クローズアップ


#66 むかわ発、日本初! 恐竜化石が示す生命の可能性

2015年12月10日

 

北大総合博物館のとある一室に「ビーッ、ビーッ」と響く音。

ここでは今、岩の塊を削って化石を取り出す、クリーニングという作業が行われています。岩の中に眠っているのは、約7200万年前に生きていたとされる恐竜の化石です。北海道むかわ町穂別で発見されたこの化石が、今、貴重な発見として注目を集めています。この化石の発見が意味するものとは、どのようなものなのでしょうか? 発掘に取り組んでいる小林快次さん(総合博物館 准教授)にお話を聞きました。

【田中泰生・農学院修士2年】

(ノジュールと呼ばれる、化石を含む岩石の塊。これを発掘現場から持ち帰り、博物館でクリーニングを行っています)

 

 

ハドロサウルス科の恐竜では日本初の全身骨格だそうですね

 

全身骨格というと、鼻先から尻尾までズラーッと続いた骨格をイメージするかと思いますが、むかわ町穂別で見つかった化石は、それにかなり近い状態のものでした。骨格全体の6~8割は発掘できるのではないかと思います。恐竜絶滅直前の白亜紀末に生きていたハドロサウルス科の恐竜化石としては兵庫県で発見されたものに次いで2例目ですが、ここまで骨が揃っているのは初めてです。これはもう、歴史的な発見です。分類や生態解明に重要な頭部の化石も見つかっていますし、発掘が進めば、むかわ町穂別の恐竜が新種であるかどうかなど、様々なことが分かってくるでしょう。

(2014年10月までに確認された部位。図はむかわ町穂別産恐竜に近縁のオロロティタンの骨格図で示したもの。その後、続々と多くの骨の発見が確認されています)<図提供:むかわ町穂別博物館>

 

 

日本で恐竜が見つかることの意義とはなんでしょう?

 

日本というのは、化石が見つかりにくい場所です。植物がたくさん生えているため、化石の見つかる地層が露出している場所が少ないからなのです。一方で、中国やモンゴルなど、アジア大陸部の内陸は砂漠地帯が多くて、植物が少ない。地層が露出している場所もたくさんあるため、恐竜の化石が比較的よく見つかります。

 

これまでのアジア恐竜の研究で、乾燥地帯や河川流域、湿潤な沼地など、環境が違えば棲んでる恐竜の種類が異なることがわかっています。しかし、海岸線に棲んでいた恐竜化石の発見は少なく、みんな内陸の恐竜ばかりで、海岸線にどんな恐竜が棲んでるのかはまだよくわかってないんです。今回のむかわ町穂別の発見は、海岸線にどのような恐竜が棲んでいたのかを知る上でもとても貴重な発見となります。

(むかわ町穂別の発掘現場。湿潤で植物の多い日本では、大陸の砂漠地帯などに比べ、恐竜化石の発見が難しい)

<写真撮影:藤田良治さん(オープンエデュケーションセンター准教授>

 

 

見つかった地層の時代も重要だといいます。どういうことでしょうか?

 

むかわ町穂別の恐竜が生きていた約7200万年前、白亜紀後期というのは、恐竜が絶滅する直前の時代なんです。恐竜が絶滅したとされるのが約6600年前ですが、そのたった600万年前。恐竜が最も繁栄していた時代とも言われていて、当時彼らは、多様な進化を遂げていました。ハドロサウルス科の恐竜は、北半球、特にアジアと北米でたくさん見つかっていますが、いっぱい種類があって、アジアと北米でそれぞれ、多様性が全然違うんです。

 

ですから、先ほどの海岸線と内陸の違いとは別に、アジアと北米間でなぜそのような多様性に違いが出てきたか、どのように違いが生まれてきたかということも大きなテーマの一つになります。例えばむかわ町穂別の恐竜がいつ、どこからやって来たかっていうのがある程度推定はできるようになるでしょう。もしかしたらアジア起源で、そのままアジアにいた恐竜かも知れないし、アジアで起源だったものが北米に渡ってでまた北米から戻ってきたかもしれません。それをこれから、解明していきたいと思っています。

(ハドロサウルス科恐竜の系統図) <図:Debivrt at Wikipedia

 

 

恐竜を研究することで、どのようなことが見えてくるのでしょうか?

 

恐竜って生き物は、今の生物には見られないような「異常」な進化をしてるんです。あんなにでっかい体になったり、ステゴサウルスみたいにでっかい骨を背中に担いだり、トリケラトプスみたいにでっかい角を頭にもったり。一見無駄にも見えるような進化が、何かの「タガ」が外れたように多くの種にまたがってすごい範囲で起こったんです。そして、どうしてそこまで進化しなきゃいけなかったか、どうしてそこまで進化できたかっていうのは、現生の動物では検証できない研究です。

 

たとえば恐竜が、陸上の脊椎動物であれだけ巨大化した理由を、今の動物を見て検証しようとしても、あんなに大きな生物って、現生にはいないからわからないですよね。そこで、生命が持っている可能性というか、どこまでの進化ができるかということを考えた時に、恐竜は良い題材になるんです。

(ハドロサウルス科の恐竜化石(レプリカ)を手に説明をする小林さん)

 

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むかわ町穂別の恐竜もまた、生命の可能性を解き明かすのに重要な知見を与えてくれるでしょう。これまでに、化石を含む岩石がおよそ6トン回収されました。この中から岩石部分を丁寧に取り除き、化石を発掘するクリーニング作業が続きます。すべてのクリーニングが終わり、真相が明らかになるのは、5年後か、10年後か、それともそれ以上か。数百万年、数千万年の生命の歴史を解き明かすには必要な時間なのかもしれません。発掘は始まったばかりです。それまで楽しみに待つことにしましょう。

 

 

----小林さんを紹介しているこちらの記事もご覧ください----

【クローズアップ】#31 恐竜が、子育てをしていた!?モンゴルで見つけた「巣のあと」が語るもの

(2014年1月28日)

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