2019年11月27日

活動報告

札幌クリエイティブコンペティション“NoMaps2019”出展企画「宇宙はスペースがたりない ~人工衛星をおびやかすデブリ~」を開催しました

 

CoSTEP15期 本科・メディアデザイン実習

小池隆太・川辺晃太郎・佐藤淳治・中島優花・星崎真由美

 

2019年10月20日(日)、CoSTEP15期 本科・メディアデザイン実習は札幌駅前通地下歩行空間「チ・カ・ホ」にて、バーチャルリアリティー(以下、VR)の技術を用いたサイエンスワークショップ「宇宙はスペースがたりない ~人工衛星をおびやかすデブリ~」を開催しました。本ワークショップは、宇宙利用とスペースデブリをテーマに中高生を始めとする一般の方々に宇宙について考えを深めてもらうことを目的とし、札幌クリエイティブコンベンション"NoMaps2019"(以下、NoMaps)に出展するために企画されました。

(*VRゴーグルの使用に関しては、ロケーションベースVR協会のガイドラインに沿って年齢設定しています。)

 

 

タイトルの「宇宙はスペースがたりない」とはどういうことでしょうか。その答えのヒントとなるのが、人工衛星とスペースデブリです。私たちは、地球を周回する人工衛星のおかげで、宇宙を利用したさまざまなサービスを享受することができます。その一方で、故障した人工衛星やロケットの部品などは、スペースデブリ(または宇宙ごみ)と呼ばれ、人工衛星の大きな脅威となっています。スペースデブリが増えすぎると人工衛星などに衝突する確率が高まり、運用に支障をきたす恐れがあるからです。安全に宇宙利用できる「スペース」がたりなくなりつつあるのです。

 

(スペースデブリが地球周辺を漂流するイメージ)

 

 

企画の準備期間(小池隆太)

 

「宇宙×VR」という大まかなテーマはNo Maps実行委員会側から事前に指定されていました。しかし、宇宙だけではテーマが広すぎるため、より具体的なものに絞る必要がありました。本ワークショップのメインテーマであるスペースデブリは、教員を交えた受講生どうしの議論の中で生まれました。スペースデブリをテーマにした理由は、宇宙探査や民間ロケット開発といったプラスの側面だけでなく、宇宙利用を促進することで生じる負の側面にも焦点を当てたいと考えたからです。

 

(企画内容について議論するメディアデザイン実習メンバー)

 

7月、つくばに遠征し、後述する地上局の提供をしてくださった、スタートアップ企業「ワープスペース」と打ち合わせを行いました。他にも、JAXA筑波宇宙センターや漫画「宇宙兄弟」を出版している講談社、日本オラクルなどを訪問し、宇宙や実践的な科学技術コミュニケーションについて学ぶ機会と企画作りのヒントを得ました。

 

(ワープスペース社内でのミーティングの様子)

 

(ワープスペースの関 正徳さん(左)と常間地 悟さん(右)。貸し出してくださった地上局とともに)

 

企画準備を進める中で最初に苦戦したのはタイトル決めでした。大まかなテーマは決まったものの細かい内容を詰めきれなかったため、なかなか全員が納得するような案が出て来ませんでした。タイトルが正式に決定したのは、8月の中旬でした。このタイトル決定の遅れは、結果として広報活動の遅れにつながってしまいました。限られた時間の中でアイデアをまとめていく作業はとても難しいと感じました。

 

また、8月にはNoMapsの運営に関わっていらっしゃるクリプトン・フューチャー・メディアさんに訪問し、企画のプレゼンをさせていただきました。タイトルが未定であったものの、内容に関して前向きなアドバイスを頂戴しました。

 

(クリプトン・フューチャー・メディア社内でのミーティングの様子)

 

(クリプトン・フューチャー・メディアの服部亮太さんと平野絢子さん。準備の段階から開催日当日までたいへんお世話になりました

 

 

全て初めて!だったフライヤーデザイン(星崎真由美)

 

広報目的で制作するフライヤーの最初のラフ案では、 "宇宙体験"、"人工衛星"、"スペースデブリ"といったサイエンスワークショップの全ての要素をイラストで盛り込むことでスペースデブリによる過密さと不気味さを表すことを第一に考えていました。

 

(フライヤー制作開始当初のラフ案。要素を多くすることで過密さを表現しようとしていました)

 

宇宙空間の過密な様子をどこまでシリアスに表現したらよいか、宇宙体験している参加者の中高生を宇宙飛行士に見立てたらポップになり過ぎないかと、そればかり気にかけていました。それをベースにイラストレーターを使って作成したのが初稿です。

 

