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#12 斎藤歩さん(俳優・演出家・劇作家)

2014年01月24日

幅広い役柄でドラマや映画に出演されている斎藤歩さんは、北海道大学演劇研究会を経て、1987年に劇団「魴鮄舎(ほうぼうしゃ)」を立ち上げました。以来、札幌と東京に拠点を構えながら、俳優・演出家・劇作家として活躍されています。現在は、札幌座チーフディレクターとして劇団の運営にも尽力し、「札幌演劇シーズン2014-冬」の公演作品の一つである「西線11条のアリア」の演出も担当。公開前の記者会見で札幌を訪れていた斎藤さんにお話を聞きました。

 

 

北大への進学を決めたきっかけを教えてください。

 

生まれは釧路ですが、父の転勤ですぐに本州に引っ越しました。しかし父が北大出身だったこともあり、低温研に憧れたり、南極越冬隊員になりたいと夢みたりしていて、割と自然に北大への入学を決めました。入学式での有江幹男学長の言葉は今でも鮮明に覚えています。このような内容でした。

 

“Boys, be ambitious!”は有名ですが、実はクラーク先生が残した言葉の中にもう一つ大事なメッセージがあります。当時の学生たちがクラーク先生に、学内の規約をつくりたいと相談したとき、クラーク先生は「そんなものは必要ない。“Be gentleman”(紳士であれ)の一言で十分だ」と伝えたそうです。

 

 

自分に責任をもって社会人として学生生活を送りなさいというメッセージですが、自由でありながらも自分への厳しさが求められています。自主自立の精神こそ北大らしさなのだと感じましたし、以来何度も”Be gentleman” と自分に言い聞かせながら生きてきたような気がします。僕らが学生の頃はちょうどバブルの絶頂期。たまに関東の実家に帰省すると、華やかでちょっと浮かれた若者たちがたくさんいました。しかし、北大の同級生たちはバンカラで野太く生きようとしていました。そんな「北大らしさ」が僕の性に合っていたのでしょう。

 

 

大学で演劇の世界に目覚めたそうですね。

 

大学では大切な友人・仲間との出会いがありました。その仲間の影響をうけて演劇を始めたのです。それが北大演劇研究会の始まりでした。当時から北大の校風は大らかで、教室を借りて稽古をしたり、教養S棟の脇にあった広場にテントを張って公演をしたりしていました。今ふり返ると、結構自由に演劇をつくっていましたね。しかし、演劇にのめり込んでしまったせいで、当時の教養部2年生を3回繰り返しました。結局3年半で大学を中退することになります。親にも周囲にも反対されたし、僕自身も悩みましたが、一方で「演劇」という生きる目的がはっきりしたので、自分が信じた道をまっすぐに進もうと決意したのです。後戻りができない選択でした。

 

 

僕は大学を中退しましたが、依然としてつきあう仲間は北大生たちでした。1987年、その仲間たちと劇団「魴鮄舎」を立ち上げました。恵迪寮の裏に「新川」という小さな川が流れていて、その辺りに古い倉庫が建っていました。その倉庫を「劇場」に作りかえたのです。電源や水道を引いたり、消防に申請したり、ゼロから作り上げた僕たちの「城」でした。大学卒業と同時に就職して、芝居から足を洗った仲間もいましたが、僕はしばらく魴鮄舎の活動を続けながら芝居の経験を積んでいきました。だから北大には感謝しています。北大に入学していなかったら、今の仕事はしていなかったし、魴鮄舎で共に過ごした仲間たちに出会うこともなかったでしょう。学生時代に共に芝居に没頭し、その後進んだ道はバラバラでも、それぞれ「紳士的な」責任で社会と落とし前をつけながら生きている大切な同志です。

 

 

若い世代・後輩たちへのメッセージをいただけませんか。

 

