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#26 寒さの刺激で肥満予防、道拓く

2013年11月29日

 

世界的に問題になっている肥満やメタボリック・シンドローム。その予防や治療法を考えるうえで、今回の研究成果が大きな一歩になるといいます。いったい、どんな実験を行ない、なにがわかったのでしょうか。米代武司さん(医学研究科 学術振興会特別研究員)に話をうかがいます。

 


どんな実験をしたのですか

いちばん中心となる実験は、次のようなものです。22人を対象に体脂肪を測ります。その後、22人を無作為に2つのグループに分け、12人には、1日に2時間、室温17℃の所でじっとして過ごすことを、6週間にわたって毎日続けてもらいました。この継続的な寒冷刺激により体脂肪がどれだけ変化するか、それを知るため残りの10人には 同じ6週間を普通に過ごしてもらい、対照群としました。そして6週間後、再び22人の体脂肪を測ります。

体脂肪の変化量をそれぞれのグループで平均してみると、グラフのようになりました。寒冷刺激を受けない人たちはほとんど変化しなかったのに対し、継続的な寒冷刺激を受けた人たちでは体脂肪が0.7kgほど減少しました。

 

(米代さん提供のデータをもとに作成)



どうして減ったのですか

ほ乳動物の脂肪細胞には、白色脂肪細胞のほかに褐色脂肪細胞があります。この褐色脂肪細胞が、鍵を握っています。
白色脂肪細胞は、中性脂肪という形でエネルギーを蓄え、必要となればそれを分解してエネルギーを供給するもので、皮下や内臓の周囲など、全身にくまなく存在します。白色脂肪でできた組織は、名前とはちょっと違って、黄色っぽく見えます。それに対し褐色脂肪でできた組織は、文字どおり褐色に見えます。こちらは、白色脂肪細胞とは逆に、脂肪を分解・燃焼させて熱を発生させます。ですから、褐色脂肪組織の働きが活発になり、また細胞の数も増えれば、体脂肪が減ると予想されます。

実際に実験でも、寒冷刺激を与えた6週間の間に褐色脂肪組織の働きがよくなった人ほど、体脂肪の減りぐあいが大きいという傾向がはっきり出ました。また、エネルギー消費の能力も高まるという傾向が、別の実験で確かめられました。

 

(米代さん提供のデータをもとに作成)



褐色脂肪組織の在りかや働きぐあいを、どうやって調べるのですか
むかしは、身体から組織を切り取って調べるしか方法がなかったのですが、最近では、ある薬剤を使ったPET(ポジトロン断層法)にCTを組み合わせた画像診断法で、身体を傷つけることなく調べることができるようになりました。

 


(左図の鎖骨や脊椎のあたりが褐色脂肪組織。右図ではその場所に褐色脂肪組織がありません。写真提供:米代さん)

 


FDG-PET/CTというこの画像診断法は、がん検査のために使われるようになったものです。使っているうち、がんが在るとは思えない場所に像が検出されたり、しかも左右対称に像が検出されるといったことがきっかけで、ヒトの成人にも褐色脂肪組織がある、ということがわかってきました。

赤ちゃんに多くの褐色脂肪組織があることはわかっていました。生まれると胎内にいるときよりも低温にさらされるので、褐色脂肪細胞が脂肪を燃焼させ、体温を維持しようとするのです。でも、大人になるにつれ褐色脂肪組織は失われていき、あったとしてもごくわずか、と考えられていたのです。

今回の研究は、継続的な寒冷刺激を与えることで褐色脂肪組織が増えるし働きもよくなり、エネルギー消費能力が高まり、そして体脂肪も減ることを、実験動物ではなくヒトで、世界で初めて実証したのです。

 


肥満解消の切り札になりますか

インターネットなどに、「褐色脂肪を活性化させてダイエット」などを謳う情報がありますが、実験的な裏づけがあるとは思えません。

今回の実験で、たしかに継続的な寒冷刺激により体脂肪が減りました。でも減った量は、わずか0.7kg. そのための寒冷刺激は、1日に2時間、室温17℃の所でじっと過ごすことを、6週間つづけるというものです。私も被験者として体験しましたが、とってもハードでした。

そこで、「褐色脂肪細胞を増やし、活性化させる」というメカニズムを、継続的な寒冷刺激でスイッチ・オンにするのでなく、別の刺激で代替することが考えられます。私たちは、辛味の少ないトウガラシで辛味の主成分になっている「カプシノイド」という化学物質を、毎日、6週間にわたって摂取する、という実験をしました。その結果、褐色脂肪組織によるエネルギー消費能力が向上するなど、寒冷刺激とほぼ同等の効果があることが確認できました。

「トウガラシを食べるとダイエットになる」とよく言われます。確かにトウガラシには脂肪の燃焼を高めるカプサイシンが含まれます。でも辛いので少量しか食べられず、なかなか体脂肪が減るところまではいきません。私たちの考えている方法は、辛さがカプサイシンの1/1000しかない「カプシノイド」に着目し、これを十分な量 摂取することで褐色脂肪組織を増やし肥満防止につなげる、というものです。


肥満の予防には、食べすぎないこと、運動をすることなどが、もっとも効果的です。でも、褐色脂肪に着目した方法も、第3の方法として可能性を秘めていると思います。

 

 

 

こうした研究に取り組むようになったきっかけは

もともと、札幌にある天使大学で栄養学を学んでいました。栄養士として学校などで働きたいと思っていたのです。ところが卒業研究をするうち、研究が面白くなり、大学院の修士課程に進学しました。

斉藤昌之先生との出会いも、大きいです。斉藤先生は北大の獣医学部で、褐色脂肪組織をテーマにした研究を実験動物で永年にわたって続け、2006年から天使大学に移ってこられました。

その後 私は、大学院の博士課程に進みたいと思い、北大医学部の岩永先生の研究室に来ました。ずっと栄養学を学んできたので、はじめは顕微鏡の焦点の合わせ方も知らないで、先輩や先生から手取り足取り教えてもらいました。今回の研究も、岩永先生と斉藤先生の指導のもとで行なったものです。


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