2020年02月27日

活動報告

第32回三省堂サイエンスカフェ『大地の呼吸に耳をすます』を開催

2020年2月21日18時半より三省堂書店札幌店BOOKS &CAFEで、第32回三省堂サイエンスカフェin札幌「大地の呼吸に耳をすます ~熱帯泥炭林のCO2循環を測る~」を開催し、約30名が参加しました。ゲストは北海道大学大学院農学研究院生態環境物理学研究室教授の平野高司さんです。聞き手は、村田 祥子さん(同研究室修士課程2年、CoSTEP14期本科映像メディア実習),早岡 英介(CoSTEP特任准教授)がつとめました。

 

(左:村田祥子さん 右:話題提供してくださった平野高司教授)

 

■CO2吸収に果たす森の役割とは

まずはCO2の排出量や地球温暖化について概観しました。1990年以降は過去1000年で最も温暖、中でも最も暖かい年は2015〜19年に集中していて近年の上昇ぶりは突出しています。年間のCO2排出量をみると、ソ連崩壊やアジアの通貨危機、リーマンショックといった社会情勢によって社会活動が停滞すると排出量が下がることが分かります。

 

大気中のCO2に関して、植生の吸収量は29%。大気の44%よりは少ないですが、森の存在は気候変動に大きな影響を与えています。

植物は昼は光合成と呼吸を行い、夜間は呼吸だけなので、CO2の正味の排出量を測るにはその差分で計測します。平野さんによると、森を「一枚の大きな葉っぱ」として考えて、森林スケールでこの正味の排出量や呼吸量を数値的に明らかにしているそうです。
森林より高い観測タワーをたて、風速計とCO2分析計といった観測機器を組み合わせ、森林がCO2をどれだけ吸収しているか出しているかを測ります。こうした観測や研究を平野さんはかれこれ30年続けてきました。

 

(会場は満員御礼でした)

(平野さんらが観測用に設置しているタワー)

 

■熱帯林の現在

アジアやアマゾンにある熱帯林のCO2吸収量は、ロシアやカナダにある北方林に比べると3倍ほどに達します。北方林は冬には光合成量が少なくなることもありますが、熱帯林の吸収量はやはり膨大です。
もし森林が健全であれば、平均すると、毎年A4サイズのコピー用紙20枚の量に匹敵する炭素量を1平方mあたりの森の中に蓄えていくことができるという試算結果もあることが紹介されました。森林のCO2吸収量といわれてもぴんとこないところがありますが、コピー用紙の例で森の重要性を少し理解できた気がしました。

 

しかし世界中で熱帯林に関して、日本の国土面積の15%に当たる量が毎年減少しているとも考えられています。伐採でも大量のCO2が大気中に放出されますが、火災も問題です。世界全体でCO2排出量の経年変化をみたときに、1997年と2015年は突出していました。
ここで、村田さんからクイズコーナーです。このピークに影響を与えた気候変動とは?という質問で、回答はエルニーニョ現象。エルニーニョによる降雨不足や乾燥は、自然発火に大きな影響を与えるそうです。ちょっと易しかったか、ほとんどの来場者が正解しましたが、今回はカフェ中に村田さんによるクイズコーナーを随所にはさみ、アンケート結果でも好評でした。

 

 

■じつは膨大なCO2を蓄えている熱帯泥炭林

平野さんが最近、特に力を入れて研究しているのが、熱帯泥炭林。泥炭とは、植物が完全に分解されず数千年に渡って堆積されてきた土壌有機物です。赤道アジアの島しょ部にある熱帯泥炭の総面積は日本の約1.6倍もあり、厚さが平均5.5m,最大で20mもあるそうです。

会場でクイズとしても尋ねましたが、ある試算では、この泥炭は、世界中の全ての森林が蓄積しているCO2量のおよそ1.7倍という膨大な量の炭素を溜め込んでいて、この泥炭がストックしているCO2が放出されると、世界の気候に大きなインパクトを与えます。

熱帯泥炭では現場までのアクセスが大変です。平野さんは小型バイクに乗った走行距離は15年間でおよそ8000kmにもなり、一番長い距離を小型バイクで走った日本人(?)かもしれないとのこと。沼や池でバイクを押し、毒蛇のグリーンスネイクに遭遇したりといったフィールド研究ならではの苦労話に観客は聞き入っていました。オランウータンにすさまじい力で破壊されたというバッテリーも写真で紹介されました。

しかし近年、オイルパーム(アブラヤシ)農園などの開発によってこの熱帯泥炭林の伐採と乾燥化が進み、分解にともなう大規模なCO2の排出が懸念されています。2015年のCO2排出量は日本の年間排出量の約40%に相当したそうです。

 

(平野さんが見せてくださった現地で入手できるパーム油)

 

また2015年の泥炭で起きた大規模火災は深刻で、大きく報じられました。草木灰をとるための現地住民の火入れなども一因です。視界の悪化による経済被害や健康影響、生物多様性の低下が世界的に懸念されました。
インドネシアはCO2排出量で世界第21位でしたが、泥炭地破壊で第3位のCO2排出国になるという試算もあり、泥炭地におけるCO2の吸収・排出の規模を明らかにする研究がいかに重要であるかを示しています。

 

世界の気候変動を予測する上で欠かせない平野さんの研究に対して、サイエンスカフェ終了直前まで活発な質疑応答が交わされました。私たちもこれから「大地の呼吸」を意識して、熱帯アジアで進む泥炭林の破壊やオイルパーム農園の開発問題を見守っていきたいと思います。平野さん、ありがとうございました。

 

(活発な質疑応答が行われました)

(会場近くで学生たちと乾杯、平野さん、村田さん、おつかれさまでした)