するのでしょうか。やはりフィールド調査?

 

シマフクロウは国の天然記念物になっていますから、あんまり勝手に調査はできないんです。環境省の調査について行って、血液などのサンプルを分けてもらったりします。あと、保護活動が始まってから採取された30年間分のサンプルが北大に保管されていました。それを使えたのが大きいですね。それから、100年以上前の剥製からもサンプルを採取しました。

(古い剥製からのサンプルの採取)<写真提供:表渓太さん>

 

どちらかというと研究の中心は、実験室での地道な作業です。フィールドは好きですが、だからといって実験作業が嫌いというわけでもないですね… 趣味と仕事という感じ?(笑)

 

シマフクロウの親子を何代にもわたってサンプリングをして、分析していたことがあるのですが、ずっとおなじつがいからうまれた子どもだと思っていたら、途中で親がいつの間にか変わっていたことがDNAからわかりました。どこかで浮気なりなんなりしたのか(笑)。巣の乗っ取りが起きたのかもしれません。当時、通説では基本的につがいは変わらないとされていたので、最初に結果を見た時、実験に失敗したのかなと混乱しました。フィールドでずっと観察するのは難しいことも多いです。観察だけでは分からないことが分かる、というのがDNAをつかった研究の面白いところかもしれません。

 

 

――研究をはじめたきっかけを教えてください

 

シマフクロウの研究が手つかずだったから…ですかね。物心ついたころから生き物に興味はありました。はじめはイモリとか魚とか…小学か中学くらいから、哺乳類かな…。東京出身ですけど、山の方に住んでいたので、家の近くの山で痕跡を探していました。イノシシとか、テンとか、タヌキとか…。特に誰かに教えてもらったというよりは、独学で本を読んだりしたのが多かったかな… でも、親が山が好きで、よく連れて行かれたので、影響を受けたかもしれません。

 

高校では山岳部に入りました。でも、山頂を目指すタイプではなく、動物を見るのが好きで… カモシカとか見てました。大学は、自然豊かで山も登れるとなると、北海道かなと、北大にしました。山系のサークルも見くらべてみましたが、…やはり動物が見たかったので、クマ研(注:北大ヒグマ研究グループ)に入りました。

 

研究室を選ぶ時… 野生動物を扱っているところは少ないんですよね。クマを研究している研究室に入りましたが、クマはいつも追いかけてるので、研究はいいかなと…。クマはあくまで趣味で(笑)。シマフクロウはサンプルだけは集まっていたのですが、誰もDNAの研究はしていなかった。まだ手つかずでした。

(青森県、下北半島でニホンザルの痕跡を追って雪山を踏査。修士課程の頃)<写真提供:表渓太さん>

(アキタブキの森にて)<写真提供:表渓太さん>

 

――現在は博物館でお仕事をしていますが、いつごろ進路を考えたのでしょうか

 

博士課程に入るころからかな…。大学の研究者だけでなく、一般職も考えました。なるべくなら自然に関わる職業で。その中で博物館員がありました。学芸員資格のための授業は学部から修士でとりました。確かに人気の職業ではあります… なぜなれたか?…うーん。…それなりに研究の実績を出せていた、というのと、…あとはタイミングがよかったから?

(ヤマメをねらうシマフクロウ。企画した北海道博物館の「夜の森―ようこそ! 動物たちの世界へ―」の展示)

<写真提供:表渓太さん>

 

博物館では展示を担当してるんですけど、チラシ作り、照明、壁を立てたり、なんでもやります。2017年の春に「夜の森」という展示をしました。会場を暗くして、ちょっとお化け屋敷みたいにして、剥製をなるべく生きているように見えるように展示しました。モモンガが頭上を飛ぶように、からくりを自作したり(笑)。シマフクロウの講演会やコウモリの観察会も企画しました。

(北海道博物館で開催した木の実の観察会)<写真提供:表渓太さん>

 

研究の成果を論文にするだけでは、業界の人にしか貢献できない。でも博物館にはいろんな人が来てくれるので、展示や講座を通して、特に若い世代に自然の面白さを伝えて行きたいです。

 

 

――何が今のお仕事に活きているのでしょうか

 

動物学の知識はもちろんですけど、展示のために自分でいろいろ作らなきゃならないので、ものづくりの技術が役に立ったかなと思います。昔から趣味で楽器を作っています。何ででしょう…音楽というよりは、音をつくるのが好きなんですかね…。ただ楽器を作るのではなく、オリジナルを加えています。例えば、同時に複数の音がでる笛とか…タンチョウの鳴き声がでるラッパとか…

(複数の音が同時にでる手作りの笛)<写真提供:表渓太さん>

 

人が作ったものなら、自分でも同じものが必ずできるはず、と思っています。だからこそ、人が手をつけていないこと、オリジナルが大事になってくるかな。そういう、人が手をださないことに興味をもって取り組んできたことが活きているかなと思います。

(北海道博物館のヒグマと)

 

 

※ ※ ※ ※ ※

本記事は日本動物学会第89回札幌大会の公開シンポジウム要旨集の記事として公開されたものを転載したものです

 

 

※ ※ ※ ※ ※

表さんの出身研究室はこちら

理学院 自然史科学専攻 多様性生物学講座

遺伝的多様性研究室(増田隆一 教授)

研究室HP 


同じシーンの記事