2014年10月31日

活動報告

〈レポート 1 〉「生命に介入する科学II〜受精の前から始まる次世代コントロール 〜」第77回サイエンス・カフェ札幌が開催されました。

 

バイオテクノロジーの医療応用の進展で、妊娠初期の胎児の検査にのみならず、着床前の胚の検査や疾患予防を目的とした医療介入が可能になりつつある現状を理解したうえで、「健康とはなにか」「人の尊厳とは?」「生きるとはどういう意味なのか?」を考え、参加者全員が意見交換をする対話の場「第77回 サイエンス・カフェ札幌」が開かれました。10月19日(日)、会場となった札幌市の中心にある紀伊國屋書店インナーガーデンには、約100人の市民のみなさんが集まりました。この日のために、特別ゲストとして児玉真美さん(メディカルライター)を迎え、石井哲也さん(本学安全衛生本部特任准教授)と大津珠子(CoSTEP特任准教授)が進行を務めました。プログラムの前半は、石井さんと児玉さんからの話題提供、後半は参加者によるディスカッションで構成されました。

 

 

石井哲也さんのお話:「出生前の命」の検査と遺伝学的介入について


石井さんは生殖の科学、胎児の検査、胚の検査、さらに卵子や胚の遺伝的改変技術について解説しました。生殖に関わる医療技術は、女性の体内で生じる受精プロセスを、体外で行うことを可能にしました。体外受精や顕微授精によって受精卵を作り、順調に成長している胚を選んで子宮に移植する技術です。着床後、胚は胎児へと発達していきます。そして、意外にも受精4週目には将来卵子や精子の元となる始原生殖細胞が作られ始め、増えていくことから、胚の段階から次々世代の元もすでに生まれているといえます。そしてヒトらしい姿をした胎児に発達していきます。

 

 

このような生命の誕生プロセスを知った上で、「出生前の命」をどこまで検査し、人は次世代の健康を得るためのコントロールしたいのか?そもそも健康とは何か?石井さんは会場に問いを投げかけました。2013年には、アメリカ・フィラデルフィアで、胚の段階で、全ゲノムの解析を経た男の子が生まれています。究極の個人情報であるゲノムが、両親の同意は得たかもしれませんが、当事者である男の子の同意なく、解析されたことを意味します。さらにイギリスでは現在、「ミトコンドリア置換の解禁」という法案が審議されています。これは、卵子にあるミトコンドリアDNA異常に起因する疾患の遺伝を予防するために、患者女性の卵子と、ドナー卵子の間で核DNAを取り替え、異常なミトコンドリアを除去すること、また、夫婦の胚とドナー胚の間でのミトコンドリア置換を認めようという法律です。つまり、卵子や胚の改変です。3人の遺伝情報を受け継いだ子どもが生まれるという、非倫理的な側面もありますが、同時に「ミトコンドリア置換の解禁」が核DNAの改変を許す引き金となり、世界的に歯止めがきかなくなるのではないか?石井さんは問題提起しました。

 

 

児玉真美さんのお話:「コントロール幻想」


石井さんの話題提供を受けて登場したのが児玉真美さんです。重症心身障害を持つお子さんを育てながら出会った、「アシュリー事件」が、児玉さんの活動の原点です。この事件は、2004年にアメリカ・シアトルで起こりました。身体的にも知的にも重い障害を持つ女の子を手術して、子宮と乳房を摘出、その後大量のホルモンを投与して成長を止めようとしました。どうせ、子どもを生めないのだから、どうせ普通の社会生活を送れないのだから、子宮も乳房も身長も必要ない…。邪魔なだけなら除去してしまおうという医療行為です。

 

 

日本では大きく報道されませんでしたが、世界中で倫理論争が起こりました。この論争に関心を持った児玉さんは、「アシュリー事件」をテーマにしたブログページを開設、事件の成り行きを丁寧に追い続けてきました。さらに、世界でどのような生命を巡る倫理問題が起きているのか、調査を始めたそうです。それらの調査を経て児玉さんは「コントロール幻想」という言葉に行きつきます。私たちは、科学とテクノロジーを使って、人間の身体も能力も、命さえもいかようにもコントロールできるという「幻想」を持ち、その幻想が広がりはじめているのではないか…。それは、幻想にすぎないということに気づいてほしいと、ご自身の経験をもとにしたお話が続きます。

 

遺伝子診断も生殖補助医療も代理出産も「自己選択」「自己決定」だといいます。選択が増えると、それだけ人はハッピーになれるという考え方は、「命の選択」にも当てはまるのでしょうか?子どもを生めなかったら幸せになれない、障害のない子どもを生まないと幸せになれない、知能に問題がない子どもでなければ幸せになれない…。人生の幸せってそんな単純なことなのか?会場に集まった市民のみなさんも、静かに児玉さんの言葉に耳を傾け、お話の成り行きを固唾をのんで見守っていました。

 

 

ディスカッションタイム


休憩を挟んでカフェの後半は、参加者が主役です。8グループに分かれて、「人としての尊厳について」「胎児の検査について」「胚の検査について」「胚の改変について」意見を交わしました。

〈レポート 2 につづく〉