フレッシュアイズ


#131 我らが生活パートナー“筋肉”の謎を解く

2019年07月30日

 

我々の生活は筋肉なしでは語れない。美容院で座り、買い物のために自転車を漕ぎ、料理をして、ご飯を食べて…。こういった動作一つ一つを担うのは身体の各部位の筋肉たちである。そして筋肉が収縮・弛緩して体が動くのは筋肉の中のタンパク質の活躍によるものである。我らのQOLの維持のためには筋肉機能の維持、ひいては筋タンパク質構造の維持が必須なのだ!

【市村恵美/農学院博士1年】

 

(自分の筋肉と語り合う市村)

 

精密な筋肉の構造

 

筋肉はとても美しい。

 

(筋肉の構造模式図)

 

筋肉の収縮機能を担うのは「筋原線維」と呼ばれるロープ状のタンパク質の構造物である。これが1つの筋肉細胞の中に1000〜2000本入っているのだが、とりあえずすごく整っている。私の推しメンである「ミオシン」は筋原線維の主要なタンパク質の1つだ。このタンパク質は約300個が集合し、きっちり1.6μmの太いフィラメントとして筋原線維に収まっている。

 

そして、筋原線維内に平行に並んだ太いフィラメントは垂直面でみると正三角形になっており、その正三角形の重点に位置するところにアクチンが集合した細いフィラメントがいるのである。筋原線維のどこを見ても!100000倍スケールでいいから模型作ってみろといわれても、とてもじゃないが私にはムリだ。。こんなにきっちりなんてむつかしい。これを当たり前のように作ってしまうのだから生物ってすごい。

 

 

儚いミオシンの一生

 

筋原線維はできてしまったら、終わりとはいかない。筋肉は成長や生活スタイルの変化ですぐに肥大・萎縮する。その陰では筋原線維の形成と分解が起きている。また、維持している時もその構成タンパク質は変化しているのだ。例えば、体内のミオシンは6日程度で半分が分解する。セミの成虫と同程度の寿命だ。

 

言うのは簡単、「1週間で筋肉のミオシンの半分は入れ替わっているんですよ」、と。だが想像してみてほしい。筋肉に含まれるタンパク質の約25%はミオシンだし、筋原線維のあんなにきっちりした構造からどうやってミオシンを抜き差しできるのか意味不明だし、そもそも私たちってそんなにじっとしているわけではないし、、、どうやって置き換わっているんだ??

 

 

短時間で置き換わるミオシンの謎

 

「どうやって」はまだ解明できていないが、筋原線維のミオシンは約3時間で半分近く置き換わっていることがわかった!思った以上の速さである。細胞の中で入れ替わりながら再利用するものと分解するものとを選別しているのではないかと予想している。それにしても、確固たるものとして認識していた筋肉の構造体がかくも流動的だといわれてしまうと自分の個体としての存在も揺らいできそうだ。だが、こんなところで自分を見失っている場合ではない。「どうやって」そんなに短時間で置き変われるのかを解明しなければならないのだから。

 

この謎に対して「蛍光イメージング法」という手法を用いて解明を試みている。簡単にいえば、細胞の中のミオシンを光らせてその動きを観察するのだ。ヒトとか牛とか、生きている個体の筋肉タンパク質の観察は難しいので、細胞を使う。私が使うのは鶏の筋肉細胞である。この筋細胞に「蛍光ミオシン」の遺伝子を入れて大事に育てる。大きく育ち、光るようになったら成功である。そしてミオシンが置き換わる様子を顕微鏡で観察していく。

 

単分子としてのミオシンは小さすぎて見ることができないので、重合して筋原線維を形成しているミオシンの蛍光の一部に強い光を当てて退色させる。退色部分の蛍光が回復する=その部分に新しいミオシンが入ってきて入れ替わった、として評価する。この時にミオシンと関係するタンパク質の機能を阻害したり、逆に促進したりすることでミオシンの置換に影響するものが何かを調べるのである。

 

(蛍光ミオシンを発現した筋細胞で蛍光が回復する様子を観察)

 

まだまだわかっていることは少ないが、自分の体の中で繰り広げられているドラマを想像しながら一つ一つ謎を解き明かしていくのはとてもワクワクする。そして、筋原線維の精緻な構造の作製や筋肉の収縮機能を邪魔しないタンパク質の置きかわりといった、私には無理なんじゃないかと思うことを粛々と進めている細胞の機能を知るたびに自分の体に「生かされている」ということを実感する。これが、私が生物研究者の末席にしがみついている理由なんだろう。

 

 

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この記事は、市村恵美さん(農学院博士1年)が、大学院共通授業科目「大学院生のためのセルフプロモーションⅠ」の履修を通して制作した作品です。

市村さんの所属研究室はこちら

 

農学院 農学専攻 生命フロンティアコース

細胞組織生物学研究室(西邑隆徳教授)

研究室HPアドレス

 

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今回紹介した研究成果は、以下の論文にまとめられています。
Koichi Ojima†, Emi Ichimura† et al. (†:co-first author)
Dynamics of myosin replacement in skeletal muscle cells
American Journal of Physiology. Cell Physiology, 309: ppC669-C679, 2015
Koichi Ojima†, Emi Ichimura† et al. (†:co-first author)
Myosin substitution rate is affected by the amount of cytosolic myosin in cultured muscle cells
Animal Science Journal, 88: pp1788-1793, 2017 
Koichi Ojima†, Emi Ichimura† et al. (†:co-first author)
HSP90 modulates the myosin replacement rate in myofibrils
American Journal of Physiology. Cell Physiology, 315, ppC104-C114, 2018


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