最近、現役北大生たちが劇団の稽古場に来てくれることがあります。みんなしっかりしているなぁと感心しています。若者らしい新鮮な感覚を持ちながらも、意外と現実的な常識も持ち合わせています。当時の僕なんかは好き放題やってたし、非現実的なことばかり考えていたかもしれませんね。もちろん時代の影響もあったはずです。「そんなに現実的ではつまらないよ。」と言葉にしたくなることもありますが、だまって彼らを見守るだけです。僕自身が、上の世代の「今のやつらは…」と憂うような言葉を全く信用していなかったからです。建学精神や寮歌で歌い継がれていた精神を根っこに置きながらも、自分たちが新しい時代を作っていこう、自分が感じたことに忠実に生きようとしてきました。だから僕も若い世代にちょっかいを出す気はありません。アドバイスもありません。クラーク先生が”Be gentleman”と言ったのだから、僕も紳士として若い人たちと静かに付き合うだけでいいのです。

 

(教育文化会館の舞台を事前にチェックし本番に備えます)

 

 

北海道大学への期待もあるそうですね。

 

僕自身あまり意識していなかったのですが、仲間たちから「斎藤は理系的な思考で、文学を分析するタイプ」とか「斎藤の芝居は理系的ロジックで展開されて独特だ」と言われることがあります。確かに、僕の作品の中には数学の話や天文学の話がでてきます。高校の時から理系を目指していたせいもありますが、今でも自然科学や研究の世界には関心を持っています。プロフェッショナルとしての学問も大切ですが、アマチュアなりに学問へ関心を持ち続けることに価値があると考えています。アマチュアだからこその発見、気づき、考えがあるはずで、その感覚を、作品づくりに生かしたい。そんなふうに知的好奇心が触発される種が、大学周辺にはたくさんあります。大学で専門家が研究し、社会にしっかり発信してくれて、僕らが関心をもって見つめる。北海道の文化を醸成していくためにも、北海道大学には大きな役割があるのではないでしょうか。

 

 

札幌を拠点にして、精力的に活動していますね。

 

東日本大震災のあった2011年、芝居に関心のある仲間たちと集まって、若手の演劇人がのびのびと活躍できる街づくりができないだろうかと議論しました。そして「演劇想像都市札幌実現プロジェクト」を立ち上げたのです。今、札幌の演じ手たちは、アルバイトをしながら手弁当で活動をしています。演劇だけでは生活できないのです。


(舞台の平面図を確認しながら、キャスト・スタッフのみなさんとサイズを測ります)

 

しかし、劇場文化は市民生活に潤いと活気を与え、観光面でももっと大きな貢献ができるはずです。このプロジェクトがスタートして2年が過ぎ、少しずつですが、劇場という「作り手と観客が一体となる空間」が、札幌に根付いてきたという実感があります。ヨーロッパのレベルを目指して、社会として支える体制をさらに整えていくべきでしょう。それは、190万人の人口を抱える政令指定都市「札幌」が果たすべき文化的役割です。そして若い劇団員にも、文化レベルの高い成熟したまちを支えているという自負・プライドを持って、作品を世に残していってほしいと希望しています。

 

 

最後に2月8日から始まる舞台『西線11条のアリア』を紹介していただけますか。

 

札幌の冬の路面電車を『銀河鉄道の夜』に見立てた作品です。バッハのG線上のアリアを編曲して創作が始まりました。冬空の中、市電「西線11条駅」に時刻表通りに電車がやってきて、そこに人々が集まり、食事をして、またどこかに去っていく…そんな不思議な出会いと旅立ちを描いたファンタジーです。2005年に東京で初演して以来何度も上演してきました。

公演日程:2月8日(土)~9日(日)・11日(火・祝)~15日(土)

 

また、1月18日から始まっている札幌演劇シーズン2014では、他にも3つの作品が上演されます。札幌で生まれ、世界に羽ばたくかもしれない名作をぜひご堪能ください。

 

((4作品の演出家たち。左から『不知火の燃ゆ』戸塚直人さん(座・れら)、『西線11条のアリア』斎藤歩さん(札幌座)、『ダニーと紺碧の海』橋口幸絵さん(札幌座・劇団千年王國)、『言祝ぎ』イトウワカナさん(intro))
 

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