頭の中のイメージを形にして分かったことは、一つひとつの人工衛星がパッと見て人工衛星であることが伝わらないこと。かわいらしくもリアルでもなく、不気味というより、内容がよく分からないだけの作品になってしまいました。「これでは人前に出せない!」と考え、思い切ってイチから作り直しました。画面に収まり切らないくらいに大きな2機の人工衛星を、鉛筆のみで描き上げています。白黒でぼんやりと浮かび上がる印象にしたので、過密さに加えて異様な雰囲気を伝えられたのではないかと感じています。初稿と第二稿がこちらです。

 

(フライヤー初稿)

 

(フライヤー第二稿)

 

また、今回はポスターではなくフライヤーだったので広報の効果を高めるため裏面も使うことにしました。難しかったのが違和感なく内容がスッと入ってくる文章表現です。言葉被りや不自然な位置にある句読点といった小さい違和感が重なると、コンテンツの価値を下げる伝わり方になります。実習メンバー全員のアイデアを参考に、音読をしながら文章を精査する作業を繰り返しました。

 

(フライヤー裏面)

 

 

実はお手軽…?地上局(川辺晃太郎)

 

地上局というものを聞いたことはあるでしょうか。今回、私たちは人工衛星からの電波を受信するための機械である地上局を、ワープスペースからお借りして使用しました。当初、地上局について理解しておらず、どのように使ったらよいのか分かっていませんでした。後で知るのですが、地上局がなかったら人工衛星は観測データを収集して受取人のいない電波を送り続けるだけの機械になってしまいます。地上局は人工衛星の相方としてとても重要な存在なのです。

 

宇宙や電波をテーマにした今回のサイエンスワークショップで、人工衛星とのコミュニケーションは大切な要素のひとつです。しかし、そもそも地上局をどこに設置するのか、設置後にうまく動いてくれない、電波が受信できない、電波を受信したけれどデータが拾えない、といった問題の連続でした。

 

(マニュアルを見ながら設置作業を行いました。地上局は北海道大学 高等教育推進機構の屋上に設置しました)

 

それでも最終的には「衛星Aがもうすぐ上空に通過するから、衛星Bはやめて衛星Aの電波を受信しよう」といった難しい操作ができるようになりました。また今回は、人工衛星「NEXUS」からの電波を受信し、そのデータを用いてメディアアートを作成しました。

 

(地上局を管理することのできる、Webアプリケーションの画面)

 

サイエンスワークショップ当日は地上局の紹介から始まりました。多少使いこなせるようになったといってもうまく動いてくれるか、直前までずっと心配でした。それでもいざ本番になると、自分の心配をよそに特段の問題なく動作し、参加者に操作を体験していただくことができました。加えて、大きな地上局が動くことで、通りすがりの方々に興味を持ってもらえました。

 

(展示中の地上局)

 

(地上局の解説)

 

(来場者と対話しながら解説を行いました)

 

 

予想外の反応の連続(川辺晃太郎)

 

地上局意外の展示物として、手作りのジオラマとポスターを用意しました。これらは地上局の説明やVR体験を補足する目的で制作しました。まずはジオラマです。ペーパークラフトの人工衛星を使って、どの衛星がどんな情報を収集していて、その情報はどんなことに使われているのかを表現するために用意しました。ペーパークラフトは実習メンバーに加え、川辺の研究室の人たちも手伝ってくれました(クレジットを書きたいレベルでした)。土台部分は発泡スチロールで山、海、市街地、畑作地帯を作って、針金でペーパークラフトを立てています。

 

(人工衛星とその利用法を示したジオラマ。奥の山は手稲山です)

 

地上局や人工衛星について解説する際に使ったところ、ペーパークラフトに興味を示す参加者が多く、「これなんか違うよ」「自分も作ったことがあるんですけど、ここ手を抜きました?」といった声をかけてくれる方がいらっしゃいました。意外と多くの方が人工衛星のペーパークラフトを作っていることに驚きました。

 

制作している間、何を伝えるか、なぜ伝えるのか、どういう形で伝えるのかといったことを考え、装飾としての意味合いも持たせるのであれば楽しげのあるものにしたいと思ったりもしましたが、ペーパークラフトに注目する人が多いことまでは想定できませんでした。あらためて参加者側の受け取り方を予想するのは難しいと感じました。

 

ポスターは地上局、人工衛星、スペースデブリの3つのトピックについて、より深く掘り下げた内容を伝える目的で制作しました。サイエンスワークショップで感じた疑問をポスターの言葉を通じて思い出すきっかけにしている方(その後、質問攻めにされました)、じっくり内容を読む方、つまみ食い的にチラッと遠目に読んでいく方などがいて、ポスター展示の意味合いは人によって変わるのではないかと感じました。同時に、視覚的にわかりやすい内容にすることはとても重要なのではないかと思いました。

 

(地上局に関するポスター)

 

