2019年11月20日

授業レポート

『バイオアートとは』(10/5) 高橋洋介先生の講義レポート

     

    バイオアートが社会に切り込む!

     

    勝島日向子(2019年度 本科/学生)

     

     

    トランスサイエンスについて学ぶモジュール5、2回目の講義では、急速に発達するバイオテクノロジーを背景に生まれた芸術の新たな潮流「バイオアート」について、高橋洋介さん(金沢21世紀美術館アシスタント・キュレーター)にご講演いただきました。

     

    「遺伝子組み換え生物を媒体として扱うことでしか生まれない作品意味や美学が存在するのでは?」と高橋先生。講義では<バイオアートとは何か><歴史的起源><遺伝子組み換え生物の媒体固有性><新たなる崇高とグロテスク>の4段階に分け、さまざまな作品や展示会を通し、バイオアートがどのように私たちの社会に問題提起をしているか?をご紹介いただきました。

     

    講義のタイトルスライド

     

    バイオアートとは?

    バイオアートとは、『「生きた素材」を使って芸術を表現したり、生命をテーマに芸術を表現すること』。より狭義には、『1990年代以降に登場した遺伝子組み換え技術を用いたもの』を指します。今回は特に後半の定義を用いられました。

     

    バイオアート展「2018年のフランケンシュタイン」について説明する高橋先生

     

    バイオアートはどのように社会に問題提起をしているか?

    2018年に東京・表参道で開かれたバイオアート展覧会「2018年のフランケンシュタイン-バイオアートにみる芸術と科学と社会のいま-」では、亡くなったデザイナーの皮膚を再生して作られたレザージャケット(*1)や、合成されたゴッホの左耳(*2)などの作品が展示されました。例えば前者の作品は、遺伝子工学の幹細胞技術を用い、デザイナーの髪の毛から遺伝情報を取り出し、それをもとに皮膚細胞を培養して皮革を生成し作製されています。一見すると普通の美しい革ジャケットですが、人の皮膚細胞から作られたと知ったらどう感じますか?また、その人が今は亡き伝説のデザイナーだと知ったらレザージャケットにどのような価値を感じるでしょうか。また、今回の作品製作のためアーティストはジャケットの材料であるデザイナーのDNAに対し特許を取得していますが、故人のDNAが本人のあずかり知らぬところで製品化されることは許されるのでしょうか。

    このように、バイオアートは美しくもグロテスクな作品を通し、遺伝子組み換え技術により起こりうる様々な問題について強烈に問いかけることができるツールなのだと学びました。

    他にも、サントリーの「青いバラ」(*3)のように、美のために新しい種を生み出すことに対してアーティストグループBCLが青いバラを空き地で増やしたりもとの色に戻したりして、『自然の所有権はどこにあるのか?』と問いかけた作品《Common Flowers / Flower Commons》(*4)や、初音ミクのDNAを埋め込んだ拍動する心筋細胞(*5)など、生命の創造や不死が実現可能になったことで、自然と人工の境界を問いかけた作品などをご紹介いただきました。

     

    「バイオ」アートの役割

    イノベーションは①サイエンスによって知識の生産を行い、②工学によって実用化し、③デザインして社会に落とし込み、④アートによって新しい見方を生み出す という4段階で進んでいくため、アートを通じて私たちは私たちの時代にしかない価値観を可視化することができるとのこと。

    遺伝子工学が発達し、生命の創造が可能になったことで、これまで人間を超えたもの(=自然、神)に向けらていた畏れの感情が人工物に向けられるようになり、遺伝子工学の発展がただの技術革新にとどまらず我々の倫理観を揺るがしうる現代において、人間とは何者?「生命」っていったいなに?自然と人工物の境界は何なのか?という問いは避けては通れないものです。多様な人々の価値観を可視化し、価値観が異なる者同士が一緒に問題について考える分野としてアートがあること、そして特に遺伝子組み換え生物を媒体として扱った「バイオ」アートには、その問いを強烈に問題提起する役割があるのだと学びました。

     

    イノベーションが起こる要素を説明したスライド。アートは「価値の提案、問題の発見」の役割を担う

     

    言葉を用いず、より感性に訴えかける方法で強く問題提起や意思表示を行うことができるアートは、言葉ベースで行われがちなサイエンスコミュニケーションにおいても有効な手段と感じました。特に、遺伝子組み換え技術を用いたバイオアートはサイエンステクノロジーとも直接関係するため、遺伝子工学に関するサイエンスコミュニケーションの場では強い力を持つのではないかと思いました。

     

    サイエンスコミュニケーターを目指す一人の人間として今後の遺伝子工学の発達と人間の倫理との関係について非常に考えさせられる時間でした。

     

    講義中は衝撃的な内容も多々ありましたが、終始和やかにお話いただきました。

     

    高橋先生、ありがとうございました!

     

     

     

    【作品注】

    *1 ティナ・ゴヤンク(Tina Gorjanc)《Pure Human》2017

    *2 ディムット・ストレーブ(Diemut Strebe)《Sugababe》2014

    *3 サントリー《青いバラ》2004

    *4 BCL《Common Flowers / Flower Commons》2009

    *5 BCL『Ghost in the Cell:細胞の中の幽霊』2015