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#35 松浦友紀子さん(森林総合研究所 北海道支所 森林生物研究グループ・主任研究員)

2018年12月03日

 

ハンター歴20年。女性のハンティングネットワーク「TWIN」を設立し、「獲って食う」をモットーに活動する松浦友紀子さんは、エゾシカ研究で2004年に北大獣医学研究科博士課程を修了した北大OGです。現在は森林総合研究所につとめつつ、酪農学園大学では学生実習も担当しています。その職場にお邪魔してお話をうかがいました。

(お部屋にはシカグッズがたくさん)

 

――職場のお部屋、シカグッズがたくさんありますね

 

自分で買ったものもありますけど、けっこうもらいものが多いです。シカは好きだけど、そんな好きなわけじゃない(笑)。「好きな動物は?」と聞かれたら「クマ」と答えます(笑)。

 

昔から動物が好きだったかというと…ちっちゃいころはふつうに犬は好きでしたけど、大学に入ってからですかね。元々北海道にあこがれて、北大に来ました。実は高2までは文系で、通訳にでもなろうかなと思っていました。でもなんでか、飽きたんでしょうかね、理系にかえました。で、高3で理転して、それからとれる理系科目は生物しかなかったんです。それで生物にしました。

 

北大では北海道っぽいことやりたいな、と思ってクマ研に入りました。そこではじめて、動物を研究している人たちがいる、ということを知りました。それ以前は、そういう職業があるとも思ってなかったですね。

 

 

――わりと成り行きですね(笑)。その後、どのようにして研究の世界へ?

 

クマ研で調査をしていましたが、そのノリで動物を研究する研究室に入りました。その時、クマは一番好きだったんけど、一人でやるのは大変だと思いました。フィールドでの行動観察をやりたかったのですが、クマは何かと危険になりうる動物なので。…当時、なぜか分からないんですけど、まずは一人で研究できないとだめだな、と思ったんですよね。一人でできることがまずあって、その上で人と一緒にやって広げていくものだと…今考えるとそうかな。で、二番目大きいエゾシカをやろうと。とにかくおっきい動物が好きなんですね(笑)。

 

私は、個体をずーっと追跡しないとわからないデータをとりたくて、行動観察をしました。十勝の池田町に、半野生的にエゾシカを飼育している牧場がありました。シカのことを知りたくて個人で飼育している方がいらっしゃったんです。そこで研究をさせてもらって、その方にもいろいろ教えていただきました。100頭くらいいて、全個体を顔で識別して行動観察をしていました。

 

当時のシカの研究は、野外で殺した個体から得られるデータを使ったものばかりでした。行動観察をした研究は国内では数例しかなかったですし、扱う個体数が少なかったり、限定的な状況だったり。

(目指す研究者は動物行動学者のジェーン・グドール(1934~、英))

 

その研究をするため、修士と博士課程の5年間は池田町にすみこんでました。すむ場所がなかったので、「池田町で研究したいんですけど、お金がないんです」と手紙を町長さんに出して、家を一軒かしていただきました。現場では、研究の資質とは別の能力が必要ですね。クマ研のコミュニティには幅広い年代や分野の人がいて、そういう中でコミュニケーションしていたのが経験になったのかな…。行動をデータにする点でも、クマ研での経験が活きましたね。

 

 

――研究でどのようなことが分かったのでしょうか

 

シカは身近な動物ですが、実は分かっていないことも多いんです。当時は発情のサイクルや、妊娠期間も良く分かっていなかった。行動観察や糞の中のホルモン分析、捕殺個体の卵巣の組織学的観察などをして、例えば妊娠期間は約225日であることがわかりました。そういう基本的なことを、ひとつひとつ潰していったのが楽しかったですね。

 

博士論文のテーマの一つは、出産時期の幅です。早いメスだと6月に産みますが、遅いのだと8月や9月で、100日くらいの幅があることがわかりました。そうすると不思議なのは、遅く生まれた子はどうなるのか? 冬を越せない可能性が高いのに。やっぱり、遅く生まれた子は死んじゃうんです。でも、なぜそういう出産時期の幅がエゾシカの性質としてのこっているのか? 若いメスや、栄養状態の良くない個体は出産が遅れる傾向がありました。はっきりとは分かりませんが、冬には厳しい年も、マイルドな年もあります。マイルドであれば産んでおけば生き残れる。自然の選択にまかせているのかもしれません。

