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#106 「エキノコックス」ってどんな生き物? ~感染しないために敵を知る~

2019年07月09日

 

北海道には「エキノコックス」という“ムシ”が棲んでいます。昆虫ではありません。動物のからだに棲みついて増えていく寄生虫です。普段はキツネとネズミのからだを主な住処としていますが、まれにヒトの体内に入り込み、約10年間の潜伏期間を経て重い肝機能障害等を引き起こす風土病の原因となります。治療が難しいため、キツネからうつる寄生虫として北海道では古くから恐れられてきました。住宅地に出没する野生動物のニュースが頻繁に世間を騒がせているいま、私たちはどのようにしてこのエキノコックスへの感染から身を守ればよいのでしょうか。

 

2019年8月4日に開催される第108回サイエンス・カフェ札幌では、エキノコックスをはじめとする寄生虫や、動物とヒトの両方に感染する人獣共通感染症の疫学を専門とする野中成晃さん(獣医学研究院教授)をお招きし、感染予防法や生物としてのエキノコックスの生態についてお話しいただきます。

 

 


エキノコックスとはどんな生き物なのでしょう?

 

エキノコックスは、扁形動物門に属する動物です。プラナリアとかサナダムシと同じくくりです。北海道では比較的よく耳にする名前の寄生虫だと思いますが、本州では必ずしもそうではありません。日本では北海道にのみ生息する寄生虫ということになっています。

 


キツネのからだの中に寄生しているのですよね?

 

はい。主にキツネの小腸に食いついて養分を吸い取って生きています。ただ、それはエキノコックスが成虫になってからの話です。幼虫の間は主にネズミの肝臓に寄生します。その感染ネズミをキツネが捕食すると、今度はキツネの小腸に移動して成虫にまで成長し、卵を排出し始めます。成虫から生み出された卵(虫卵)はキツネのフンとともに野外に排出されて、今度はネズミがその虫卵を食べ、虫卵内の幼虫が小腸から肝臓に移動して寄生する…というサイクルです。

 

(エキノコックスのライフサイクル)

<Ikeda. et al. 2014を一部改変>

 


ネズミにも感染するのですね。では、キツネからだけでなく、ネズミからヒトへも感染するのでしょうか?

 

しません。ヒトが感染ネズミを例え丸ごと生で食べたとしても、ヒトには感染しません。不思議なことに、エキノコックスはネズミの体内では卵→包虫(ネズミの体内で育つ幼虫)、キツネの体内では包虫→成虫(虫卵含む)といったふうに、寄生先の動物、つまり「宿主」によって成長段階を分けているんです。ネズミを「中間宿主」、キツネを「終宿主」と呼び、ヒトも、ネズミと同じ中間宿主に相当します。ですからヒトの場合は、ネズミと同じく虫卵をなんらかの形で摂取すると肝臓で包虫まで育ち、ヒトが他の動物に捕食されるまでエキノコックスの生活環は止まったままになります。ですが、ヒトはなかなか他の動物に食われることはありません。ヒトはエキノコックスにとってあまり良い宿主ではないので、ネズミと比べて包虫はかなりゆっくりと発育します。ですから、何年もかけてそのヒトの肝臓でエキノコックスが幼虫のまま成長し続けるのです。

 


エキノコックスにとっては、ヒトに寄生することは生存戦略としては失敗なのですね。

 

そういうことになりますね。食う・食われるの関係のサイクルにはまらないと、エキノコックスは次世代を残すことができません。

 


肝臓に寄生されたら、ヒトはどうなるのでしょうか?

 

早期に発見できた場合は、エキノコックスの成長を阻害する薬で治療が可能な場合があるのですが、特攻薬はありません。したがって、寄生された部分を手術で摘出する以外に治療法はありません。しかし、自覚症状が出るころにはかなり成長・増殖していますから、手術ができないケースも多いのです。北海道では毎年、新たに20名ほどの患者が報告されています。

 


治療が難しいとなると、予防しか手はありませんね。

 

はい。ヒトはエキノコックスの虫卵を摂取することで感染します。それで「キツネに触ってはいけない」「沢の水は飲んではいけない」と言われるのです。

 

 

 

 

直接エキノコックスを攻撃する方法はないのでしょうか?キツネの駆除は効果ありませんか?

 

キツネの駆除は根本的な解決にはなりません。駆除しても、またすぐよそからやってくるためです。感染キツネがやってきてしまうかもしれないし、ネズミを食べて新たに感染してしまっては、またふりだしです。


代わりに、別な手があります。根絶するのは簡単ではありませんが、私たちが住むエリア限定でエキノコックスを駆虫する方法があります。駆虫薬入りのエサ(ベイト)を撒く「ベイト散布」という方法です。小清水町や小樽市で実験を重ねて成果を確認し、現在、道内数か所の市町村で続けています。実は北海道大学構内でも、北海道立衛生研究所と協力してベイト散布実験をしているところです。

 

 

 

 

エキノコックスを予防するにも、積極的にコントロールするにも、「動物と寄生虫の関係性を知ることが一番だ」と野中さんは言います。今回のカフェでは、ベイト散布実験の詳しい方法について掘り下げます。エキノコックスを媒介するキツネやネズミ。こうした都市で共存する野生動物たちとどのように折り合いをつけるべきなのか、野中さんと一緒に考えます。

 

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野中さんがゲストのサイエンス・カフェ札幌の詳細はこちら

 

第108回サイエンス・カフェ札幌

「ムシの居所が問題だ。~エキノコックスとの付き合い方~」

 

【日 時】2019年8月4日(日) 14:30~16:00 ※14:00開場
【場 所】紀伊國屋書店札幌本店1F インナーガーデン
【聞き手】
池田 貴子/北海道大学 CoSTEP 特任助教。博士(獣医学)。専門は都市ギツネの生態学。
【主 催】
北海道大学高等教育推進機構 オープンエデュケーションセンター
科学技術コミュニケーション教育研究部門(CoSTEP・コーステップ)
【定 員】80名(申し込み不要)
【参加費】無料
【WEB】http://costep.open-ed.hokudai.ac.jp/costep/contents/article/1998/


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