(人工衛星に関するポスター)

 

(スペースデブリに関するポスター前編)

 

(スペースデブリに関するポスター後編)

 

 

VRで人工衛星の世界を体験(小池隆太)

 

VRはスマートフォンのブラウザを通して、VR用のコンテンツをアップロードしたURLにアクセスし、VRゴーグルを使って立体視しながら見る形を取りました。この仕組みをWebVRといいます。WebVRの利点はインターネットにさえ接続できればすぐに楽しめるところです。

 

(サイエンスワークショップで使用したスマートフォンとVRゴーグル)

 

VRコンテンツはA-Frameと呼ばれるJavaScriptのライブラリとスペーストラックで公開されている二行軌道要素のデータを使用して制作しました。スペーストラックのデータは米国航空宇宙局(NASA)などが使用していて、ある時刻の人工衛星やデブリの位置を正確に表すことができます。このデータをVR空間内にプラネタリウムのように表示させました。また、一部の人工衛星に視線カーソルを合わせると、その人工衛星に関係する写真と説明がポップアップで表示される仕掛けも組み込みました。

 

(VRゴーグルの内容を大型スクリーンで解説)

 

VRを体験する時間には、子どもだけでなく大人の方々も夢中になっている様子が見受けられました。前後の展示や解説などと組み合わせた一連のコンテンツとして、十分な役割を持たせることができたと感じています。この経験は制作過程と当日の参加者の様子を見ながら場の状況に応じて手持ちのツールを最大限活かすためにはどうすればよいのかを深く考えさせられただけでなく、専門家と一般市民の間に立つ科学技術コミュニケーターにとって必要な視点であるとも思いました。

 

(VRを体験する参加者)

 

(対象年齢以下の子どもは非立体視のVRゴーグルで体験してもらいました)

 

 

大型スクリーン前での解説(小池隆太)

 

VRを通して人工衛星の世界を見てもらった後は、本ワークショップのメインテーマであるスペースデブリに関する解説を行いました。最初は人工衛星と同じようにVR空間内に表示したスペースデブリを大型スクリーンで見てもらい、後述するメディアアートのトラックボールを参加者に操作してもらいました。

 

トラックボールは画面上のカーソルと連動していたのですが、接触が悪く思うように動かないときもありました。VR空間にはスペースデブリだけでなく、過去に衝突事故を起こした二つの人工衛星と、それらが出したスペースデブリを可視化させる工夫も加えることで、スペースデブリの危険性と数の多さを解説しました。

 

(サイエンスワークショップは全4回で各回30分の構成にしました)

 

次に、スペースデブリのVRを映した状態でスライドを用いた解説に移りました。スペースデブリとは何か、地球の周囲にどれくらい存在するのか、どういった危険性があるのかなどを簡潔かつ丁寧に伝えるようにしました。スペースシャトルの写真や欧州宇宙機関の動画を使いながら、視覚的にイメージしやすい解説を心掛けました。

 

(来場者には最後まで真剣に聴いていただけました)

 

最初の解説時にはあまり興味を持ってくれてないかな?と思われる参加者も、終わりの方では熱心に耳を傾けてくださるようになって、それがとても印象的でした。また、解説終了後には参加者からいくつか質問がありました。中には「スペースシャトル、ロケット、人工衛星の明確な違いがわからない」、「国際宇宙ステーション(ISS)の補給船である日本の「こうのとり」に人は乗れないのか」などといった答え甲斐のある鋭い質問も投げかけられました。質問に対する返答はほとんどアドリブでしたが、これまで自分自身が興味関心を抱いてきた分野であったため、何とか答えることができました。特に、宇宙ステーション補給機「こうのとり」における有人輸送技術についての参加者とのやり取りは、まさに科学技術コミュニケーションそのものであったと感じています。

 

 

アンケート結果(佐藤淳治)

 

ワークショップでは参加者にアンケートを行い、39人から回答を得ました。ワークショップを通して「宇宙利用や人工衛星、デブリについて詳しくなったか」という質問に対しては、「詳しくなった」が「とても」「まあまあ」を合わせて 82%で、多くの参加者がワークショップを評価しました。

 

ワークショップ後の感想では、複数回答で「人工衛星やデブリに興味がわいた」が 56%、「宇宙についてもっと学びたくなった」が 44%、「VR で科学を学ぶイベントがあればまた参加したい」が 38%、「もっと VR を体験してみたくなった」が 36%と、積極的なものが目立ちました。

 

面白かったコンテンツとしては「人工衛星の VR」「デブリの映像・解説」がいずれも 46% でした。

 