 

 

――北海道はエゾシカ被害が深刻ですが、現在とりくんでいる研究について教えてください

 

エゾシカによる農作物の被害額は年間40億円ほどもあります。40~50万頭もいるエゾシカを、どう管理するかが今の仕事です。被害を減らすための応用研究のニーズは高いですね。個体数管理のためには殺さないといけませんが、そこから、いかに管理のための情報をえるか。応用研究はおおきく二つあって、一つはどれくらいの個体がいるか、どれくらい増えるかを明らかにしていく研究。もう一つは食肉利用のための研究です。他にも、どうやって捕獲するかという方法についても研究しています。

(シカのデコイ(おとり)。シカを安心させて、捕獲するるために使います)

 

まず、猟銃や罠で捕殺します。ハンターさんに撃ってもらうこともあります。個体数を増やさないためにメスを主にとる必要がありますし、シカの個体数を決めるのはメスの数だったりするので、メスを中心にデータを集めます。捕殺後、歯の生え変わりを見て年齢を推定したり、体長・体重といった基礎情報をあつめます。それから、現場で解体して、内臓をとりだします。それを実験室で観察します。私が専門にやっているのは繁殖状態の確認なので、胎子や卵巣の観察・計測をしています。

 

肉も調べます。北海道ではエゾシカを年間10万頭以上捕獲しています。でも食肉として流通しているのは10~20%ほどしかありません。どういう処理をしたらどういう肉質になるか、という品質管理や、野外で解体しても菌などで汚染されないか、といった衛生管理の研究もしています。

 

 

――ハンティングは大変ですか? ちょっと特殊な世界かなと思いますが…

 

ハンティングをして殺すのは「かわいそう」とかではないですね。殺すこと自体が目的ではなくて、理由があって「殺す」と決意して猟をしているわけですから、きちんと殺さないとかわいそうです。なので猟の時には、なるべくシカを苦しませることなく殺すことだけを考えて、殺したシカはできるだけ活用したい。

(イギリスにて、ダマシカとともに)

 

シカはきれいだなぁと思います。あと魅力は、おいしい! ハンティングは他の趣味と同じで、ふつうに楽しむ趣味の一つ。他と違うところは、おいしい肉が手に入るところ。自分でとった肉は3割増しでおいしい(笑)。

 

やっぱり猟友会はおじさんの集まり。女性は各地の支部に一人とかで、ちょっとした悩みとかが共有できないんです。私、常にそうなんですけど、なんとなく生きてるんでTWIN(注:The Woman In Nature)をつくった理由も、そんなに熱い思いはないですけど…。女性同士のゆるいネットワークができれば、と思ってつくりました。女性ハンターの役割は潤滑油。おじさんハンターや地元の方々を活性化させる役割はあります。あとはハンターのイメージ向上ですね。そこらへんにいるふつうの女子がやってる、ふつうのハンティング。というのを見てもらう。

 

 

――マイペースですね。研究者として大切なことはなんでしょう?

 

ぶれない力かな。ふらふらっとしてないで、ひとつ芯をもつ。自分の研究のうりになることを見つける。私の場合は行動観察が今、活きてるかな…。コミュニケーション能力は必須ですよ。地域の人とどれだけコミュニケーションとれるか。シカの個体管理ではシカよりも人とのやりとりが重要といわれてます。女子はコミュニケーション能力高いけど、男子には常に想像力を持って欲しい。想像しろよ、と(笑)。

(実はクマが好き、ということでお部屋にもクマの写真があちこちにありました)

 

 

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本記事は日本動物学会第89回札幌大会の公開シンポジウム要旨集の記事として公開されたものを転載したものです

 

 

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松浦さんの出身研究室はこちら

獣医学研究科 環境獣医科学講座

野生動物学教室(大泰司紀之教授(退職))

研究室HP

 

 

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今回紹介した研究活動の一部は、以下の書籍にまとめられています。

・松浦さんもコラム「ハンティングのススメ」と「海外の狩猟と野生動物管理の事例 イギリス」を執筆しています。

『野生動物管理のための狩猟学』

         梶 光一・伊吾田 宏正・鈴木 正嗣 編、朝倉書房(2013年)


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