フレッシュアイズ


#6 鳥のラブソングを読み解く 相馬雅代さん

2013年08月05日

 

鳥たちは、鳴いたりダンスしたりすることで、どのようにコミュニケーションしているのだろう? それらの行動はどのように進化してきたのだろう? 相馬先生は、こうした問題の解明に取り組んでいます。そして、コミュニケーション行動のなかでも、特に発声学習(耳から聴いた音を学習して自分でも発することができるようになる)の能力に注目しているそうです。

 

 

 

鳥は、誰の声をきいて発声を学ぶのですか?

 

聞いて学べるのは、「臨界期」とか「感受性期」と呼ばれる、ある限られた時期です。人間では赤ちゃんの時が感受性期で、大人になってからよりもずっと速く、言葉を覚えることができます。鳥の場合は、この「感受性期」が人間より、もっと厳しく決まっています。ただ、どの時期が感受性期かは鳥の種類によって違います。

 

親から独立せずにエサをもらったりしている時期と感受性期とが重なっている鳥だと、親から発声を学びます。私が研究に使っているスズメの仲間は、このタイプです。でも、自分で飛び回ることができる時期まで感受性期が延びている鳥だと、自分の親以外からも学びます。

 

聞いて学ぶ「感覚学習期」のあとに、「運動学習期」が来ます。わけのわからない音しか出せない段階から、言おうとしていることが明瞭になってくる時期です。この2つの学習期は、鳥の場合、発達段階だけでなく季節によっても制御されている場合が多いです。特定の季節に繁殖することと関係しているのです。

 

(実験室で飼われている文鳥)

 

 

もし親から隔離されたら、どうやって学ぶのですか?

 

隣の研究室の和多先生が詳しく研究しているのですが、何か「さえずりらしきもの」を発するようになります。また、シジュウカラとアオガラという、ともにスズメの仲間の鳥で、雛を入れ替えて育てるという、ヨーロッパで行なわれた実験では、自分と違った鳥の発声を学ぶことも確かめられています。

 

ニワトリのひよこは、生まれてすぐに歩くことができ、エサを食べるために親の後について行かなければなりません。ですので、自分の親を早くに認識します。このような「早成性」の鳥に対し、巣の中に長い間とどまって“エサくれ、エサくれ”といっている「晩成性」の鳥は、ゆっくりと自分の親を認識できるようになればいいわけです。こうした晩成性の鳥で、雛を別の親鳥のもとに置くと、その里親を自分の親と認識し、さえずりも里親のものになります。

 

ただし、何でも経験を通して獲得できるかというとそうではなく、「学習のベース」みたいなものが生得的にあって、それに沿ってしか学ぶことができないと考えられています。

 

 

 

鳴き方は、国によって違うのですか?

 

違いますね。地域による変異の一つは、遺伝的に隔離されてしまったために起きている変異です。でも発声の学習は、個体から個体へ学習を介して伝わるもの、文化のようなものですから、遺伝を介さないでも地域差が出てきます。ちょうど人間の方言のようなものです。カラスでも、東京のカラスと札幌のカラスは鳴き方が違うと言われています。

 

鳴き方ではないのですが、どういうふうに道具を使うかという、道具使用行動にも文化、地域差があります。チンパンジーでよく知られていますね。

 

カラスの「くるみ割り」にも地域差があります。東北のカラスについて詳しく調べられていて、仙台の自動車学校で、あるカラスが、走ってくる自動車の前にクルミを置いて、踏みつけてもらって割ったのが始まりなんです。それをほかのカラスが見て真似をし、次第に東北全体に、円状に広がっていったのです。カラスが「くるみ割り」をしない地域もいっぱいありますので、これなど、学習を介して作られる「文化」に、地域差があるという例の一つでしょうね。

 

 

 

その地域差は、お互いに何とか意思疎通できる程度のものですか?

 

ほんとのところは、鳥たちに聞いてみないとわからないです。でも、生得的な縛りがどれほど強いかに関係していると思います。

 

たとえばウグイスは、個体差があるし地域差もあると思うけど、「ホーホケキョ」からまったく逸脱して「ホーホー」と鳴くようなことはないですよね。だから、鳴き声についての生得的な縛りがある程度あって、学習はその枠内で修飾を加えているだけだと思うのです。この場合は、個体間や地域間のばらつきがそれほど大きくないので、違う「方言」の鳥どうしでも意思疎通を図れると思います。

 

逆に生得的な縛りが弱い場合には、ばらつきが大きくなるでしょうから、お互いに理解できない「方言」になってしまうかもしれません。自分と同じ種だとも認識できなくなるでしょうから、種の分化へと至るでしょうね。

 

(研究室では、たくさんの鳥たちを飼っています)

 

 

北海道大学の研究環境は、いかがですか

 

ずっと関東に住んでいて、北海道大学に来てまだ3年です。その限りでの感想ですが、北大の学生さんには、北海道の自然が好きで来ている人が多いのか、広い意味での生物学に興味をもっている人が多いように思います。とても嬉しいことです。

 

それに、広くていいですね。外の圃場にビニールハウスみたいな小屋を作って、そこで鳥を飼うことも、やろうと思えばできます。夏しかできないですけど。

 

(取材した辻村祐香さん(左)、相馬雅代さんと記念撮影。右端は取材に同行した村上遼さん)

 

この記事は、全学教育科目「北海道大学の今を知る」を受講した、辻村祐香さん(医学部保健学科1年生)の作品です。

 


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