会場が人通りの多いチ・カ・ホということもあり、参加のきっかけで最も多いのは「たまたま近くを通りかかった」の 26 人で、67%を占めました。会場としてのチ・カ・ホの可能性を示したものといえそうです。ただ「CoSTEP のホームページやポスター、チラシ等」を挙げたのは 4 人、「学校で配布されたチラシ」は 1 人と少なく、広報のあり方に問題を残しました。

 

年代別で見ると、10 代は 8 人で、当初想定した中学・高校生はそれほど多くありませんでした。一方、50 代 7 人、60 代 70 代がそれぞれ 3 人と比較的高めの世代が目立ちました。性別では男性 19 人、女性 20 人とほぼ半分ずつでした。

 

(アンケート結果)

 

 

ワークショップの振り返り(小池隆太)

 

私たちメディアデザイン実習のメンバーにとって、サイエンスワークショップの企画・運営は、初めての経験でした。企画を始めた当初、お互いにアイデアを出し合ってもそれを収束させることができずに苦労しました。議論に時間をかけた割にはほとんど何も決まらなかったこともあります。内容が固まった後もタイトルが決まらず、フライヤーの完成や広報活動の若干の遅れにつながりました。また、メンバーそれぞれの仕事、研究活動、海外留学、インターンシップなどが重なったこともあり、リハーサルのリハーサル(リハリハ)の時期になってもコンテンツがほとんど完成していないという状況に陥りました。リハーサルを終えた後、村井貴先生が「破綻のないように。」と仰っていたのを今も鮮明に覚えています。

 

(サイエンスワークショップ後の振り返りはKPT法で行いました)

 

(KPT法での振り返り結果)

 

リハリハの前後でようやく自分たちの置かれている状況に気がつき、急ピッチで準備を進め、何とか本番にこぎつけました。本番も細かい反省点は多かったものの、ワークショップそのものは無事に終えることができました。普段どちらかと言えば専門家の近くにいる私たちが、一般市民に近いところでサイエンスワークショップを開催するという経験ができました。このような貴重な機会を得ることができたのも、CoSTEP関係者、NoMaps関係者の方々、メディアデザイン実習のOB・OGを含む当日お手伝いしてくださった方々のおかげです。あらためて感謝いたします。ありがとうございました。

 

(スタッフみんなで記念撮影!)

 

 

【番外編】メディアアート(中島優花)

 

デジタル技術を活用した芸術作品全般を「メディアアート」と言います。当初、10/20(日)を迎える前の宣伝として流す映像作品としてその名前が上がった時、私はその程度の知識しか持っていませんでした。形にならないものをデジタルの力で表現する、それは私が人生で実現したい事柄とも一致しており、おもしろそうだとそれだけの理由で手を上げました。

 

メディアアートの分野でよく使われている、MITメディアラボが開発したjavaベースのビジュアルプログラミング言語「Processing」を村井先生から紹介していただき、ワープスペースからお借りした地上局で取得した電波を音に変換するという案と組み合わせて、電波に連動して自在に変化するメディアアートを考えようと勉強を始めました。

 

(最初に制作したものは波形そのままの印象でした)

 

しかし、触れたことのないProcessing、3次元空間の座標定義、そして何より「メディアアート」というものについて考えたことがなく、何が正解で何が面白くて何が人の目を引くのかというところに戸惑い、苦戦しました。様々な意見を聞き、形や動き、空間などを変えて試しましたがやはり「電波である」「デジタル」という領域にとらわれ、「波形そのまま」という印象を与えるおもしろくない作品になってしまいます。

 

(MITメディアラボの石井裕副所長の講演に参加してきました)

 

そんな私に変わるきっかけを与えたのはMITメディアラボの石井裕副所長の講演「NoMaps2019 スペシャルキーノート ~未来競創~ & シークレットセッション ~未来への対話~」です。その時私は形にならないものをデジタルの力で表現したいという今までの思いから、それにとらわれて「デジタルだけで表現できるのがかっこいい」という固定観念を持ってしまっており、村井先生の「アナログと組み合わせたら面白い」という言葉にも耳を傾けられずにいました。しかし、授業やネットそして講演で、石井先生のこと、石井先生の作品を知り、デジタルだけでもアナログだけでも表現できない新しい領域を知ることができました。

 

(完成したメディアアート作品「電波の惑星」。電波の音に合わせて光が拡散します)

 

(「電波の惑星」は中央のオリジナルトラックボールで操作ができます。手前には人工衛星の電波を手で感じ取れるデバイスを埋め込んでいます)

 

最終的に村井先生や様々な方のご協力があり、電波の音に合わせて水の出るスピーカーや振動するスピーカーと合わせて、3次元の球を「電波の惑星」に見立て、トラックボールで実際にインタラクションできるような作品に仕上がりました。今回挑戦したメディアアートは自分の価値観や考え方にも大きく影響する経験でした。

 

(制作者として来場者に作品解説を行いました)