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#105 クラウドファンディングに挑戦!~海中に響く知床シャチの詩を捉える~

2019年06月24日

 

北海道知床半島の東岸に位置する羅臼。その沖合、水深約400メートル。冷たく暗い海の中に浮かぶ銀色の筒。長さ1メートルに満たないその飾り気のない無骨な装置は、1年間そこにじっと留まり、水温・塩分・海流、そして音響のデータを黙々と収集してきた。今も、どこからかキューーーという甲高いシャチの鳴き声がかすかに届き、その銀色の筒、係留系内部のメモリに納められた。

 

そして……遠くからスクリューの音がする。おしょろ丸V世、北大が誇る練習船だ。係留系を回収にきたのだ。甲板では研究者たちが海原を一心に見つめているに違いない。係留系の無事を祈って…

(知床の海中にシャチの詩が響く※イメージ)<KIKU29qa/写真AC

 

皆さんの力で、このようなシーンを来年2020年6~8月頃に実現できるかもしれません。今、三谷曜子さん(北方生物圏フィールド科学センター 准教授)はクラウドファンディングで研究費を調達し、知床のシャチの謎を解明しようとしています。チャレンジは6月17日にスタートし、終了は7月31日。目標額は300万円です。知床のシャチの謎とは? 明日、第一回航海として函館を出港し、三谷さんが取り組む研究をお伝えします。

(三谷さん。水産学部附属おしょろ丸のポスターを背景に)

 

ホットスポット、知床の海

 

北海道周辺の海には数多くの海棲哺乳類がすんでいます。特に知床周辺はホットスポットと呼ばれるほどで、カマイルカ、ザトウクジラ、ナガスクジラ、クラカケアザラシ、そしてシャチなどを見ることができます。そしてもちろん、これらの生物のエサとなる魚やプランクトンも豊かに存在しています。

 

知床には300頭前後のシャチが代わる代わるに来遊することがわかっています。肉食のシャチは生態系の中で重要な位置を占めています。その生態の理解は、知床の環境を知る上でも極めて大きな意味を持っています。

(水面で遊ぶシャチ。羅臼沖で撮影)<写真提供:三谷曜子さん>

 

(ナガスクジラの群れ。羅臼沖で撮影)<写真提供:三谷曜子さん>

 

(クラカケアザラシの子ども。網走沖で撮影。背景に見えるのは知床連山)<写真提供:三谷曜子さん>

 

なぜ? 知床の西側にはいないシャチ

 

これまでの三谷さんらの研究から、不思議な点がうかびあがってきました。知床半島東岸の羅臼側、根室海峡ではシャチはよく観察されるのですが、西の網走側では見かけないのです。

 

シャチは5~6月に根室海峡に現れます。そして8月になると千島列島に沿って北上し、オホーツク海でくらします。その北限はウルップ島。距離にして約400Km以上の旅です。しかし、知床半島をまわればすぐそこにある網走側の海には、なぜかシャチたちはほとんど行きません。

(根室海峡とオホーツク海を移動して暮らすシャチ)<図提供:三谷曜子さん>

 

そもそも、なぜ春に根室海峡にシャチはやってくるのでしょうか。根室海峡は最大深度2,400メートルという急峻な海底をもち、湧き上がる海水のためにプランクトンが豊かです。そのため、シャチのエサとなる魚や海棲哺乳類も数多く生息します。また、知床半島と国後島に囲まれているため波が穏やかです。そのため、オスとメスの出会いの場、あるいは出産・子育ての場かもしれない、と三谷さんは考えています。

(シャチの群れ。小さい背びれは子どものシャチ。母親を中心に10~30匹からなる)<写真提供:三谷曜子さん>

 

しかしなぜ、網走側には行かないのでしょうか。網走側もホットスポットであることにかわりはなく、カマイルカ、ナガスクジラやアザラシ等がすんでいます。逆に、カマイルカは根室海峡側ではほとんどみられません。網走側は海底がなだらかなのですが、それ以外にも我々がまだ知らない、シャチたちだけが知っている海洋環境があるに違いありません。

((2019年の羅臼の観光船「はまなす」での調査の様子)<写真提供:三谷曜子さん>

 

海中365日の環境を係留系で探る

 

