2015年02月25日

授業レポート

「オルタナティブな学術コミュニケーションの場としての「ニコニコ学会β」、その誕生・成長・未来」 2/7 江渡浩一郎先生の講義レポート

 

 

ついに2014年度最後の講義となりました。今回の講師は、「ニコニコ学会β」の創設者で、現在も実行委員長としてご活躍中の江渡浩一郎さん(産業技術総合研究所 主任研究員)です。「ニコニコ学会β」の活動を中心に、「研究」に関わる/関心のある多様な人々のコミュニケーションの場をどのように構想してきたのか、お話していただきました。

 

 

出発点は、共創プラットフォームの研究

 

日本科学未来館にパケット通信の仕組みについて視覚的に表現したものが常設展示されています。世に広めるにはどうしたらよいのかを考えるのが好きで、創造性の連鎖を視覚化することに興味を持って、メディアアーティストとして活動していました。その後、産業技術総合研究所に転職し、共創プラットフォームの研究、集合知ができる過程(創造性の連鎖)に興味をもち、集合知の研究を行ってきました。

 

 


新しい発想を発表する場を提供したい

 

研究とは世の中にイノベーションを起こすために行うものです。しかし、新しい発想は評価されにくいものです。そのような風潮の中で、周りの評価に関係なく研究活動しているのは誰か、そういう人たちこそ研究者なのではないかと考え、発表する場を提供したいと思うようになりました。

そこで、プロの研究者ではないけれど、個々人の興味に基づいて趣味という域を超越した研究を行っている様々な人々を発掘し、自由で創造的な研究の発表の場、コミュニケーションの場を作り上げたいと、ニコニコ学会βを立ち上げました。


対等な立場で共に科学を推進する参加モデル

 

第1回ニコニコ学会βシンポジウムは、2011年12月に開催しました。なぜこの時期だったのか。それは、東日本大震災で失った科学への信頼を取り戻すと同時に、これまで以上に科学を推進するためでした。「国民全員を科学者にする」ということがこの学会の根底の一つにあります。欠如モデルやサイエンスカフェなどの対話型モデルとは異なる対等な立場で、共に科学を推進する参加モデルがこの学会の特徴です。つまりニコニコ学会βは、ユーザー自らが科学に取り組み、それをみんながコンテンツとして楽しむユーザー参加型研究の実践なのです。


「野生の研究者」の発掘

 

学会の立ち上げには知の発掘が出発点となりますが、立ち上げたばかりの頃は、やみくもに発掘を行なう必要があると考えました。では、どんな人が発表を行ったらよいのでしょうか? 行き着いたのは、「野生の研究者」です。ニコニコ学会βでは、主に職業としてではなく自らの内発的動機で研究を進める人を「野生の研究者」と呼んでいます。ところが、野生の研究者に発表してもらうことは様々な点で非常に難しいものでした。そこで、発表したくなる環境作り、モチベーション設計を重要視して、学会の開催へ向けて準備を進めました。

 

 


ネット上で累計50万人以上が視聴するほどの規模に成長


「ニコニコ超会議」等のイベントで発表しアピールした結果、第7回までのニコニコ学会βシンポジウムの視聴は、ネット上で累計50万人を超えるほどになりました。野生の研究者が別の野生の研究者を引き込み、人と人とがつながっていく。定番コンテンツもでき、野生の研究者の成果が社会に出ていく機会も出てきました。こうした好循環で、学会は発展しています。

 

そして、当初はIT系の発表が多かったのですが、回を重ねるごとに分野が広がり、新たなコンテンツ、セッションを開拓してきました。現在は、未来を魅せる野生の研究者のマッドな発表だけでなく、プロの研究者による「研究100連発」などしっかりとしたコンテンツも配信しています。


運営は、一般の人たちによるボランティアに支えられていますが、クラウドファンディングを行っていたり、スポンサーからの収入を得ていたりと継続性のある運営が行われています。


学会を発足時、活動期限を5年間と定めました。活動期限の半分が過ぎた今、次の取組みを考える段階に来ています。

 

 

本日の講義では、受講生との質疑応答に多くの時間を割いていただきました。一般社会の方々と科学の間にイノベーションを起こすために必要な、個性的な発想や様々な行動を学ぶことができました。ニコニコ学会βは、日本にかつてあった「イノベーションを起こす土壌」の現代での再現といえるのではないでしょうか。これからどのような活動に発展していくのか注目していきたいです。
江渡先生、ありがとうございました。

 

中野佑妃子(2014年度CoSTEP選科B/北大薬学研究院博士研究員)