フレッシュアイズ


#3 工学部で薬の研究をする、大利徹さん

2013年07月24日

 

大利徹さん(工学研究院 教授)は、工学部のイメージと大きく違う、どちらかといえば農学部や薬学部のような研究を行っています。微生物を使って薬を作るという研究です。

 

 

 

工学部なのに、薬の研究をしていらっしゃるのですか?

 

薬というとやはり薬学部や医学部が強いのですが、彼らを支援する形で、創薬に直結する応用的な研究と、その基礎になる研究の両方をしています。いずれも微生物が関係します。

 

まず、応用的な研究から話しましょう。いま使われている薬の6~7割は、微生物が作り出す複雑な化合物をもとにして作られています。でも、微生物が作る量はとても少ないので、薬の製造に必要な量を満たすのがたいへんです。

 

そこで工学部の出番です。土壌の中からとってきた微生物に、代謝工学という手法を適用し、薬の原料を、大量に、しかも安く作ることができるようにします。微生物が使っている酵素触媒や、その設計図となるDNAを詳しく解析し、それらを改変したり組み合わせたりするのです。

 

(ノートには、複雑な反応がびっしりと書き込んであります)

 

 

生き物の体の中では、様々な化学反応が起きています。そうした化学反応では酵素(タンパク質)が触媒の働きをしており、それを「酵素触媒」と言います。ところがこの酵素触媒は、熱に弱い。

 

でも海底火山などには、温度が100度近いところで生きている微生物がいます。そうした微生物がもっている酵素触媒は熱に強く、煮ようが焼こうが、その働き(活性)を失いません。これを利用することができれば好都合です。しかも、その微生物そのものを培養して増やす必要はありません。DNAのかけらから、その酵素触媒を人工的に増やすことができるのです。

 

 

今までは、人間が人工的に増やすことのできる微生物がもっぱら研究されてきました。大腸菌や、納豆菌、パン酵母、麹菌などです。そのほかは、結核菌やコレラ菌など病原菌でしょうか。でもそのほかに、まだ知られていない膨大な微生物がいるのです。土壌1グラムの中には、1億ほどの微生物がいるとも言われています。これら宝の山を利用しない手はありません。

 

たとえば、こんな例があります。土壌中に、薬の原料になりそうな化学物質がありました。それをAとしましょう。調べてみると、Aは微生物が関与する一連のプロセスを経て作り出されているのですが、Aより前に作られている物質Bのほうが、Aよりもっと有用であることがわかりました。そこで私は、Bができたところで反応を止める方法を見つけました。こうすることで、化学合成で生産するよりはるかに効率的に、化学物質Bを生産できるようになりました。

 

(学生さんたちに実験室を案内してもらいました。いろいろな微生物が冷凍庫などに保存されています(左と中央の写真)。インドネシアからの留学生も実験中でした(右))

 

 

基礎的な研究のほうは?

 

今から30年前、僕が学生のころ、博士課程の大学院生が3年間かけて1000個の塩基配列を調べると、それで博士の学位がもらえる、という時代でした。それほど大変な作業だったのです。それが5年ほど前、画期的な技術が開発されて、400万の塩基配列を調べることも、原理的には2日か3日でできるようになりました。費用も、5年ほど前までは1000万円ほどかかっていたのが、1年ごとにほぼ半額となり、今では30万円ほどでできます。

 

こうして、僕らでも容易にゲノムを決めることができるようになりました。すると何ができるか。乳酸菌など有用な微生物の設計図(DNAの塩基配列)と、病原菌の設計図とを比較することができます。バイオ・インフォマティックス(生物情報工学)という分野が進歩したこともあって、普通のパソコンを使って、塩基配列のわずかな違いを、高速に調べることができるのです。

 

その比較をもとに、病原菌にしかない、そして病原菌が生きていくのに無くてはならない代謝経路を、止めてしまうような化学物質を探します。僕は今、ピロリ菌について調べているのですが、この方法でピロリ菌の特効薬を見つけることができるはずです。

 

このような、病原菌にしかない経路を見つけるという研究は、人とお金をつぎ込んでも見つかるとは限らないので、リスキーな研究です。でも、重要な基礎研究です。

 

(実験室の様子)

 

 

どうして微生物に着目したのですか?

 

研究できる微生物が無限にいるからです。たとえば大腸菌でも、約4000ある遺伝子のうち、2000ほどしか機能がわかっていない。残りの半分は機能がわかっていないんです。しかも土壌には、1gあたり約1億の微生物がいます。研究の余地が、まだまだあります。

 

もう一つ、簡単な理由があります。僕、血がだめなんですよ。血を出す生物はだめなので微生物にしました。それに、有機化学と生化学の両方が好きなんですが、微生物はいろんな化合物を作ってくれるから、両方の希望を満たせるかなと思いました。

 

名古屋大学の農学部と大学院修士課程で学んだ後、会社に勤めてから、大学に戻りました。基礎研究をやりたかったからです。研究費は企業のほうが潤沢だけど、うまく研究が回れば、微生物が相手なので大学でも何とかなります。会社は、応用研究に関するノルマが厳しいんです。給料を考えたら企業のほうがいいけど、大学では好きなことができるので、それでいいかなと思っています。

 

生合成の分野は、北大が強いと思いますね。いくつもの学部に優れた研究者がいらっしゃいますので、共同研究したり、外国から研究者を招いたりと、いろんなことがやりやすいです。

 

(取材した杉山利行さん(右)と、同行した田仲真実さん(左)。大利徹さんが手にするのは、2004年「住木・梅澤記念賞」の表彰楯。この賞は、抗生物質など生物活性物質に関連する優れた研究業績に与えられます。)

 

この記事は、全学教育科目「北海道大学の今を知る」を受講した、杉山利行さん(総合理系1年生)の作品です。


同じシーンの記事