そこで三谷さんらは、羅臼沖と網走沖の海中に、海洋環境のデータを収集する係留系という装置をそれぞれ1基、1年間設置するにしました。係留系は海水の温度、塩分濃度、海流、そして音を記録します。これまで網走側では係留系を用いた調査は行われてきました。しかし、羅臼側は刺し網が多数あるため実施されていませんでした。

((組み立て前の係留系の部品)<写真提供:北方生物圏フィールド科学センター企画調整室>

 

(音響記録計。右端に見える白いネットでくるまれている部分がマイク。筒の部分にはメモリとバッテリが収められている)

<写真提供:北方生物圏フィールド科学センター企画調整室>

 

(係留系の模式図。係留系は複数の記録装置とブイなどから構成される)<図提供:三谷曜子さん>

 

 

係留系の同時設置によって、ふたつの海にどのような海洋環境の違いがあるのかを明らかにすることができます。また、本当に網走側にシャチがいないのかも確かめられます。またシャチは家族によって鳴き方が違うことがわかっています。これまでのデータをあわせて、より詳細にシャチの群れがどのように行動しているかもわかるでしょう。イルカやアザラシの鳴き声もとれるかもしれません。

 

 

クラウドファンディングと北大の総合力で知床の海に挑む

 

しかし、当初の計画よりも係留系に予算がかかってしまいました。そこで、その不足分を調達するためにクラウドファンディングに挑戦することになりました。目標金額は300万円です。リターンにはPC用壁紙画像、調査報告書、シャチ個体識別カタログ、映像、サイエンスカフェ等が支援金額に応じて設定されています(詳細は末尾のリンク先を参照)。

(調査をしている自身の写真を指差す三谷さん。リターンのサイエンスカフェでは調査の様子をじかに聞くことができます)

 

支援をうけた係留系は北大水産学部附属おしょろ丸で運ばれて、6月25日から7月4日の航海で設置される予定です(この時に設置できない場合は、後日、他の船で設置)。函館を出港し10日間の航海の間、一度網走港に寄港しますが、それ以外は洋上での調査が続きます。この調査航海に向かうのは三谷さんだけではありません。海洋物理のデータを担当する中村知裕さん(低温科学研究所 講師)、プランクトンの専門家山口篤さん(水産科学研究院 准教授)、そして魚類担当は山村織生研究室(同 准教授)の学生、海鳥担当は綿貫豊研究室(同 教授)のポスドクと学生という陣容。まさに北大の総合力を結集しての調査です。

(北の海原を行くおしょろ丸)

 

三谷さんはシャチの研究の面白さと、今回の研究への意気込みを語ります。

 

「海の環境の面白さは連続性と不均一性にあります。つながっているけど、違う。そして海流によって環境そのものが動いて行く。シャチはその環境のなかで、必要なものを求めて旅をします。海の生態系は動的なんです。私は中学生のとき、ザトウクジラがハワイからアラスカまで回遊しているのをテレビで知ったことが、今に繋がっています。彼らにとって、海の中が生活の場です。餌を食べ、繁殖するために、次にどの方向へ進んでいくかを常に意思決定しています。彼らが選んだ海がたまたま北海道の沿岸で、私たちが彼らに遭遇できるのだとしたら、海の環境が変わってしまえば出会えなくなるかもしれません。海棲哺乳類は豊かな海の象徴です。その豊かな海を将来もずっと持続的に利用したいと考えており、そのためには、長期的に環境を知ることが必要です。係留系の設置はその一環です。皆様のご支援無くしては、今後の調査を実施することが難しくなってきます。ぜひご支援をいただければと思います」

 

(おしょろ丸。朝焼けに浮かぶマストのシルエット)<写真提供:三谷曜子さん>

 

 

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三谷さんがチャレンジするクラウドファンディングが受付中です。

ぜひ応援を!

 

シャチに出会える海、知床羅臼。その謎を解く海中のヒントを探れ

期間: 2019年6月20日17時~7月31日 23時

コース: 3000円/1万円/1.5万円/2万円/3万円/5万円/10万円/30万円

目標金額: 300万円(目標金額以上が集まった場合のみ成立のAll or nothing方式)

詳細は【こちら


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