フレッシュアイズ


#139 心理学から解き明かす“音楽と私たち”

2019年09月09日

 

J-pop、クラシック、Jazz……私たちの暮らしは音楽で溢れています。そんな音楽には○○な力があるとかないとか……実は、北海道大学には、音楽と私たちの関係性を見つけ出そうと心理学を用いて研究・調査を行う研究者がいます。今回お話を伺ったのは、安達真由美先生(文学研究院 教授)です。

安達先生、「初見視奏」って何ですか?!

【杉中美友・法学部1年/高橋昌弘・総合文系1年/益子真明・医学部1年】

 

(初見視奏の研究について話す安達真由美先生)

 

 

初見視奏とその研究について聞かせてください。

 

初見視奏は初めて見た楽譜を練習しないでその場で即座に弾く演奏のことです。初見視奏の研究は1940年代くらいからなされています。そして1970年代後半から1980年代頃に、フルート奏者でもあった音楽心理学者のジョン・スロボダが、演奏している音符と目で先読みしている音符の幅が広ければ広いほど演奏ミスが少ないという内容の論文を出したんです。音楽心理学の論文としては初めて感銘を受けましたし、私としても音楽心理学には元から興味を持っていましたので、いつか初見視奏について研究したいと思っていました。

 

その研究内容とは具体的にいえば、初心者と熟達者の初見視奏を比較するという初めての試みでした。ピアノ演奏の難易度に影響する指の動きの複雑性や拍子の条件を変えながら、被験者に演奏してもらうことで、初心者と熟達者の眼球運動と演奏エラーについて調べました。初見視奏は熟達者のするものだというイメージがあると思うんですが、程度の差はあっても、コツをつかめば初心者でも出来るようになると分かったんです。

 

(音楽心理学について幅広く研究されています)

 

 

安達先生が行っていた、音楽環境が乳児に与える影響の研究について教えてください。

 

子どもが生まれてはじめて音楽に接するところとはやはり家庭の環境です。家庭が音楽と子どもの出会いの場を提供するんです。ですから、その出会い方などがその後の子どもの音楽との接し方に何らかの影響を与えるのではないかと考えました。日頃から親や兄弟が歌を歌ったり、音楽に合わせて赤ちゃんの体を動かしたりするような音楽に積極的な家庭の12ヶ月半の赤ちゃんと、BGMとしてのみ音楽に接するような音楽に消極的な家庭の同じ12ヶ月半の赤ちゃんに、同じ音楽を聞かせて、それぞれどのような反応をするか、ビデオ撮影でデータを取ったんです。すると、もちろん音楽に積極的な家庭の赤ちゃんはノリノリに体を動かしました。しかし、もう一方の赤ちゃんにも、数的にはすごく少ないですが、音楽が流れることによって体を反復的に動かすという行動は見られたのです。

 

私が大学生の頃は、ディスコというのがあって、それにわざわざお金を払って踊りに行きました。そのように、音楽が体を動かすということは大人にも見られます。この調査によると、そういう動きが12ヶ月半までに自発的に起こるようになっていたのです。つまり、音楽は何かしらの「体を動かす」という情報を持っているんです。そして、子どもがその情報を受け取る性質は家庭環境には依存しないということが分かりました。

 

(フレッシュなまなざしで取材に挑むメンバー)

 

 

研究を行う上で心がけていることは何ですか?

 

心がけていることは、リサーチクエスチョンが何なのかによって使う道具、調査方法を変えるということです。つまり“カナヅチ症候群”にならないようにすることですね。カナヅチを持っていると、あるいはカナヅチしか持っていないと、カナヅチで叩けるものにしか目を向けなくなる。だけど研究を行う上では、時にカナヅチじゃなくて、ノコギリが必要だったりするわけ。

 

(Not only カナヅチ!!)

 

 

これからどのような研究を行っていきたいですか?

 

今まで音楽や心理学に関する様々な研究や調査を行ってきました。今後は、得られたデータの中でも眠っているデータに光を当てて分析して、世の中に向けて発表したいと思っています。つまり“アウトプット”です。データを世の中に出すことで、私自身が気づかなかったことに誰かが気づいて、次のステージにつなげてくれる可能性も生まれますし。また、学生を指導している間は、引き続き学生の研究を支援していくつもりです。学生の研究内容も世の中に発表できたら良いですよね。

 

私は学生にカナヅチだけを与えるということはしません!

 

(左は、2008年8月に北海道大学で開催された第10回国際音楽知覚認知会議(ICMPC10)において“AIRS”(Advancing Interdisciplinary Research in Singing)という歌唱に関する国際共同研究のワークショップで発表する安達先生。

右は、上記のICMPC10をオーガナイズした際、研究成果を一般の人にもアウトリーチするために、研究発表をモエレ沼公園内のガラスのピラミッドで行ったときの様子。音楽的発達研究のトップランナーによる一般向けのフォーラムも開催)

 

 

取材・執筆を終えて

 

音楽がどのような影響をもたらすのか、あるいは私たちがどのように音楽に接しているのか、この他にも心理学を用いて様々な観点から、音楽と私たちの関係に迫る安達先生のお話からは、音楽への愛や多くの人に音楽にふれてほしいという願いがあるように感じました。また、「カナヅチ症候群に陥らないようにすべき」ということは、私たちが今後学習や研究を行う上で、最も重要な点の1つであると思いました。

 

この記事を読んだ多くの人が、「どんなときによく音楽を聴くだろう?」「初心者でもピアノを弾けるの!?」というように、音楽と私たちの関係性に一層興味を抱いてくださると幸いです。

 

(北海道大学 人文・社会科学総合教育研究棟前にて)

 

 

※ ※ ※ ※ ※

この記事は、杉中美友さん(法学部1年)、高橋昌弘さん(総合文系1年)、益子真明さん(医学部1年)が、全学教育科目「北海道大学の“今”を知る」の履修を通して制作した成果物です。


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